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3Kから5Sへ。華麗なる変身を遂げた町工場経済研究所 研究員は見た! ニッポンのキカイ事情(1)(1/2 ページ)

経済研究所の研究員が、さまざまな切り口で加工技術や現場事情を分かりやすくレポートするシリーズ。よりよい設計をしていくために、加工事情について知識の幅を広げていこう。(編集部)

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 モノづくりは多種多様な工程から成り立っています。小さな機械部品を1つ造るだけでも「設計」から始まって「鋳造」「切削」「研削」「放電加工」「磨き/仕上げ」「検査」といったいくつもの工程をたどっていく必要があります。

 加工工程への十分な理解がないまま設計・製図された図面は、得てして技術的にもコスト的にも厄介な代物になりがちです。そのため、設計者がよりよい設計を行うためにはモノづくり現場で「どんな工作機械を使っているのか」「どんな技術上の特徴があるのか」といったことを幅広く知っていく必要があるのではないでしょうか。

 筆者は機械振興協会 経済研究所という組織の研究員として国内外を問わず多くのモノづくりの現場を常日ごろから拝見しています。本連載ではその中でも、設計者の方々が普段目にされる機会のあまりない中小企業の優れたモノづくり現場・加工技術をさまざまな形で紹介していきたいと考えています。

 今回は連載1回目ということで、実際に中小企業のモノづくり現場を訪れてみることにしましょう!

1.F1マシンの部品を手掛ける町工場

 ところで、皆さんは「町工場」と聞いてどのような連想をされるでしょうか?鉄の切削片が舞い火花が散る、夏は暑く冬は寒い「きつい(KITSUI)」「きたない(KITANAI)」「きけん(KIKEN)」な「3K」がそろった職場ですか? それとも、初老の技術者達が生涯をかけて会得した神業のような技術を使って、薄暗い中で黙々と作業をする道場のようなイメージでしょうか。はたまた、好不況の波に翻弄(ほんろう)される映画“寅さん”(「男はつらいよ」)の“タコ社長”の姿でしょうか。どれもこれも決してよいイメージではないですよね。あ、ちなみに先にいっておきますが、タコ社長の会社は印刷屋ということは分かっていますよ。

 筆者は休日に映画やTVを見たり、通勤途中に漫画雑誌を読んだりするのが好きなのですが、そこに出てくる「町工場」は多かれ少なかれ、いまだにそんなステレオタイプのイメージで極端に描かれていることが多いように思います。しかし、世の中にはそんな世間一般のイメージとは大きく外れた町工場が幾つもあるのです。

 その1つ、今回は神奈川県横浜市都筑区に立地するイシイ精機を訪れてみましょう。

 新横浜駅からバスに揺られること10分、工場が立ち並ぶ「新横浜テクノゾーン」の一角にある、一見すると貸し事務所のような決して大きくはない3階建ての建物が今回紹介するイシイ精機の本社です(写真1)。

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写真1 イシイ精機本社:一見、貸事務所(?)のような建物です。初めて同社を訪れたとき、この建物が工場と分からず道に迷いました

 筆者はイシイ精機社長の堺裕之さんとはある公的機関主催の研究会を通じて飲みに連れて行ってもらい、数年間にわたって親しくお付き合いさせてもらっています(写真2)。

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写真2 イシイ精機 社長 堺さん:いつも飲みに連れて行ってもらっています。中小企業の経営者の憩いの場、大田区蒲田の飲み屋がお気に入りです

 イシイ精機の創業は1968年(昭和43年)、操業40年以上のなかなか古い企業です。

 同社はもともと、横浜市港北区日吉(筆者の母校のすぐ近く)に立地していたのですが、2005年(平成17年)に現在の場所に移転してきました。同社の資本金は2000万円、従業員数13名(平成21年1月現在)で、いわゆる小規模零細企業・町工場の1つです。

 では早速、扉を開けてモノづくり現場の風景を幾つか見てみましょう(写真3)。

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写真3 とても明るくきれいな工場:筆者も自分のデスクを片付けないと

 建物の外観からはまるで想像がつかないような世界が広がっています(失礼!)。

  床は明るい空色に塗装され、工作機械や機械工具が整然と陳列されていることが分かるでしょうか。さらに工場内は加工に最も適した室温(21度)になるよう常時設定されています。また、町工場では通常、灰色などくすんだ色の作業着を着ることが多いのですが、同社では従業員・技術者の方達が黒色の洗練されたユニフォームを着用して作業に従事されています(写真4)。

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写真4 ユニフォームの黒色が床の水色に映えます

 筆者は国内外を問わず幾つもの工場を訪問させて頂いていますが、従業員数13名の町工場でここまできれいなモノづくり現場を構築されている企業はそうはないと断言できます。決して「広大な工場」といったわけではないのですが、5Sなどモノづくりのエッセンスが凝縮されています。読者の方にとっても一見の価値があるのではないでしょうか。ちなみに筆者はいままで都合3回、同社を訪問しています。3回とも違う方をお連れしたのですが、皆さん一様に驚いていました。

 そんなイシイ精機は「治具研磨」という加工技術に特化した、国内外でも非常に珍しい企業です。「治具研磨? それは一体なんなの?」と思った読者の方も多いのではないでしょうか。かくいう筆者も社長の堺さんとお知り合いになるまで、治具研磨加工のことをまったく知りませんでした。いや、恥ずかしい。筆者を含めてよく間違える方がいらっしゃるのですが、治具研磨は「治具を研磨する技術」のことではありません。経済学を勉強してきたバリバリな文系の筆者には少々難しいのですが、同社HPによると治具研磨とは、「ピッチ精度を出しながら、その位置にある丸穴の径や角穴寸法、異形状寸法をそれぞれ千分の一単位で加工することができる」技術のことです。簡単にいい換えるならば、「ワークに開いている穴などをミクロン単位で研削盤によって仕上げる技術」とでもいえばよいのでしょうか(写真5)。

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写真5 治具研削盤を使った加工の真っ最中:ヘッドホンで集音したわずかな研磨の音を頼りに、ミクロン単位で加工をしています。鋭い眼差しとともに職人技が光ります

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