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競争戦略の優劣を診断する5つの条件とは?マイケル・ポーター教授のものづくり競争戦略(3)(1/4 ページ)

最終回は正しい競争戦略を持っているか自己診断する内容だ。イケア、パッカー、ZARAといった成功事例も語られる

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マイケル・ポーター教授

経営学における競争戦略論の創始者であるハーバード・ビジネス・スクール教授、マイケル・E・ポーター氏の日本講演「グローバル市場におけるものづくり競争力」を全3回の連載でお届けする(編集部)

 マイケル・E・ポーター教授の講演録をお届けする本連載は最終回である。今回は講演参加者(もちろん読者も含めて)の企業が正しい競争戦略を持っているかどうか、5つの判定条件を用いて自己診断していく内容だ。その過程でイケア、パッカー、ZARAといった優れた戦略を持つ企業の分析も語られる(前回に戻る)。

 そして講演の締めくくりとして、世界的な大不況を迎えた現在の経営環境で、ものづくり企業はどう振る舞うべきかというアドバイスも示される。それでは、ポーター氏の言葉に耳を傾けていただこう。

ユニークなバリュー・プロポジションを持っているか?

ポーター:ご出席の皆さんに提案をしたいと思います。戦略の設計について、5つの基本的な条件があります。皆さんは、これを達成しなければなりません。この5条件をこれから簡単に説明していきますから、皆さんの事業に照らして条件を満たしているかどうか、考えてほしいのです。いわば「戦略のテスト」ですね。いいですか?

 最初の条件は、バリュー・プロポジション(顧客に提供する価値)がどれだけ他社と違っているかです。バリュー・プロポジションとは、次の3つの質問に答えることです。

  • どんな顧客に価値を届けようとしているのか。どうやってその顧客を定義するか。その答えは、競合他社と違っていなければならない
  • その顧客の持っているどんなニーズに対して、どんなユニークな手段で特別な価値を提供しようとしているのか。製品やサービスのどこがユニークなのか
  • 価格はどうするのか。プレミア価格を付けるのか、業界の標準的な価格とするのか、標準以下の価格を設定するか。どの価格設定も有効なバリュー・プロポジションとなり得るが、自社として独自の確立された答えを持っていなければならない

 この3つの質問に対して、皆さんの答えが競合他社の答えと同じだったなら、「ははあ、あなたは戦略を持っていませんね」と私はお答えするでしょう。同じような顧客の、同じようなニーズに対して、同じような価格の商品を提供していたのでは、戦略とはいえません。それは業務改善にすぎないのです。同じことを他社より上手にやり遂げることは、大変難しい競争に身を置くことになります。

 もし他社とは違う答えをお持ちなら、あなたは戦略を持って競争していることになります。ユニークなポジションで戦おうとしているわけです。これが戦略策定における最初のテストです。この点について、いくつかの事例を紹介しましょう。まずはイケア(IKEA)です。

 イケアは世界的に大成功を収めている家具メーカーで、自社店舗を持ち、魅力的な低価格が特徴です。私はイケアの家具を持っていませんが、若い世代の顧客に大変人気があります。イケアの顧客は、若い家族やアパートに住む学生などで、住居空間が狭く、あまり収入が高くないため価格に敏感で、しかし学歴があり洗練されていて、優れたデザインを求めています。それがイケアのターゲットとする顧客とニーズです。彼らは低価格であることを重視します。家具にたくさんお金を払えるわけではないからです。

 イケアは一般的な家具メーカーとは大きく異なったバリュー・プロポジションを提供しています。皆さんはイケアを最高の家具メーカーだと思いますか。いいえ。少なくとも私は好きじゃありません。イケアの家具を買うことはないでしょう。イケアは、私のニーズに合っていません。

 でも私の娘はイケアが好きなんです。娘はペンシルバニア大学に通っています。彼女は大学の近くの学生寮に8人の同級生と相部屋で暮らしています。彼女は賢くてファッションにうるさい女子大生です。しかし広い個室は持っていませんし、お金もありません。私が彼女に会いにフィラデルフィアへ行くと、いつもイケアに連れて行けとねだるんです。なぜなら、私はレンタカーを借りて彼女の住まいまで行くのですが、イケアで買った家具を運んでもらういいチャンスだと思っているらしいのです。

 ここが肝心なところです。戦略とは、ある特定の顧客を不幸せにするよう、あなたに要求します。これは日本のものづくり企業には非常に難しい要求みたいですね。戦略とは、例えば私に嫌われるようなことをすることです。なぜなら、誰からも好かれるモノを作っていたのでは、ユニークな価値を生み出していないからです。

 ユニークなバリュー・プロポジションとは大変込み入った概念ですが、イケアはこれを理解する適切な事例となるでしょう。最高の製品を求めず、ある限られた顧客にユニークな価値を提供するのです。すべての顧客ではなく、すべてのニーズでもありません。リンゴを切り分けるのにさまざまなやり方があるように、顧客から特定のニーズだけを切り出すことが可能です。そしてビジネスに本当に必要なのは、ある一切れのニーズだけなのです。ここが戦略の重要なところです。

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