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GMや日産が苦心したVTCの原理とはいまさら聞けない エンジン設計入門(10)(1/3 ページ)

かつては、バルブタイミングを自在に変化させることは非常識だといわれた。それを打ち破ったのがVTCだ。

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可変バルブタイミング、リフト機構とは?

 今回はエンジン性能を飛躍的に向上させる「可変バルブタイミング&リフト機構」について解説します。

 前回のバルブタイミングの説明の中で、

 「低回転域を優先すれば高回転域が犠牲となり、逆に高回転域を優先すれば低回転域が犠牲になる」

というバルブタイミングのジレンマについて説明しました。

 大きく分けて、低回転域、中回転域、高回転域の3つの領域において、最適とされるバルブタイミングが違います。

 一昔前は、その中で車のニーズに一番合っているバルブタイミングを選択し、エンジン性能としてバルブタイミングを固定させてしまうのが常識だといわれました。バルブタイミングを決定している部品は、主に金属で成型されているカムシャフトです。なのでカムシャフトのカムプロフィール(断面形状)を自由に変化させることはできません。つまり一度決まったバルブタイミングは変えられないということになります。

 各回転数に合わせて最適なバルブタイミングに変化させることができれば、エンジン性能は飛躍的に向上することは簡単に想像できます。年々厳しくなっていく排気ガス規制をクリアするためにもエンジン性能の向上は必須要件なので、ぜひとも実現したいと考えるのは技術者として当然の心理です。そこで生まれたのが、「可変バルブタイミング機構」というわけです。

 「バルブタイミングを自在に変化させる」ということは、つまり「カムプロフィールをエンジンが回転している最中において自由自在に変化させる」ということです。それは、かつて非常識といわれていたことでした。可変バルブタイミング機構が生まれるまでの過程には、数々の困難があったことはいうまでもありません。皆さんもご存じのように、現在では可変バルブタイミング機構が当たり前の機構として存在しているわけですから、技術の進歩は本当にすごいですね。

 今回は、可変バルブタイミング機構の基本的な仕組みについて説明していきます。

位相変化型について

 可変バルブタイミング機構の元祖的な存在として知られているのは、1986年に日産自動車が「NVCS(Nissan Valve Timing Control System)」という呼称で採用した機構です。多数ある可変バルブタイミング機構の中でも最も基本的な作動であり、その作動の様子から「位相変化型」といわれます。「位相」は、「位置関係」という言葉に置き換えれば分かりやすいと思います。

 NVCSで採用された位相変化型のバルブタイミング機構とは、どういうものなのか? その作動を説明する前に、まずはクランクシャフトとカムシャフトとの関係を簡単におさらいしておきましょう。

 クランクシャフトとカムシャフトは、タイミングベルトやタイミングチェーンによって常に定められたタイミングで同調しながら回転しています。実際にタイミングベルトなどが駆動するクランクプーリやカムプーリは、駆動中に位相が変化してしまわぬように、回り止め&位置決めがされています(写真1)。

クランクシャフトとクランクプーリの取り付け状態
写真1 クランクシャフトとクランクプーリの取り付け状態

 これによってお互いの位相は保たれます。

 位相変化型とは、その名前の通り、“ある基準”の位相と比較することで変化が起こることをいいます。“ある基準”というのは、「バルブタイミング0°(度)」です。ここからの説明ではこの位相を「通常の位相」とします。

*前回の解説の中で「バルブタイミング0°とは圧縮上死点時のカムシャフトの位置」と説明しましたが、これは可変機構の有無に関係なく同じです。

 クランクシャフトとカムシャフトの位相を変化させたい場合、一度エンジンを分解してカムプーリとカムシャフトの回り止めを取り外し、通常の位置から任意の位置にずらして位相を変化させ、組み付けなければいけません(組み付け後は回り止め機構を付けません)。しかしこれでは、可変機構による位相変化とはいえません。ごく一般的なチューニング作業により位相を変化させてバルブタイミングを変化させているだけの話です。

 「位相を変化させることでバルブタイミングを変化させる」ということはつまり、「クランクシャフトとカムシャフトとの位相を変化させる」ということです。先ほど説明したような、半ば強引ともいえるチューニング作業によって作った状態を“何らかの方法”によって実現することが最終目標となります。さて、この方法とはいったい何でしょう。

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