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インダストリアルエンジニアリングの重要キーワード磐石なものづくりの創造−IE概論(2)(2/3 ページ)

本稿では、ものづくりの経営改善手法であるIE(Industrial Engineering:経営工学)の基礎知識について、その生い立ちから、基本的な手法とその用途、さらに改善実践での心構えなどを紹介する。

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IEの対象となる領域

 IEの分野は経営全般にわたり、とても広い範囲を改善対象としていますが、領域を大きく区分すると現場の第一線の管理者クラスが中心となって行うIE活動と、専門家が行うIE活動とに分けられます。また、管理の面から分けると、前者は作業管理に、後者は生産管理や経営管理の面にIEの手法が適用されます。

 図2は、現場の管理者と専門家のIE活動の領域を示したものです。このなかでも特に、基礎IEの領域は、前回のIE概論(1)でも触れたように、テイラーやギルブレスによって、もともと現場の管理者が自分の職場の労働効率を引き上げるために考え出された手法です。

 基礎IEを確立したテイラーもギルブレス自身も、現場管理者として活躍した人たちです。ですから、基礎IEは第一線の現場の管理者の手で活用されてこそ効果が発揮され、現場管理者の管理意識を変革するのに極めて役立つ道具であるといえます。

 基礎IEの現場管理者クラスへの定着化によって、従来のIE専門家は、近代IEの各種の高度技術を駆使し、広範囲に及ぶシステム設計を行い、マネジメントの革新に参画していくのがこのごろの傾向ですし、こうあるべきだと考えます。つまり、現場管理者のIEと、専門家のIEが車の両輪のごとく協調・協働して、最大の成果が創出されていくスタイルが最良の状態だと思います。

図2 IEの領域
図2 IEの領域

現場の管理者と基礎IE

 経営規模や領域拡大につれ、IEで扱う範囲も広く複雑になってきましたが、出発点はすべて基礎IEにあります。

 IEの発祥以来の中核をなすもので、現場が管理された状態を維持していくために、現場の管理者は、まずこれだけは完全に身に付けておく必要があります。

 基礎IEは、前回のIE概論(1)でも述べたように、一般に図4に示す「改善の技術(Method Engineering)」と「測定の技術(Work Measurement)」の2つの技術から成り立っています。この2つの技術をよく理解して、現場の管理者に求められる管理の職務を遂行していただきたいと思います。

基礎IE

改善の技術

 現在やっている仕事を細かく分析して、どこに、どのような「ムダ」があるか、どのようにすれば、もっとムダのない仕事の方法を考え出すことができるかをハッキリさせるための技術です。動作分析、作業分析、工程分析などの手法と、その分析結果を整理して、検討する方法から成り立っています。

測定の技術

 現場の管理者が自分の職場の仕事が「ムダ」なく行われているかどうかを知るための物差しであり、仕事に必要な正しい時間を決めるためのものです。作業測定は、正しい標準時間を求めるための技術的方法です。


現場の管理者と「改善の技術」、モーションマインド

 現場の管理者にとって、「改善の技術」で大切なことは、分析の方法ではありません。分析の方法はどうであろうと、分析した結果をどのようにうまく問題発見などの処理をし、効果的な優れた仕事の方法を考え出すかがポイントです。改善の技術では、分析の手法はむしろ従で、ものの見方・考え方をベースとした改善の腕前や自信が重要です。

 ただ、こういう腕前や自信を身に付けるためには、改善の技術、例えば工程分析、動作分析のような分析手法を使って経験を積んでいくことの方が自己流の改善よりははるかに有効であることは疑う余地はありません。従って、私の経験では、現場の管理者にとっては、改善技法を繰り返し、繰り返し活用することによって改善の技能や自信を身に付けていく方法しかないように思います。最終的には、改善に対する独特の「ものの見方や考え方」ができるようになり、これをIEでは、モーションマインドと呼んでいます。

 モーションマインドとは、以下の3項目を総称した概念です。

  • 人間の仕事の仕方の「ムダ」が理解でき、それがいつも気になるような感覚(ムダ発見の技術)
  • 「ムダ」の多い仕事の仕方を改善する定石を常識として持っていること(ムダ排除の技術)
  • 効率よく、うまい仕事の方法を考え出す手順が習慣として身に付いていること(作業設計の技術)

 モーションマインドを身に付けることは、職場内でIE活動を展開するうえで重要なことです。さらにもっと細かく分析して、精密に新しい仕事を考え出す必要がある場合には、IEの専門家を利用するのもいいでしょう。要は、現場の管理者は、改善の技能を身に付け、ムダを排除するとともにIEの専門家を十分に活用して生産性の向上を図っていくべきだと考えます。

現場の管理者と「作業の測定」

 作業の測定とは、本来は標準時間を決めるための技術です。標準時間というのは、標準の作業条件の下で通常の能力を持った人が、無理のない速さで仕事をしたときに必要とする作業時間のことをいいます。作業測定の手法を正しく適用すれば、目的に応じた正しい標準時間を決めることができます。

 現場の管理者にとっては、標準時間を決めることよりも、決められた標準時間を自分の職場の経営や管理のために、どのようにうまく活用するかということの方が重要です。

 標準時間は、現場の管理者の第一の任務である労働生産性(注)の向上という目的の達成率を知るための尺度として利用されます。

 この労働生産性の向上を図るために、現場の管理者の皆さんは標準時間の意味や、この時間がどのような過程を経て決められたものかを理解している必要があります。

 標準時間を把握していれば、具体的な作業割り当ての際に無理や無駄のない指示を与えられます。なによりも、どれだけの時間をかけて、いつ完了すべきかを、自信を持って指示できるし、自信を持って作業者の仕事の仕方を指導することもできます。標準時間を決めることはIEの専門家に任せるにしても、標準時間がどのように決められるかについては、十分に理解しておく必要があります。


注:労働生産性は、産出量を、生産に投入された労働力で割った比率で表される。
<産出量>÷<投入された労働力>=<労働生産性>


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