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製品の熱設計、その方法で大丈夫ですか?熱設計の本質(2)(2/2 ページ)

熱が製品開発に与える影響とは何か? ハードウェアに携わるエンジニアだけではなく、ソフト開発者も知っておきたい熱設計の本質を探る。

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製品開発における熱設計の重要性

 熱設計はこのように部門間にまたがる技術課題ですから、単独部門だけで解決するのではなく、互いに分担・協力する体制が必要です。それとともにそれぞれの部門が、関連する部門の技術をある程度知っていないと、対策の方向性がずれてしまう場合があります。

 例えば、ある半導体にはセラミックとプラスチックの2種類のパッケージが選定できるようになっていて、プラスチックパッケージの方が安いとします。開発中の装置が自然空冷で小型化を目的としていた場合、あなたならどちらを選定しますか? このような場合は半導体パッケージの選定が製品開発の可否を決めてしまうケースもあります。

 回路設計者が熱設計を知らずにコスト優先でプラスチックパッケージを選定しただけで、開発が不可能になってしまう場合もあるかもしれません。また、一度開発が終わった製品をVEする場合でも、セラミックパッケージははんだ付け性が悪いとの理由で製造側からクレームが付いて、いわれるままプラスチックパッケージに変更してしまうということもあるでしょう。

 パッケージ変更だけで機能には影響ないと考え、高温放置やヒートショック試験を実施しないといった安易なVEだと、それだけで信頼性が低下した製品を市場投入することになります。熱問題がEMC問題と違うのがこの信頼性への影響です。

 EMC問題は市場投入後に比較的短時間で問題が発覚するのに対し、熱問題は長期間稼働後に発覚する場合が多く、大きなコストロスを伴うことになります。場合によってはこれが発火事故の原因となり、重大事故が発生することもあり得ます(最近の事故例でサービスマンの改修が事故原因になっている例も、同じような理由だと思います)。

 熱問題は安全性・品質・信頼性に直接影響するので、熱設計は製品開発に関連する全部門が必要性を理解し、正直に設計する必要があります。それとともに、その技術を常にブラッシュアップして後世につなぐ努力が、メーカーとしての責務だと思います。

熱設計はメーカーを信頼するときのバロメーター

 このように見ると、熱設計の本質はメーカーの信頼性を判断するバロメーターということができます。実際に熱設計を行おうとすると、さまざまなデータを必要とすることが分かると思います。

 それでもある程度の設計なら何とかデータを入手することはできますが、最先端の製品を設計しようとするとカタログや文献からは得られないデータが必要になりますし、評価を行う場合も、過去の実績を基にした独自の判断基準が必要になる場合があります。

 これらは長年製品の品質・信頼性を追求することによって蓄積されるノウハウであって、目には見えませんが、そのメーカーの技術を保証する証しとなります。いわゆるコアコンピタンスです。この自信があるので、さらに次の技術開発に着手できるのです。新興メーカーがこれを模倣しようとしても大きな壁にぶつかるので、あるレベルの品質を確保するにはそれなりのコストと期間が必要になってきます。

 ただ最近残念なのは、価格破壊に伴う低コスト化競争で経営統合や企業買収を繰り返し、長年築き上げた技術を安易に捨て、アウトソーシングに走るメーカーが後を絶たないことです。目に見えない技術は、技術を知らない経営者にとっては無駄な投資としか思えないのかもしれません。その結果が冒頭で書いた、使用期間が5年未満の製品の事故事例の多さに表れているのではないかと、危ぐしています。

熱設計の本質とは

 熱設計は万能ではありません。「この技術を使ったらどんな熱もなくすことができる」といった技術は存在しません。その理由は、ここまで読んでくだされば分かると思いますが、「熱はエネルギーの移動形態」なので、熱にまつわる問題は、熱をなくすのではなく、どう移動させるかという問題だからです。

 装置を動作させるのにエネルギーが必要なので、どうしても熱は出ますが、熱を少なくすることはできます。つまり、製品を少ないエネルギーで動作するように工夫すれば、熱は少なくなります。

 また、熱設計にあまり苦労しないで品質・信頼性を向上する方法もあります。それは、必要以上に製品を高密度化しないことです。そうすれば、いまの技術なら30年動いていた扇風機に驚かないで、100年以上動き続ける扇風機だって作れると思います。省エネ、省資源対策も視点を少し変えれば、現状の技術で解決できる課題はいくらでもあるはずです。

 熱と熱設計の基礎を解説する本連載も一旦終了です。皆さんも、視点を変えて自分の設計をもう一度見てみませんか? 製品の熱設計、その方法で大丈夫ですか?(完)

Profile

藤田 哲也(ふじた てつや)

1981年 沖電気工業入社。車載向けの無線や携帯、屋外設置の無線伝送装置、官公庁向け無線など無線伝送装置の実装設計や、NTT向け基幹伝送装置、各種映像伝送装置などの有線伝送装置実装設計やその取りまとめと幅広く業務に携わる。

2002年 ジィーサスに入社。家電やオーディオなどのメーカーを中心に、熱設計やEMC、実装技術のコンサルティングに従事する一方で、それらの技術についての教育も行う。



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