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日の丸CAE誕生前夜第20回 設計・製造ソリューション展レポート(番外編)(1/2 ページ)

村田製作所で長年親しまれてきた内製CAEが市販化された。その生みの親である同社 技術・事業開発本部 解析センタ 担当部長 岡田 勉氏に、開発開始当時のエピソードや今後の課題などをお尋ねした。

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 第20回 DMS展の会場で、村田製作所 技術・事業開発本部 解析センタ 担当部長 岡田 勉氏にお話をお伺いした。いまから20年以上前の解析ソフトウェア開発事情など、興味深いエピソードを聞くことができた。 その内容を本シリーズ「第20回 設計・製造ソリューション展レポート」の番外編としてお届けする。

 岡田氏はソフトウェアが専門で、機械設計者は彼にとってはユーザーに当たる。機械設計者の仕事内容とは随分違うが、今回の話には共感できる部分や参考になる部分もあるはずだ。

岡田勉氏
村田製作所 技術・事業開発本部 解析センタ 担当部長 岡田 勉氏

満を持して

 村田製作所の製品開発では、設計者が積極的に解析ソフトウェア(CAE)を使っている。あのムラタセイサク君の設計でも、ジャイロ機構(倒れる角度を補正する)やセンサ評価に解析ソフトウェアが使われた。そんな同社の中で長年使われてきたCAE「Femtet(フェムテット)」が2008年6月から市販された。Femtetを専門に取り扱う同社の子会社 ムラタソフトウェアも設立された。

 「もし10年前(1990年代後半)だったら、ありえませんでしたね。実際にその頃、(CAEの外販を)提案したのですが『電子部品に専念するべきだ』とつき返されましたし。まさに流れが来たという感じでした」と岡田氏は話した。

 「村田製作所は新規事業立ち上げに熱心な会社なんです。Femtetが発売される1年前、当社は1兆円規模の企業を目指そうと奮起している頃でして、それをかなえるためにはコンデンサだけを作っていては無理だといわれていました。社内がそんな空気でしたから、製品化の提案がしやすかったこともありました」(岡田氏)。

 いま考えれば、10年前の時点では、外販するにはソフトウェア的に見劣りがしたと岡田氏はいう。それから10年経過したことで、ソフトウェアがブラッシュアップされ、外販に値すると心から自信が持てる1つの製品に熟していた。社内の空気も後押しし、岡田氏の周囲も気持ち的に盛り上がっていた。まさにそれは、「満を持して」という言葉そのもの。

 「しかし26年前、まさかこれがビジネスになるとは夢にも思っていなかったですね……」と岡田氏は、当時を振り返る。

モノづくりより、計算がしたいのや……

 岡田氏は現在52歳。入社30年目だ。*記事公開日時点 同氏が大学を卒業後、村田製作所に入社し、配属されたのは表面波デバイスの生産現場だった。「入社して3年ぐらいは、生産現場の監督をしたり、生産用の治具制作をしたりしていました。理論を使うより、手を使う作業の方が圧倒的に多かったんです。数学が大好きでしたから、本音だと、工作をするよりは、理論的なことを考える仕事につきたかったんです。大学でも産業数学研究室にいましたから」(岡田氏)。

 そんなことを考えていた矢先、岡田氏は現場の片隅にミニコンピュータ(ミニコン)があるのを発見した。大好きだった数学を懐かしむ思いで、コンピュータを操作した。「やっぱり、楽しい!」――これが、すべての始まりだったと岡田氏はいう。

 そして、業務の合間でプログラミングに勤しむ岡田氏の姿が、同社の専務(当時)の目に留まることになる。

 まだ20代半ばの若手社員が書いた振動の解析理論と解析結果に関するレポートは、やがて当時の社長の元に届く。「そんなにプログラミングが好きなら、それだけやりなさいよ」といわれたそう。部署を作るまでとはいかなかったが、プログラムに専念させてもらえる技術管理部に異動になった。いまから26年前のことだ。

 「当時、水晶振動子を使用した電子式の時計は非常に高価でした。まず水晶自体が高価でしたし。それに対抗する振動子を水晶を使わずに作ろうと社内で奮闘していた頃でした」。当時開発していたのは、セラミック発振子。その開発に使う解析プログラムを作った。これが、Femtetの原型だという。

 「こんなことがコンピュータでできんのやね」

 「へえ、面白いね」

と社員たちはくちぐちにいいながら、岡田氏が操作するコンピュータの画面を覗いていく。実験で地道に検証するしかなかった世界が、小さなコンピュータの中で仮想的に展開していく様子が、社員たちにとって興味深かったようだ。

 「この当時は、振動子を解析するソフトが一般的ではなかったんです。研究機関レベルでは使われていたと思うのですが……。まあ、いまの解析ソフトではごく普通に付いている機能なんですが」(岡田氏)。

 「ちなみに、この中にもあるコンデンサの容量を計算する解析もしていたんです」と、岡田氏は自分の携帯電話にぶら下がる「セイコちゃん」のストラップを見せてくださる。

岡田勉氏
コンデンサと村田製作所のマスコット「セイコちゃん」:岡田さんの私物

 「村田製作所はセラミックコンデンサのシェアは全世界でトップです。携帯電話には2百個ぐらい入っています。それが、世界で年間10億台。ここにも解析プログラムが貢献しているってすごいことですよね」(岡田氏)。「ナカハ、ムラタデスカ」という、あのテレビCMが思い出される。

 「このようなコンデンサの容量計算をしたり、機械系だとそうですね……設備の強度計算もしたりしていました。とにかく、社員からの要望に答えながら、さまざまな種類の解析プログラムを作るのみ。ソフトウェアそのものの量産もしていきつつ、ソフトウェアがどんどん成長しました。それがいまのFemtetの7つの解析プログラムへつながっています」(岡田氏)。

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