トヨタの意匠 少し昔の事情といまの課題:トヨタのカーデザインとデジタル生産(前編)(2/3 ページ)
従来の自動車開発は、デザイナ偏重。人の感覚のアナログ値基準では「ムダ、ムリ、ムラ」がどうしても発生する。
デザイン(意匠)とCAD
ここでは、以下について簡単に説明していく。
- デザイン工程における技術の概要
- 実際のデザイン(意匠)工程
- デザインの曲面評価法
1970年代前半、コンピュータの導入以前では、新企画の自動車のイメージスケッチからクレイモデルを創成し、これをレイアウトマシンで測定して、ボディ外形線図を作成していた。
プレス金型用モデルは、クレイモデルを基準にして作成した。これらのモデルは、デザイナと金型設計者の指示によって直接修正されていたため、プレス金型の形状データは、修正後のモデルを測定してから作成することが余儀なくされた。
CADがない時代の作業では、デザイナが線図を手書きし、それを基にクレイモデルを作成していた。すべてアナログ値なので、当然、データには個人差があり、標準化などもしにくかった。つまり、モデルの製作期間やコスト、人員に大変な「ムダ、ムリ、ムラ」があったわけだ。
1970年代の後半になるとコンピュータが導入され、デザイン・試作部門で用いられたCADのことを「デザインCAD(Design CAD)」と称した。当時の一般的な自動車デザインの主要工程を図2に示す。
まず、クレイモデルの測定データをデザインCADに渡す。次に、3次元グラフィックス上で、デザイナの意図したモデル形状作成を行うため、キャラクタライン、面創成、フェアリング(形を整えること)を重ねる。そして、デザイン部門の3次元ソリッドCAD/CAE/CAM/CAT/Networkシステムでモデル作成したデータを基にして、同時5軸制御のNC工作機械で1分の1クレイモデルを作成する。
デザイン情報のデジタル化
デザイナの持つ感性や経験値によるアナログ情報を、CADを用いてデジタル情報にすることにより、クレイモデルレスも実現でき、後工程の作業能率や精度は極めて向上する(デジタルマニュファクチャリング)。
デザイン部門で作成したモデル形状データは、次工程の製品設計、金型加工、製品検査など……どの部門であっても使えるようなデータであることが望ましい。これを「データの一元化」または「PLMデータベース(Product Lifecycle Management Data Base)」という。
現在では、3次元CADによるデザインが積極的に行われている。例えば、スタイリングデザインからエクステリアボディーまでの各部品の基本形状作成の際の面データのスムージング作業(ハイライトおよび曲率変化を滑らかにする。デザイナの美的要求の1つ)では、人間の持つ感性基準(アナログ量)から、数値基準(デジタル量)に置き換えられて作業が行われるようになった。
デジタル情報を基準としたデザインCADによるプロセスを概観すると、図3に示すようになる。
図3の横軸は時間を示し、コンセプト段階、アイデアの具現化と立体化の段階と進む。縦軸は作業を示し、CAS、CAD、CAMの各工程の階段を下るように進む。
ここで注目しておきたいことは、デザイン内部で、デザインに関する複数の作業が並列化され、分散作業が進められることで、全体の効率が非常に良くなることである。
例えば、並列作業の際、デザインと設計部門との間で食い違いやミスがないように、関係者合同でミーティングが行われる。すなわち、これが先述のコンカレントエンジニアリングである。
統合CAD化とは
従来のような2次元の製作から、3次元CAD/CG活用への移行を図っており、自社開発ツールのレンダリング機能やその精度などを強化している。その1つとして、トヨタ自動車では、1995年から統合CAD化が進められた。
トヨタ自動車のデザイン部システム室では、デザイン業務の統合化のシステムとして、コンセプトやイメージなどの意匠を具現するシステムとして、3次元CGソフト「Alias Studio」(オートデスク)と2次元CGソフト「Photoshop」(アドビ システムズ)をメインに採用している。また2次元データを立体化するに当たってはサーフェスモデラー(3次元スタイルCAD)の「STRiM100」を用いる。
ここで見ておきたいのは、2次元のPhotoshopで作成したデジタル情報を3次元スタイルCADで活用する点である。まずPhotoshopで作成した実車モデルをそれぞれ「xy」「yz」「zx」の2次元座標に展開する。次に、対応する番線で高精度に割り付けられた座標値から、立体空間に配置された3次元モデルの実車体(ワイヤーフレームモデル)をスタイルCADで作成する。さらにそれを基にして、上の図2で示したように、クレイモデル製作用の直彫りデータ(NCデータ)を支給する(後編でも説明する)。この工程においても、いかにデジタル情報を一本化および共有化して、効率よく次の工程に現作業を持っていくかが鍵となっていた。
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