モノづくりIT化の基礎情報ガイダンス:競争に勝つための失敗しないIT導入(3/3 ページ)
そろそろモノづくりの仕組みをIT化しないとマズイ! そんな危機感はありつつも、どこからどう手を付けたらいいのか、自社の戦略とマッチした製品は何か、などなど、謎だらけだ。セールストークにだまされた気分にならないためにも、事前にしっかり準備しておこう。
効果的な導入のヒント
PLMと聞いて、自社には関係のない壮大な規模のシステムをイメージしてしまう向きもあるでしょう。しかし、現在、モノづくりの現場で求められているのは、サプライチェーン・バリューチェーンの中でどのようにして顧客とつながり、どのようにモノづくりのフロー全体を効率化するか、短期化する納期に対していかにアドバンテージを取れるか、といった課題です。
ここで対象となるのは、すでにPDMなどのシステムを導入した経験のある方ならお分かりのように、道具(システム)は上手に導入し、運用してこそ効果が高まるものです。
導入の目的を明確に
当たり前のことかもしれませんが、まずは目的を明確にしなければ、PLMの導入は成功しません。PLMの導入により実現しようとしていることが何なのか? その点について、十分な話し合いを行い、現場を巻き込んだ理解を得ることが必要となってきます。
ここからは実際の導入目的と導入方法にどのようなものがあるのかを、実際に見ていきましょう。
導入目的例:設計工程の効率化
設計工程の効率化については、通常はCAD/CAM/CAEの導入で片付けられることが多いですが、中小企業においては、その大半は成功していないと筆者は考えます。
というのも、CAD/CAM/CAEの導入のそもそもの目的は、「データの共有」と「再利用」にあるはずです。しかし実際のところ、中小企業においては、製図の自動化に終始してしまうことが多いと筆者は感じています。
これでは、図面がきれいになるという効果以外は、ほとんど実現できていないことになります。
本来の目的である「データの共有」と「再利用」を進めるには、設計部門全体を巻き込んだデータの共有化ができる環境の構築が必要になりますが、この程度であれば、簡単なPDMツールで実現できてしまうことがほとんどです。まずはここから始めることが、PLM構築の第一歩であるといえよう。
導入目的例:顧客企業とのデータ連携
現在、中小企業では顧客企業とのデータ連携をいかに実現するかが最大の課題となっていることでしょう。
具体的には「顧客企業が3次元CADを導入し、設計データが3次元CADデータで渡されるようになった」あるいは、「3次元CADデータでの提供が求められるようになったので、それに対応しなければならない」という問題です。大企業がPLMを構築したため、その影響が中小企業にも波及するようになった、と見ることができます。
このような場合、注意すべきなのは、どこまで顧客企業とのデータ連携を行うのかについて、十分に話し合い、合意を得ておくことです。
3次元CADのネイティブなデータのやりとりを求められているのであれば、現状では、顧客企業と同じ機種のシステム導入がほぼ必須となってきます。
3次元CADベンダー各社もデータ変換機能を提供していますが、100%のデータ交換を保証しているものではないことが多くいため、形状の変更履歴や「フィーチャー」まで含めたデータを交換することが求められるならば、現時点においては、同じシステムでないと難しいでしょう。
ただし、3次元の「形状データ」だけを交換するのであれば、IGES(Initial Graphics Exchange Specification)などの中間フォーマットを介せば、異機種でも問題は発生しません。この場合なら自社の業務にあわせて、最適なソフトを選択する自由度を持たせることも可能です。
導入目的例:BOM(部品表)の統合と生産管理・購買システムとの連携
CAD/CAM/CAEの導入とデータの共有、再利用、顧客とのデータ連携が実現したら、次に目指すべき段階は、自社内の効率化でしょう。
効率化を目指すなら、BOM(部品表)の統合と生産管理・購買システムとの連携を目指すことが重要になります。PLMの本来の目的はまさにここにあります。
通常、製造業ではBOMといっても、設計BOM、製造BOMなど、さまざまな工程で用いられるBOMが混在しています。それぞれの段階で管理項目が異なるため、こうした各種BOMの混在する状況はある意味では自然なことです。
しかし、各種BOMがばらばらに管理されていることによる効率の悪さは、日本の製造業における大きな課題になっています。
こうした課題を解決するには、各種BOMを統合するとともに、生産管理・購買システムとの連携を図ることで、設計のみならず、生産からメンテナンス、あるいはリサイクルに至るまでの製品ライフサイクル全般の管理を実現することが求められます。
