納期と在庫のトレードオフを解決する知恵とは?:こうすればうまくいく生産計画(3)(2/3 ページ)
今日の製造業が抱えている根本問題は「大量・見込み生産の体制を残したまま、多品種少量の受注生産に移行しようとしている」ことにある。生産計画を困難にするさまざまな要因を乗り越え、より良い生産計画を実現する方法を検証してみよう。
生産形態と在庫ポイントの位置
そもそも、製造業は受注と生産の関係によって、4種類の生産形態に分けることができる(図1)。
- 個別受注生産
- 繰り返し受注生産
- 受注組み立て生産
- 見込み生産
の4種である。
個別受注生産(ETO=Engineer to Order)では注文を受けてから設計を始め、部品調達→加工組立→物流と進めて顧客に納品する。船舶や航空機、特殊産業機械などの場合である。この形態では在庫は原則として、ない。
繰り返し受注生産(MTO=Make to Order)では、設計はもう決まっている。同じ品種のものを、受注に応じて繰り返し製造する。部品メーカーに多い形態である。受注してから原材料調達をし、加工組立→物流と進める。個別受注生産に比べ、設計をしなくて済む分だけリードタイムが短い。原材料は引当手配であるから、在庫は原則ないか、仮にあっても少ない。
受注組み立て生産(ATO=Assemble to Order)は、部品ないしサブアッセンブリまで事前に作っておき、注文を受けた時点で組み立てて出荷する形態である。デル・コンピュータが有名で、彼らはBTO(Build to Order)と呼んでいる。この形態では、部品やサブアッセンブリまでは見込みで生産しておき、常備品として在庫する。従って、注文から出荷までのリードタイムはかなり短い。実はカウンター形式の寿司屋も受注組み立て生産である。魚やご飯などの食材はあらかじめストックしておく。だからリードタイムが数分で済むのだ。その代わり、売れ残ったら捨てなければならない。常備品在庫には、そうした陳腐化のリスクが付きまとう。
最後の見込み生産(MTS=Make to Stock)は説明するまでもない。戦後日本が高度成長した際のモデルがこれであり、家電や自動車、食品など一般消費者の手に入るほとんどの製品がこの形態で作られてきた。すでに店頭在庫があれば、リードタイムは最短である。その代わり、在庫の量は(リスクも)最大となる。
図1を見れば分かるとおり、どんな業種でも上流側は見込みで進められ、下流は受注が入ってから動く。生産形態の違いとは、上流側の見込み生産と、下流側の受注生産がぶつかる点の場所の違いである。しかも、両者がぶつかる地点に(理論的には)在庫が必要となるのである。これをカップリング・ポイントないし在庫ポイントと呼ぶ。
在庫ポイントが右に行くほど、受注から出荷までのリードタイムは短くなるが、在庫量は増えることに注目してほしい。「納期と在庫のトレードオフ」は、この構造が生んでいるのである。
どこに在庫ポイントを置くべきか?
在庫ポイントの位置によって、在庫量が変わるのはなぜだろうか。「需要変化の速度と、生産システムの追随速度との差」が在庫を生むのだとしたら、どこに置いても同じではないだろうか?
そうではないのである。問題を単純化するために、在庫量を発注点方式で決める場合を考えてほしい。在庫量を平均需要で割って日数単位で表示すると、在庫理論によれば、
発注点=補充リードタイム日数+安全在庫量
平均在庫量=発注点/2+安全在庫量
となる。つまり在庫ポイントが下流に近いほど、補充リードタイムが長くなる(かつ品目は多様化する)ため、在庫量は増える傾向にあるのだ。
それでは、在庫ポイントを上流に移せばよいのだろうか? しかし、その場合、納期が長くなることを市場が許すかどうかの問題がある。しかも、在庫ポイントが上流に近いほど、需要予測が難しくなることにも注意してほしい。予測精度が落ちると在庫量は逆に増えるのである。両者の最善のバランス点を探すことこそ、生産計画の課題なのだ。
ここに1つの解決策が登場する。それが部品の共通化(標準化)である。さまざまな製品で使用する部品の共通化を図ることで、部品需要の平準化を狙うのだ。需要が平準化され予測精度が上がると、在庫をもくろみどおり抑えることができる。
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