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ロボットを用いた人材教育の可能性ZMP主催のロボット教育・研究フォーラム

ZMPは同社のパートナー企業やユーザー校の教授らを集めた「実践! ロボット教育・研究フォーラム」を開催した。

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 ロボットベンチャー企業のZMPは2009年7月22日、ロボット教材を用いた研究開発の可能性を探る「実践! ロボット教育・研究フォーラム」を開催した。開催第1回となる今回は、パートナー企業や実際に同社の教育用ロボット「e-novoシリーズ」を教育現場で活用している大学から計10名の講演者(主にロボット研究を専門とする大学教授)を招き、各自の事例やロボット教育に対する考えが紹介された。

 フォーラム開催に伴い、ZMP 代表取締役社長の谷口 恒氏は「昨今、国際的な景気後退によって製造業の構造自体も大きなダイナミズムの波が押し寄せているが、ZMPでは、日本の強みであるロボット技術のニーズがますます高まっていると感じている。そのロボット技術を早期に活用していくためには、まずはロボット技術を広くとらえることが重要であり、それはメカトロニクスの発展系といっても過言ではないと考えている」と述べた。

 また、ロボット教育を取り入れるメリットについては「ロボットとは、例えば家電や自動車を自動化することであったり、知能化することで省エネになったり、安全性を高めたり、ユーザーの利便性を向上して製品に付加価値を提供するもの。ロボット教育を受けたエンジニア(学生)は、メカ、電気、ソフト、制御というシステムの横断的スキルを身に付けている人材である」とし、実際に企業の採用サイドからも「ものづくり現場で問題解決ができる貴重な人材として引き合いが増加している」と語った。

講演者 講演タイトル
ユニファイ・リサーチ 代表取締役社長 兼 東京大学 産学連携本部 共同研究員 五内川 拡史氏 「ロボット教育の可能性」
成蹊大学 理工学部 エレクトロメカトロニクス学科 准教授 柴田 昌明氏 「e-novo BASICとWHEELを用いた学生実験」
近畿大学 理工学部 機械工学科 准教授 原田 考氏 「e-novo WALK ver.3 を用いた大学機械工学系の創成教育プログラム」
慶應義塾大学 理工学部 物理情報工学科 教授 足立 修一氏 「e-novo WHEELを用いた制御教育」
芝浦工業大学 工学部 電気工学科 教授 水川 真氏 「エンジニア教育のための教材開発―芝浦工大&ZMPの事例―」
ZMP 技術開発部 部長 安藤 孝之氏 「これからの安全・環境技術の研究開発をサポートするカーロボティクス・プラットフォームRoboCarのご紹介」
東京工業大学 大学院 理工学研究科 序教 畑中 健志氏 「モバイル倒立振子e-novo WHEELを用いた協調制御」
サイバネットシステム アドバンスソリューション統括部 モデルベース開発推進部 技術グループ 岩ヶ谷 崇氏 「MapleSimによる数式モデルを用いたモデルベース開発 〜プラントモデリングから実機検証まで〜」
ZMP 営業部 部長 西村 明浩氏 「ロボットを活用したエンジニア育成ソリューション ZMP e-novoシリーズのご紹介」
第1回「実践! ロボット教育・研究フォーラム」プログラム

 ZMPは2001年の創業から研究向けにロボット販売を開始し、2004年からは、そのすそ野を広げるべく、教育向けに販売を拡大してきた。この8年間の実績(具体的には導入校で300校以上、台数にして1500台以上の納入実績)を基に、ロボット教材の事例を世に広めることで、ロボット教材を用いた発展的な教育指標、また、新たな教育コンテンツが生まれることを願っているという。谷口氏は「今回の事例を、2回、3回と、回を重ねられるようなフォーラムにしていきたい」と述べた。


ロボット教育の可能性

 以下、ユニファイ・リサーチの代表取締役社長 五内川 拡史氏の講演内容を紹介する。五内川氏は現在、経営コンサルティングの立場から産業のリサーチやさまざまな企業の新規事業立案支援を行っている。その中にロボット産業も含まれており、今回は2006年に経済産業省の委託で行った調査結果のダイジェスト版として「ロボット教育の可能性」をテーマに講演を行った。

