TOCのPMが本当に管理すべきポイントはどこか:TOC流の開発型プロジェクト管理術「CCPM」(3)(2/3 ページ)
量産型工場の生産管理手法として生まれたTOCは、そのエッセンスを拡張させて設計開発型業務のマネジメントにも応用されている。TOCの最新ツール「クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント」を紹介しよう。
ゴールを達成するために管理すべきポイントは何か
では先の3つの質問をベースに、開発部門がゴールを達成するために管理しなければならないポイントを見ていきましょう。
売れる完了テーマが増加したか?
この質問に答えるために何を考えればよいのでしょうか。それには開発テーマが完了する流れ、すなわち「開発プロセス」を考えなければなりません。ここでも、小説『ザ・ゴール』の教えが非常に役に立ちます。
工場の生産業務では工場全体の生産能力は、数多くの工程があっても最も能力の低い工程(ボトルネック工程)によって決まります。
例えば、設備A、B、Cの順番で加工して製品が完成する場合、Aの能力が10個/日、Bの能力が5個/日、Cの能力が8個/日という能力だとすると、全体では、1日に5個しか完成できません。設備Bがボトルネックとなって全体能力を決めてしまうのです(図1)。
作業の順番(シーケンス)が決められていることを、作業と作業の間に従属性があるといいます。この従属性が支配する環境では、ボトルネックの能力が全体のアウトプットを決定します。アウトプットを増やしたいのであれば、ボトルネックの効率を上げればよく、ボトルネック以外の効率を上げても全体のアウトプットは増えないのです。
小説『ザ・ゴール』ではNCX-10という加工設備がボトルネックでした。アレックスたちはNCX-10に待ち時間が発生しないようさまざまな工夫を行い、工場の生産能力を向上させていったのです。
では、開発現場のボトルネックはどう考えたらよいのでしょうか。
開発部門には人や設備などさまざまな資源(リソース)があります。これらの中で能力的にいっぱいになっているリソースはすべてボトルネックの可能性があります。本来的にいえば、これらの負荷状況を分析し、最も負荷の掛かっているリソースがボトルネックだと考えればよいのです。
しかし、多くの開発現場ではリソースの稼働データが整理されていることはまれですから、ボトルネックを探し出すのは簡単ではありません。また、企業方針や人間行動特性によってエンジニアは皆誰でもボトルネックに見えます。このような状況ではボトルネックを探すことは困難を極めます。
でもちょっと待ってください。会社全体として考えれば、スループット最大化のためには市場や顧客からもたらされるお金を最大にしなくてはならない、つまり売り上げを向上させるのがゴールです。しかし、多くの企業では、純粋に現在の売り上げ(自社製品の市場規模)と自社の製品供給能力を比較すれば、むしろ市場のキャパシティの方が小さい、つまり市場がボトルネックであるという場合が多いのです。
発売した製品は何でもヒットするわけではありません。ですからボトルネックである市場を最大限活用するためには、どのタイミングにどんな商品テーマを出せばよいのか上市をきちんと計画し、顧客を待たさないようにする。このことがスループット増加のために最も重要なことなのです。
しかし市場がボトルネックだとするならば、開発部門の殺人的な忙しさはどう考えたらいいのでしょうか。開発業務は、顧客ニーズがなくても会社方針としてどんどん仕事を作っていくことが可能です。マネージャがエンジニアを遊ばしてはならないという考え(方針)だと、どんどん仕事が増え、全員がボトルネックのような状況に陥ります。しかし、このような状況の中ライバルが画期的な商品を発売し、市場や顧客のニーズが変化するといった緊急事態が起きても対応できないことが想定されます。どの開発テーマがヒットするのかという、開発業務にまつわる不確実性はなくせません。こう考えると、市場ニーズに素早く応えるため、開発リソースをボトルネックにせず、常に市場がボトルネックである状態にしておく必要があるのです。
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