外国人にカモられない国際交渉力を身に付ける!:モノづくり最前線レポート(7)(1/3 ページ)
グローバル化が進むモノづくりで、外国企業との交渉は避けられない。ところが日本人は絶望的なほど国際交渉が苦手である
品質、短納期、多品種などと並んで今日のものづくりに必須とされている要素がグローバル化である。特に海外拠点での生産比率が高くなるにつれ、ローカル設計を現地の設計者に依頼したり、海外の工場で生産管理や品質改善の指導に当たるなど、日本のエンジニアが海外のエンジニアやスタッフと接する機会は年々増えている。
英語が苦手の日本人エンジニアにとって、海外で外国人相手にうまくコミュニケーションを取ったり、国際交渉を有利に進めるのはかなり困難な仕事ではないだろうか。しかし、国際交流や国際交渉を避けていては、ものづくり企業はグローバルな競争で生き残ってはいけない。
今回は、これまでと少し視点を変えて国際社会における日本人の交渉力をテーマとした講演を取り上げて、日本人エンジニアの国際交渉力向上に奮起を促したい。2008年11月12日、東京・国際フォーラムで開催されたNECによる「C&Cユーザーフォーラム & iEXPO2008」の特別講演から、前ITU(International Telecommunication Union:国際電気通信連合)事務総局長、内海 善雄氏による「世界で“勝つ”ための国際交渉力 〜真の国際人となるために〜」をお届けする。
内海氏は1942生まれ。東京大学法学部を卒業後、1966年郵政省(現総務省)入省。1972年、シカゴ大学大学院に留学し政治学部修士を取得。1999年、ITU事務総局長に就任し、第3世代電話の規格統一、次世代ネットワーク(NGN)の規格推進など標準化作業に尽力した。2002〜2005年まで、国連世界情報社会サミット事務局長。現在はトヨタIT開発センター 最高顧問に在職する傍ら、早稲田大学客員教授、財団法人 海外通信・放送コンサルティング協力 理事長も務める。
この経歴を見れば、世界に通用する国際交渉力を持った人物を想像するに違いないが、ご本人の弁によると「私はITUに在職していた8年間で、実に多くの失敗を経験してきた。日本人らしく振る舞うことで、私自身がカモにされてきた。その反省に立って、今日は国際社会での交渉でカモにならない方法をお話ししたい」と切り出した。
ユニークな、あまりにユニークな日本人
世界各国から集まった国際人がひしめくITUに身を投じる以前、内海氏は2年間米国大学院に留学し、さらに海外の日本大使館に勤務した経験もある。しかし、その外国生活は、ITUでの8年間とはまったく違っていて、学生社会は単なる仲間の社会だし、日本の大使館などは国際社会とは隔離された完全なる日本社会だったという。「よく外国で生活された方で外国の事情をよく知っているように見えても、私にいわせれば外国で生活しただけでは国際社会を理解したとはいい難い」と内海氏はいう。
日本人なら誰でも当たり前のように教えられてきた道徳観、倫理観、行動規範といったものは、国際社会ではまったく逆の価値観となるのだという。「私たちは謙虚であれ、横柄に振る舞うのは良くない、沈黙は金なりであまり出しゃばることはせず静かにしている方がいい、そんなしつけを受けてきたのだが、国際社会だとそんな振る舞いではまったく生きていけない。これが8年間で学んだことだった」。そんな超まじめな価値観に支配されている日本人は、世界中でカモにされている極めて特殊な人種なのだという。
内海氏は日本人が外国人と比べてどれだけ特殊かを測定するツール「国際人の行動パターン」を使って説明した。外国の多くの人に接しているうちに、その行動にあるパターンが存在することに気付いたので、それを評価する方法を考え出したのだという。人間行動の基本にある、
- 個人主義に重きを置く vs. 集団主義を重要と考える
- 長期的な利益を考える vs. 短期的な利益を優先する
という2つの性向を縦軸と横軸に取って、さらによくいわれる行動パターンの標語を座標の交点に対して反対語となるように並べたのがそのツールである(図1)。
このツールを基にしたアンケートを使って、スペイン人、イギリス人、フランス人、ガーナ人、ブラジル人、ユダヤ人の6人とITUの日本人6人の評価をまとめたものが図2になる。これを見ると、日本人は協調的で、闘争心はゼロ。保守的かどうかは中間くらい。組織プレーが好きで、非常に公平である。勤勉については満点である。進取的は中間で、個人プレーは全然できない。やや温情的で、享楽的はゼロで全然遊んでいない。グラフは中心から大きく右側に寄った形になった。
次に、米国人、イギリス人、フランス人の評価をまとめたのが図3、国際スタンダードの評価が図4である。ここでいう国際スタンダードというのは、国際社会で活躍している人とする。自国から離れて、国際機関で働いていたり、各国の代表として国際交渉に当たっているような人だ。彼らは欧米人に比べて、さらにグラフが左側に寄っているのが分かる。
そして最後に、国際スタンダードと日本人のグラフを重ねたものが図5だ。「皆さんがいろいろな場面で交渉する外国人というのは、このグラフで示されているような行動パターンを有している国際人だ。アメリカ社会で暮らしている人にとって、隣に住んでいるアメリカ人であっても、その人がある会社を代表して企業対企業として交渉する相手になると、図3よりもさらに左側に寄った図4の国際スタンダードに変わるのだ」。日本人は世界的に極めて特殊な行動パターンを持っているのが分かる。
こういった事実を前提として、われわれ日本人は国際交渉の場でどのように行動しなければならないのか。
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