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コンピューターの中で、羽根車を回す実務経験者が教える! ターボ機器の設計解析の勘所(4)(1/2 ページ)

メッシュを使ってどのような解析を実行するか、解析にはどのような種類があるかについて解説する

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 第1回第2回は3次元解析へ入るまでの過程を説明しました。前回は、3次元流体解析の第1段階である「メッシュ生成」について説明しました。おさらいしますと、空気が流れる空間を「メッシュ」で細かく刻み、温度や速度、圧力などを計算する「格子点」を定義する作業が「メッシュ生成」です。


図4.1 3次元流体解析のフロー

 では今回は、そのメッシュを使ってどのような解析を実行するか、解析にはどのような種類があるかについて説明したいと思います。


どのようなコンピュータを使うか?

 まず、解析に必要なものはコンピュータです。コンピュータといっても、メールの送受信に使うようなネットブックから、地球規模の気象予報や人間相手のチェスの対戦に使われているような超大規模のスーパーコンピュータまでさまざまです。また、パソコンのカタログを見ても、数万円のものから数十万円のワークステーションまで幅が広く、実際の設計現場でも設備更新の時期にどのパソコンを選ぶか迷われた経験があると思います。

 ターボ機械のCFD設計では、CPUは速い、そしてメモリ容量とハードディスク容量は大きいに越したことはありませんが、メッシュが数十万点から100万点規模のターボチャージャやポンプのCFD解析では20万〜30万円程度の「ワークステーション」と呼ばれる部類のもので実行できるでしょう。ただし、CFD解析に使うパッケージの仕様によって左右されますので、実際に導入される時点で確認されることをお勧めします。

 また、ジェットエンジンやタービンなど、メッシュが数百万点規模になる解析や、非定常解析(詳しくは後述します)を実行する場合は、解析するメッシュの領域を分割し、複数のワークステーションやCPUで並列的に計算する必要があります。

実験とシミュレーションの共存

 さて、コンピュータを用意して、メッシュを切って、3次元解析を実行するわけですが、ここで重要なことは、3次元解析では「実際の流れをシミュレーションする」ということです。従って、実際にはあり得ないような流れはシミュレーションできません。流体解析を行う大きな目的は、実験で計測できない流れ場や実験できない状況を確認すること、シミュレーションにより実験にかかるコストを削減して効率的に設計することです。

  図4.2は、一般的なターボチャージャの圧縮機の性能曲線を模式的に示したものです。


図4.2 一般的なターボチャージャの圧縮機の性能曲線

 横軸は質量流量(単位時間当たりで流れる空気の重量)、縦軸は全圧比(圧縮機の入口と出口の圧力比)です。

 また、実験では図4.2の赤丸のポイントを計測しますが、以下のようにすることで圧力比が得られます。

  1. 羽根車をモーターで回す:回転数がインバーターで制御できる
  2. 所定の流量にするためにバルブを調整
  3. 空気が吸い込まれて出口の圧力と温度が計測される

 ここで、以下のようなことが分かります。

  1. 羽根車の回転数:モータのメーターで計測
  2. 出口圧力:計測値
  3. 流量

 ほかに必要な情報はどのように得られるのでしょうか?

 まず、全圧比に必要な入口圧力は大気中の空気を吸い込んでいますので、大気圧となります。また入口温度も同じく大気温です。入口で空気が流れる方向はダクトから羽根車の軸に平行になっていると仮定できます。

 よって、以下の情報が得られました。

  1. 入口:大気圧、大気温、軸に平行に流入
  2. 出口:圧力と温度の計測値と流量
  3. 羽根車:回転数(温度を基に補正されています)

 これらが、性能曲線を得るための情報と流体解析を行ううえでの条件になります。


図4.3 空気の流れ

 例えば実験で想定していた圧力比が得られなかった場合などは、羽根車を改良することになります。その改良した羽根車を試作して再度実験して性能を確認することもできますが、改良したモデルのCADデータを試作には回さずにその場でコンピュータへ送り、性能確認します。これがシミュレーション、流体解析です。

 解析に必要な情報は、3次元CADデータはもちろんですが、運転条件(解析条件)は先の実験と同じ数値を用います。そしてバーチャルな実験を行います。上の入口、出口、回転数の条件が、流体解析では「境界条件」と呼ばれることになります。これは改良設計の場合ですが、新規設計の場合は初めから数十モデルに対してシミュレーションを行って、その中から選び抜かれた羽根車を最終的に実験で性能確認するといった方法も取られます。

 羽根車であれば、実験を行うにもそう高いコストにはなりませんが、これが何十種類にも及ぶ場合、または実験対象が羽根車ではなく自動車の車体、航空機の機体などになるとたった1回の実験でも相当なコストになります。航空機に及んでは、高度数千メートル上空を飛行中の主翼表面の流れなどは実際に計測できませんよね。

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