 「3年ほど前に、経済産業省が日本のものづくり力の衰退を懸念して、本当に産業界に役立つ人材あるいは現場で国際競争力を持つような人材を教育現場から作っていけないだろうかということで、“産業界のニーズ”と“ロボットを使ってどういう教育ができるのか”という2本柱の調査を行った。まずは産業界のニーズとして、いま、どんなことがあるんだろうというのをヒヤリングした(表1がその調査結果となる)。ロボットというのは、中品種、中量生産というところで非常に強い。また技術トレンドとしては昨今どんどん知能化が進んでおり、ITとの融合といった意見も、各ロボット製造メーカーや、大手電気メーカーから出ている」

ロボット導入の考え方 ロボット技術のトレンドの見方 中小企業への要望 製造人材への要請
メーカー ファナック 長時間無人加工でグローバル・コスト実現 知能化(ビジョンと力覚センサ)、IT化の推進 製造プロセスのイメージ化/システム構築への理解/3Dシミュレータの使いこなし メカ、制御、センサ理解/教示経験を積む/シミュレータ使いこなし
安川電機 中量中品種向き/自動車のタクトに合う コンパクトな双腕ロボットで組立工程などにも進出 ロボットを維持・運用する能力/標準ロボットCELLの導入 システム化への理解と経験/アプリケーションまで含めた生産の理解
不二越 搬入、脱着などに活用/自動車のタクトに合う 大型製品への対応(液晶向けなど)/指先の開発、標準化 加工などの正確な条件出し/チューニングの習得 外部から評価できる基準/総合人材(ケース、人脈)
デンソー 目的、作業、生産性理解、無駄取り、ボルトネック、解消からの発想(数量、品種数、寿命など) 広範なアプリ対応/情報との親和性 目的、生産の平準化などの意識/生産などへの強い意識 徹底した人作り/改善、平準化、コンカレント
三菱電機 バランスが重要(コスト・安全・保守・将来性など) e-Factoryによる生産のIT化/ロボット多機能化の推進 品質、コストなど目的明確化 向上設計、製品設計など、上流から総合的に考える
ユーザー 日立製作所 設計まで含めた生産の見直し、再構築 基板技術を幅広く理解/総合力と直感力
東芝 枯れた技術の自動化/人間に難しい作業のロボット化 コミュニケーション、課題発掘、仮説構築、洞察力、伝承システムの開発
ブラザー工業 質量物の負荷軽減/多品種小ロット・ワーク脱着 設計と設備の相互理解/コンカレント生産の理解
キヤノン カートリッジの自動化/CELLの無駄取り後にロボット化を推進 機械の汎用化、知能化、CELLにおける協調 三位一体の理解(設計、設備、生産)、3DCAD、構造解析、DFM
中堅企業 オージーエー オーバースペックの見極め 知能化ロボット/ティーチングの検討 汎用的な機械の導入/安全性への配慮 エンジニアリング社会における人材育成/知能化運用ノウハウ蓄積
江崎工業 多品種少量に見合った生産現場への導入/エンジニアリング社会活用 指導者を手配する仕組みを渇望/外国人、女性の戦力化
表1 産業用ロボットの人材育成に対する要請 
※「ロボットを活用した製造中核人材育成に関する調査」東京大学先端科学技術研究センター(平成18年3月)において五内川氏が作成

 「顧客としては大手自動車メーカーや中小企業があるが、そういった企業に対し、誰でも簡単に使えるようなシミュレータとしてのロボットを積極的に作ることも求められている。製造中核人材に対する要望としては大きく2点挙げられ、1点目は生産システムの発案能力、統合能力、運用技術。非常に幅広い分野の知識を横断的に組み合わせて1つのシステムとして完成させ、それを現場で使いこなしていくような人材に対する要望が非常に強かった。2点目は、やはり知能化を含めてロボット技術は日々進化しているため、その最先端技術をどんどん吸収して理解していく、ということだった」

