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LED室内灯の開発に役立つ熱流体シミュレーション(3/3 ページ)

全世界的な温室効果ガスの低減に向けた動きに対応して、さまざまな工業分野で環境負荷を低減する製品の開発が進められている。自動車照明の分野でその中心となっているのがLEDである。ハロゲン電球やHID(高輝度放電ランプ)をLEDに置き換えることにより、消費電力の低減や、照明部品の長寿命化による廃棄物量の削減などが期待できる。本稿では、そうしたLED室内灯の開発における熱流体シミュレーションの有用性について解説する。

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室内灯全体の温度評価

 最後に、LED室内灯全体について、実測/シミュレーションでの評価/検証を行った。LED室内灯の温度評価を実際に行うために、写真2のような試験装置を製作した。室内灯は、車両の天井に相当する樹脂板にはめ込まれ、さらにその上部には車体の屋根を模した樹脂板が設置されている。そのため、 LEDで発生した熱は、ヒートシンクを介して2枚の樹脂板の間の空間に対して放出される。試験は、さまざまな環境温度で実施する必要があるため、装置全体を恒温槽内に入れて行う。このとき、装置は出射光が下向きとなるように設置する。


写真2LED室内灯の試験装置
写真2 LED室内灯の試験装置 室内灯が車両内に設置される状態を模している。

 シミュレーションについては、室内灯試験装置の計算モデルを準備する。同モデルは、右側のマップランプを点灯した状態を模擬するために、右半分のみをモデル化した。このモデルにおいて、放熱はヒートシンクの周辺だけで行われることになる。すなわち、試験装置よりも樹脂板を小さくすることで、計算に必要なメッシュ数を制限することが可能である。また、試験装置の外枠も省略した。

 LED室内灯の試験は、試験装置を恒温槽内部に配置して行う。それに当たっては、内部撹拌用のファンによる循環流の影響を小さくするために、装置全体を紙製の箱で覆って温度を計測した。ただし、循環流が装置の設置された金網の下部を通過するので、室内灯の温度に影響を与えている可能性がある。一般に、循環流の流速は3〜5m/sとされているが、実験は室温に近い温度で実施したので、ファンによる循環流速は比較的小さいと考えられる。そこで、シミュレーションは、2m/s、3m/s、4m/sのそれぞれ一様な流速(一様流)を条件として実施し、試験結果と比較した。計算条件は、実測試験と同一とし、LED1 個当たりの負荷電力0.30Wの85%が熱に変換されると仮定した。抵抗などを含む総発熱量は1.27Wで、環境温度は28.7℃である。

図4室内灯試験装置のシミュレーション結果
図4 室内灯試験装置のシミュレーション結果 試験装置の中央断面の様子を表している。カソード部の温度に対して、循環流に相当する一様流やヒートシンク直上の空気流速が影響を与えていることがわかる。

 撹拌用ファンによる循環流の影響をシミュレーションにより検討する必要がある。そのため、図4のシミュレーション結果(速度ベクトル図)のように、試験装置(LEDマップランプユニット)のほぼ中央断面部において、ヒートシンクと樹脂板(車体の屋根に相当)に挟まれた領域の空気速度とLEDのカソード部温度との関係を調べた。環境温度は、実験と同じく28.7℃とした。

 実験により計測されたカソード部温度は、57.1℃である。カソード部温度の計算値は、一様流の速度が2m/sの場合に58.7℃、3m/sの場合に 54.3℃となることから、実験値(57.1℃)を計測した際の循環空気流速は2〜3m/sの間である可能性が高い。また、これらのシミュレーション結果から、ヒートシンク−樹脂板間の流速は一様流の速度の3〜4%程度であるにもかかわらず、カソード部の温度に大きな影響を与えていることがわかる。なお、室内灯の樹脂製ハウジングは熱伝導率が低いため、温度が高い領域はヒートシンク周辺のみとなっている。

 LEDのTjは、カソード部温度である57.1℃と負荷電力0.30Wから、81.7℃と推定される。従って、Tjの最大許容値をTjmaxである 130℃とすれば、48.3℃の余裕があり、単純計算では環境温度77.0℃まで使用可能ということになる。ただし、恒温槽での試験は循環流の影響で、温度が低く計測される傾向にある。そのため、適切なジャンクション温度の推定は、この点を考慮して慎重に行う必要があるだろう。

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