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ガンプラは2次元図面がないガンプラ こだわりのモノづくり(3)(3/3 ページ)

ガンダムのプラモデル(ガンプラ)の設計・製造の世界は、家電や産業機械とは随分と違う設計思想やカルチャーを持つ。ユニークなテーマでいつもと視点を変えることにより、モノづくりのヒラメキが得られるかも!?(編集部)

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 「ガンプラ開発では、アニメーションの世界観についても熟知していないといけません。『モビルスーツ』には、派生機や量産型機、陸用、水上用、専用機(シャア専用機など)など、さまざまなバリエーションがあります。アニメーションの中で、例えば『ザク』も時の流れの中で進化していっています。実際の機体開発の系譜を想定し、共通部分は流用したり、その機種固有の部品を加えたり、改良したり。そういったプロセス自体をガンプラで忠実に再現していくのは、非常に気を使う部分です」(大榎氏)。

 機体が飛ぶのは、空。空といっても大気圏なのか、宇宙なのか……航空と宇宙とでも設計概念は大きく異なる。その機体の特徴を再現するうえで、実在するものとしてとらえ、形状デザインを調整していく。しかしガンプラの開発・設計のメンバーは、このような詳細を作り上げるために、ロボット工学や軍事工学、航空宇宙工学……あらゆる技術分野の専門知識を網羅して熟知していなければならないのだろうか。

 「それはさすがに無理です。私たちはプラモデル設計のプロですが、兵器や航空機の設計のプロではありません。技術資料を集めたり、それを参考にすることはしますが」(大榎氏)。ただし、そういった分野が大好きで、あくまで趣味レベルで詳しい人は部内に多いそうだ。

 実は、彼らの専門外の部分については外部のさまざまな分野のブレーンがカバーしている。例えば、機体についているフィンの形状が正しいかどうかを検証する場合は、大手自動車メーカーなどの空力設計に携わる部門に相談することもあるという。「プラモデルや玩具専門のブレーンさんは少ないですね。あとは、玩具とはかけ離れた異業種ばかりです」(大榎氏)。

 もちろん、リアルな機体をスケールダウンして具現化する技術については、プラモデルのプロたる同事業部の独自のもの。プラモデルのプロたちは、ブレーンのバックアップにより詰めた詳細をガンプラのスケールモデルとして忠実に具現化していく。

 機体の中の詳細を詰めていく過程では、アニメーション設定と設計の間で矛盾が出てくることは当然ある。製造要件と折り合いが付かない部分も出てくる。どうしてもうまくいかない場合は、それに対してしっかりと理論付けを行ったうえ、設計案を修正して調整する。もちろん、アニメーション設定を調整してもらうことはあり得ない。

 最近、とても手間が掛かった仕事は、ガンダムシリーズの最新版「機動戦士ガンダム00」の「ガンダムエクシア」の機体だという。エクシアは、細身で可動範囲が広く、動きが細かくて足の指先まで動く。最新の高度なアニメーション技術による繊細なポージングに耐えられる機構が備わっている。

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写真4 左が初代のガンダム、右がエクシア:つま先の形状を比べてみて(C)創通・サンライズ・毎日放送

ガンプラからの学び

 ガンプラのモノづくりプロセスは理想的に見えるが、個性的でもある。すべての製造業の設計に向いているとは限らない。人の命を預かる製品であったり、組み立て工程が必須であったりすると、しっくりこない部分は当然あるだろう。

 最後に、一般的な製造業でも共通して当てはまりそうな「ガンプラからの学び」を以下にまとめてみた

  • 思い込みや世間の常識にとらわれず、顧客はもちろん、製品やその設計開発に携わるメンバーにとっても「何が一番大事か」を考える
  • さまざまなリクエストの優先順位を熟考し、本当に必要な部分だけ選択する
  • 最新技術を使いこなしつつ、その限界もしっかり見極める。手作業が適する部分はもちろん手作業でよい
  • 密なコミュニケーションが取れる部署構成
  • しっかりと教育の仕組みを整え、若手育成も手抜きをしない
  • 職場のルックスも、働く人のモチベーションアップの重要なポイント

 容易に自動化できない職人技は、容易にマネができない、すなわちライバルや海外のメーカーにコピーされないブラックボックス技術になり得る。ただし、経験と勘の情報をデータ化して管理し、後に続く若い人たちをしっかり教育するという条件付きだ。 (終わり)

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