 「こうして教育の可能性を考えた場合、やはり座学ではなかなか腹に落ちないという部分もある。座学は基礎の基礎として必要だが、具体的に手を動かしたり、ロボットを媒介にして人と人が教えあう、あるいはロボット自体が場合によっては何らかの教示を人間にしていくというような可能性が考えられる」

 こうした結果を受け、五内川氏らは下表のようにロボットと人間の教示、教え、学びあうという関係を整理した。

人間に対して教える ロボットに対して教える
人間が〜 人間のことを/人間によって 一般教育 動作ティーチング(プログラミング、マスタースレイプ)/ロボットへの技能・技術移管/人工知能の実機シミュレーション/極限作業ロボット
ロボットのことを/ロボットによって ロボットに関する講義/ロボットを使った教育実習/ロボットの操作方法習得/訓練 ロボット間の協調作業の指示
ロボットが〜 人間のことを/人間によって メディア・ロボット/エージェント・ロボット/ロボット・ティーチャー 人間環境・作業代替ロボット/自律模範ロボット
ロボットのことを/ロボットによって (自律的な)故障診断/コミュニケーション・ロボット/ロボット・アシスト・トレーニング(ハワード・スーツ) ロボット人間ネットワーク/群ロボット制御/ロボット間マスタースレイプ
表2 ロボットと人間の教示・学習関係の広がり

 「表を作ってみると、ロボット教育の可能性が広いことが分かる。例えば、人がロボットに対して、自分の要望する動きや技能を教え込むというような関係。そこでは人が先生となり、ロボットが学ぶ側になる。プログラミングを教えたり、人工知能の研究などでは人間の脳のシミュレーションを工学的に再現していこうというような可能性が考えられる。また、人が人に対して教える中にロボットを介在させることによって、ロボット教材を使った教育実習や、ロボットの操作方法を習得していく訓練を行う教材としての使い方もある。この分野については本フォーラムの話題の中心でもあり、市場としても最初にリークしてきた」

 「さらには人間が教えるのではなく、ロボットが人間に何かを伝えていく、つまり人間の方が学ぶという関係も考えられる。例えばロボットが人間に何かを伝えていくというメディアとしてのロボットもあるし、ロボットがある種のエージェントとして何らかの要望を人間に伝えていくというのもある。SFの世界のようにロボットが先生となって人間に教えていくというロボットティーチャーのようなものも考えられる」

 「そしておそらく、今後はロボットがロボット同士で教えあうというような関係もある。ロボット間でネットワークを張り、ある1台のロボットの動きがほかのロボットに伝達される。ある種の群制御/ネットワーク制御で、大元の開発プログラミングそのほかは人間がやるが、いったん現場に出すと、ロボット間で通信をし合い、ロボット同士が教えあうというようなこともあるだろう。その発展としては、ロボット自体が動きを人間に伝え、人間の介護(人間の足の一部になる)といったようなことが起こると見ている」

 「こういった産業界の要望と、ロボット教育のポテンシャルというのを、組み合わせていった場合に、ロボット教育は非常に重要で、期待できる。ロボットは複数の要素技術を組み合わせて使う。ソフトウェア、半導体センサ、メカがあり、材料工学やバッテリーそのほか動力源をどうするかなど、化学も入ってくる。それぞれが先端技術を持っていて、どう吸収していくかというのも1つある。さらにはそれらを統合し、1つのシステムにしていく統合技術が問われる。その中には、工業デザインであったり、生産技術/運用技術なども入ってくる」

技術と技能の人材教育に貢献するロボット教育
技術と技能の人材教育に貢献するロボット教育 
(五内川氏の発表資料を基に作成)

 「そしてそれらの背景には現在、諸科学(心理学/脳科学/認知科学/哲学/倫理/経済学/数学)といった幅広い学問があり、これらの最先端技術が機械知に少しずつ置き換わることで刺激をしていく。あるいは機械知の方から諸科学の方へフィードバックする。これがスパイラルで総合作用することによって、教育のあり方というのがまた進展していくと、考えている」

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