Magnaのスポット溶接点削減大作戦:メカ設計 イベントレポート(7)(1/3 ページ)
スポット溶接点数の削減は車両のコストダウンに有効。大手部品メーカーが2つの解析ソフトを連携させ車両のスポット溶接点数の最適化に挑む
車両に施されるスポット溶接の点数は数千といわれる。部品点数もさることながら、1つ1つの部品サイズも大きい。溶接点数が多いということは、それだけ溶接の工数が掛かるし電力も消費する。スポット溶接の点数を減らすことで生産性を向上させれば、大幅なコスト削減を狙える。だからといって、安易に減らせるものではなく、それにあたっては実験や評価が必要となる。
しかしながらコスト削減が目的であるのだから、実機試作はなるべく減らしたいところだ。そこでCAEによる解析が活躍する。自動車業界では、スポット溶接数の削減を試みるための解析は従来より行われてきた。ただしその解析には多くの繰り返し計算回数(サイクル)を要する。数千の溶接接点を複数の条件下で検討しなければならない。
今回紹介するのは、外資系大手部品メーカーであるマグナ・インターナショナル・ジャパンによるCAEの事例だ。2つのソフトを使った大規模解析で、車両のスポット溶接点数の削減に取り組んだ。
すでに導入している解析ソフトの持つ個性や利点を冷静に見極め、適材適所で役割分担させることによって、効率のよい解析プロセスを引き出した。上述の成果は、それぞれ単独で使用していたのでは得られなかったものだ。結果だけではなく、システム導入評価のプロセスにも注目してみたい。
編集部注:本記事は、ヴァイナスが2008年10月15日・16日に開催した、ユーザーカンファレンス「VINAS Users Conference 2008 ─大規模解析と最適設計の効率化─」より、マグナ・インターナショナル・ジャパン セールス&エンジニアリング 加藤一正氏の講演をまとめたものです。
従来の方法を生かした新たな方法の模索
今日では、まず設計に沿った形状の検討をし、それを基に解析をし、それから要求性能を満足していくというのが一般的な流れだが、その逆を考えれば効率的な開発プロセスが得られるとマグナ・インターナショナル・ジャパン セールス&エンジニアリング 加藤一正氏はいう。「効率的な開発プロセスを考えたときに、要求性能に対して、最適な構造体を見出だします。その最適な構造を基に、設計を図面に落とす。このプロセスが最も効率的なプロセスであるというふうに私たちは考えます」(加藤氏)。そして本事例もこの考え方に基づくものである。
スポット溶接構造のコスト削減に関しては、スポット溶接点数の削減および最適化が重要なポイントである。スポット溶接点を最適な配置にし、かつ不必要なスポット溶接点を削減することで、スポット溶接構造のコスト削減を図る。そして、剛性や耐久性能など関連事象の統合的な検討を行っていく。
加藤氏は、位相最適化のできる構造解析ソフトと疲労寿命予測ソフトの2つのソフトウェアを組み合わせて活用し、スポット溶接の疲労耐久性を最適化していくことを考えたという。またシステム採用における妥当性の判断基準は、「自動車の車両開発に使われるような大規模なモデルを取り扱えること」「自動的にスポット溶接構造の配置が可能であること」とした。
また車両の解析では大規模なモデルを扱うが、繰り返し計算回数はできるだけ最小化したい。そこで、スポット溶接の最適化が自動的に行えることや異なる数種類のスポット溶接のモデル(モデル化)に対応できることも条件として挙げた。
図1は、CAEによる最適化プロセスの流れを模式図にしたものだ。
まず初期の解析モデルを用意する。それをFEMソルバに入力する。FEMソルバの計算結果である、応力やひずみエネルギーなどを構造解析ソフトへ入力し、位相最適化で形状を割り出す。その結果で最適化条件を満足しているかどうかを判断する。満足しなければ、適合できるようなFEMモデルを再度作成し、それをまたソルバに戻すという流れである。
このサイクルによって、最適化条件を満足する新デザインの形状を出力する。またFEMソルバと構造解析ソフトとの間には疲労寿命予測ソフトによる計算処理を挿入した。最適化の基準としては、疲労限安全率もしくは疲労損傷度の値であるとした。
モデルサンプルを用いた検証
果たして上述のプロセスが適切に機能をするかどうか、図2のようなサンプルを用意して検証してみた。
図2のモデルはエンジンマウントブラケットであり、赤い部分の向こうにエンジンがあると考えてほしい。「設計空間」(紫色部)は自由に設計してもよい空間、「固定空間」(青色部)は、部品の車体接続部を示す空間である。
計算する際には、材料分布を最適にするためのトポロジーの設定を行う。また最適化の条件として設計空間の体積90%減、生産要件に対する条件として型抜き方向をy方向とした。これらの条件下で、疲労解析ソフトを使ったプロセスと、応力最適化のみの従来のプロセスとで導いた計算結果(出力形状)を比較した(図3)。
(マグナ・インターナショナル・ジャパン プレゼンテーション資料より)
図3の右側は、従来のプロセスにより算出した形状、左側は新しいプロセスにより算出した形状である。それぞれまったく異なる形状が得られたことが分かる。コンターの値は疲労損傷度の計算結果である。
図3左に示す疲労最適化結果の形状では、どの部位であっても目標とした疲労損傷度以下になった。疲労損傷度が最大となる部位は、図中のDと記した部分である。応力最適化による形状での疲労損傷度最大値は、疲労最適化による形状での最大値の5倍となっており、構造的な問題があるということが分かった。この結果をもって、上記の解析プロセス適用が望ましいと判断したという。
耐久疲労評価
耐久疲労評価の手順は次のとおりだ。まず疲労解析ソフトに解析モデルのデータ(節点と要素)を入力する。次にソルバで計算した応力の計算結果、荷重履歴データ、最後に材料特性や接合特性を入力していく。このような手順で疲労限安全率や疲労損傷度をソフトウェア上で自動計算していくようにした。
スポット溶接構造に関する要件について加藤氏は、NVH要件からくる剛性、耐久性能、衝突性能と生産要件の4つを挙げた。これら要件の制限下では、数千の設計変数があるということになるという。またこの数千の設計変数を従来からある遺伝的アルゴリズム法(GA)や勾配法などで算出すると、約100回の繰り返し計算が必要になってしまうという。
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