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羽根車の詳細設計でQ3Dを活用する実務経験者が教える! ターボ機器の設計解析の勘所(2)(2/3 ページ)

満足のいく結果が出るまで、準3次元流れ解析による計算を繰り返し、羽根車の詳細形状を作り上げる。

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 羽根角度分布で特に、入口から喉部までの負圧面側の角度変化が重要です。すなわち、マッハ数の大きい領域で大きく転向させると損失が発生するので注意が必要となります。

 創成された羽根形状は準3次元流れ解析の計算前に、各社が持っている設計基準にのっとって形状の評価が行われます。評価方法は各社各様ですが、一般に行われている評価の一例を以下の図2.5に示します。

 子午面の曲率は流路内での流れの加速に影響するので注意が必要です。ハブ面よりも相対速度の大きいシュラウド側での影響がより大きくなります。


図2.5 子午面曲率分布

 一般には、シュラウドの曲率「1/Rs」は出口半径R2との比で、


に収めることが好ましいとされています。


図2.6 Wrap Angleの分布

 入力されたデータから創成される羽根形状を正面から見ると、羽根前縁から羽根出口にかけて羽根は周方向に広がっています。これは「Wrap Angle」(θ)といわれ、子午面の輪郭と羽根角度から決まるパラメータです。羽根が周囲方向に大きく展開されると羽根の濡れ面が大きくなるので、それにより摩擦損失が大きくなりθはある範囲内に収めることが望ましいです。ハブ面とシュラウド面の対応する点を結んで出来る線要素から分かるように、ハブ とシュラウドのθの変化が大きく異なると、羽根に曲げ応力が発生するので、空力計算中でもθ分布については配慮することが必要です。

3-3 準3次元流れ解析(Q3D)と設計指針

 先に紹介したように、準3次元流れ解析手法は1950年代初頭に開発され、1960年代にはカトサニス(Katsanis)(参考文献4)により、流線に直交する直線に代わって、ハブあるいはシュラウドに立てた準直交線上で解析が行える手法が開発され、従来の曲線適合法のような時間のかかる方法に取って代わられました。

 すなわち、特に速度の高いシュラウド部では、流れがまだ軸方向を向いているインデューサー(Inducer)部でできる限り減速を行い、その後、下流に向かって所定の速度まで減速するという速度分布を推奨しています。この場合のインデューサーとは羽根車入口近傍のことを指しています。

 また、羽根車出口近傍のことをエクスデューサー(Exducer)と一般に定義されています。入口と出口の速度比で表される減速比が同じなら、減速に伴い境界層は発達しますが、短い距離で急減速を行う方が徐々に出口に向かって減速するよりも境界層の発達は少ないといわれています。流れが半径方向を向くインデューサーの下流の羽根車流路内では相対速度ベクトルが半径方向を向き、コリオリ(Coriolis:コリオリの力)の加速度が相対流れに作用するので、それを避けるためにもインデューサー部で減速を行う方が望ましいです。

3-4 羽根車流路内の準3次元流れ解析

 各社手持ちの設計ガイドラインにより、形状評価パラメータを所望の範囲内に収めたうえで準3次元計算による羽根流路内の相対流れ計算を実施します。

 その結果は次の評価パラメータで評価するのが一般的です。

  • 相対速度分布
  • 羽根間負荷分布
  • 子午面速度分布
  • 羽根出口部の羽根間負荷

 ここでは、相対速度分布と羽根間負荷分布について説明します。

(1) 相対速度分布

 3-3でも述べたように、シュラウド部においては、インデューサー部でできる限り減速を行っておき、下流に向かう段階で所定の速度まで減速させていきます。

 準3次元流れ解析の目的は、羽根間流路内で流れの状態を確認することですが、判定基準についてはダレンバック(Dallenbach)が論文(参考文献5)で述べているので詳細については参照ください。ダレンバックは考えられる速度分布として図2.7に示す6種類の速度分布を想定します。


図2.7 Dallenbachによる相対速度分布

 また図2.8に示す速度線図を推奨しています。


図2.8 望ましいとされる相対速度分布

 相対速度分布図の一例を図2.9に示します。


図2.9 相対速度分布の一例

 注意すべきことは、準3次元流れ解析は非粘性流体解析では「流体の流れは羽根に沿って流れる」という仮定の上に成り立っていることから、羽根車入口のように入射角を持つ流れを扱う場合、羽根前縁の両面の流れは図2.9に示すように一致しません。これは入射角を持って流れが羽根に流入していることが原因で、子午面の長さに対してプロットされる場合、入口から15パーセント程度までの準3次元流れ解析計算精度はそれほど良くないからです。計算ロジックの設定に際して立てられている「流れは羽根に沿って流れる」という仮定のためです。羽根車出口についても同じことがいえますが、「出口の場合には“スベリ”を与える」すなわち「下流の条件を与えている」ので入口の計算ほど精度は悪くなりません。

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