ほんの数年前まで大企業においてもこうした課題が議論されることはほとんどありませんでした。
当時は、BOMの統合といっても「所詮ムリ」という意識のままの企業がほとんどでしたが、現在では、多くの大企業で、BOM統合の取り組みが始まっています。
大企業を中心としたBOM統合の動きは、PLMベンダー各社から有効なツールキットが提供されるようになったことが、大きく貢献しています。
段階的な導入が成功の秘けつ
筆者は職業柄、今までPLMに関連するさまざまな事例を、国内外を問わず見てきました。その時の経験から、製造業に限らず日本社会の大きな特徴として、現場の意思決定、発言力が強いということが挙げられると筆者は考えます。
PLMシステムは、トップダウンで導入するケースが多いようですが、トップダウン型の場合、導入する目的を明確にすると、一気に大規模なものを導入するユーザーが多い傾向にあります。というのも、意思決定に携わるトップの側では、効果を上げることをどうしても急いでしまうからです。
しかし、実のところ改革というものは、システムの導入だけで実現されるものではありません。仕事のやり方を含めた、仕組みそのものを変えることが重要です。
しかしながら、日本の企業でよくあるのが、業務フローの変更や仕組みを変更することに現場担当者が抵抗して失敗に追い込まれるというパターンです。
かつて、手で描いていた図面をCADに置き換えるという、ただそれだけのことが、現場の激しい抵抗にあって失敗したことは、日本中の製造業において、数多く見られた問題です。何百万円も出して購入したシステムが、誰も使わずにホコリをかぶっていたという例は枚挙に暇がありません。
改革よりも、日本の製造業になじみやすいのは、現場における細かな「カイゼン」ではないでしょうか。そのためには、現場を巻き込んだ段階的な導入をすすめることが重要です。トップダウンで、一気に改革を進める欧米型の手法では、日本国内でのPLMの導入は困難であるといえます。
導入効果をこまめに見せることで現場のモチベーションを上げる
現場でシステムが活用されるための最大の推進力は、当然のことながら、実際に導入効果があるということに尽きます。
現場での導入効果をこまめに測定し、分かり易いかたちで現場に提示することは、PLMの導入を成功させるポイントとなるでしょう。
PLMシステムは導入すれば、必ず一定の効果を上げることができます。これは多くの導入企業によって実証されていることですが、実際の現場では導入の効果を実感し難いことが多いのも事実です。
また、作業手法・手順を変更するのは、現場担当者にとっては大きな負担となりますし、準備・教育にも同様に負担がかかります。担当者のモチベーションを保つ意味でも、導入効果をこまめに測定し、現場に提示することがシステム利用率向上に役立つことでしょう。
こうした取り組みは生産性のみならず、モラルの向上にもつながります。いい換えるならば、PLMの導入の成否は、実際にシステムを使う現場にかかっているといえるでしょう。
PLMシステム導入検討の前に確認しておきたいことのまとめ
最後に、モノづくりの効率化とチャンス獲得を目指す皆さんに向けて、本稿のまとめを示しておきます。導入を検討したい、あるいは効果的な改善を目指している方はぜひ下記の項目を頭に入れておいてください。
いわゆる「PLMシステム」とはなにか PLMは、生産からメンテナンス、あるいはリサイクルに至る製品のライフサイクル全般を管理する概念である
どんなプレイヤーが存在するか PLMを提供するベンダーは、持っている製品や技術、目指す方向性により、いくつかのタイプに分かれる。システムを構築するにあたって、最適なパートナーを選ぶことが重要である
構成する製品はどのようか PLMを構築する製品は、具体的には、CAD/CAM、PDM、CAE、デジタルファクトリーなどである。代表的なシステムは前述の通りだが、あくまでも自社の目指す目的に合った製品を選択し、システムを構築することが重要である
導入の効果を最大限にするために必要なことは何か 効果的なシステム導入をめざすには、まずは目的を明確化するとともに、現場を巻き込んだ段階的な導入をめざすことが求められる。そして、システムが活用されるためには、導入効果をきちんと出していくことと、それを現場に提示していくことが重要である
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本稿で紹介した内容が皆さんのモノづくりの仕組み改善の参考になれば幸いです。
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