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鉄鋼から別の材料に変更してコストダウン事例で知るVA・VEのコストダウン手法ABC(6)(3/3 ページ)

自分の勝手な思い込みで鉄鋼を採用していない? 「アルミやプラスチックに変えると高くなる」というのも思い込みなのだ

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その思い込みのせいで、コストアップ!

 産業機械の設計現場では、「一度製作して大きな問題が起こらなければOK」と、ろくろく見直しもせず、そのまま以後の流用設計などへ通してしまいがちです。しかし、そこを再度検討していくことがVA・VEであるのです。

 以下は、筆者がとあるメーカーに訪問し、VA・VEのコンサルティングをしたときの実例です。このメーカーでもまた、上記のような悪い習慣が災いし、部品に過剰なコストを掛けていたのです。

 そのメーカーの設計者が、仕様上必要な形状寸法や公差を図面へ書き込んでいくと、かなり高度な品質を要求する部品となりました。

 そして彼は、その品質を満足させるためには「焼き入れ研削加工を施し加工性を上げてやればよい」と考えました。材料はSK以上*1のグレードであるとしました。それらが必然的選択であると彼は思ったのです。

*1 工具鋼はSK→SKS→SKD→SKHという順に材料のグレードが上がります。

☆某社の部品加工の例

  1. 材料取り
  2. 6面加工
  3. 形状加工(粗加工)
  4. 焼き入れ処理(熱処理)
  5. 成形研削加工(形状精密加工)
  6. 仕上がり

 しかしこの結果、市場価格に見合わない高価な部品となってしまいました。

焼き入れ処理(熱処理):耐久性、剛性を上げるために熱処理をして、素材の持つ硬度を上げます。炭素鋼と工具鋼とでは、硬度や耐久性、剛性に差が出ます。また焼き入れを行った方が研削加工での精度を出しやすいのです。



 「どうにか、市場に見合う価格に近づけたい」とのことで、筆者がよくよく話を聞いてみると、実は、「焼き入れ研削加工」でなくとも、品質さえ保持できれば材料は何でもOKだったとのことでした。

 では、いままでの“SK材以上、焼き入れ研削加工での仕上げ”は、いったい何だったの……といいたくなりますね。

 その設計者は、もともと金型設計をしていたそうです。金型を製作する際には、よくSK材を用いて研削加工を行います。その経験に基づき、「高品質、高精度なら、SK材だ!」と、“思い込み”で判断してしまったのです。そもそも、金型で工具鋼が使用されるのは、耐久性や耐磨耗性などが要求されるためです。しかし今回の場合、金型の部品ほどの強度は別に必要がなかったのでした。

 実際、アルミのマシニング加工へ変更しても問題はなく、彼らの求めていた品質を満たすことができました。

似た事例、もう1つ

 とある部品をSUS(ステンレス)材からアルミ材に変更することで、加工工数の削減をしました。しかし、メッキ処理をしたにもかかわらず、サビが発生してしまいました。なので、元のSUS材に戻しました。

 ここでは、「サビが出た」という一現象による判断のみでSUS材に戻しています。強度のことは考慮されていません。

 実は、この部品に強度は要求されておらず、「とにかくサビの出ない材料であれば可」ということでした。そうすると、SUS材である必要はないので、プラスチックの切削加工に変更しました。これで非常に大きなコストダウンが図れました。

プラスチックに切削?:プラスチックといえば“成型品”というイメージが最初に浮かびます。ですが小ロット品や中ロット品の設計では、プラスチックを機械加工することで製作コストを抑えます。最近は工作機械の精度がかなり向上したので、プラスチック切削の品質も上がってきました。



 次回のテーマでは、そのユニットが「心臓部なのか?」「あまり使用しないユニットなのか?」といった価値の見極めを行いコストダウンを検討していきます。お楽しみに!

Profile

舩倉 満夫(ふなくら みつお)

製造業に生きて40年、省力化機器製造会社、プレス金型製造会社、半導体製造装置、金型製造会社、ワイヤハーネス用全自動端子圧着機製造会社と経験し、運良く工場内でメンテナンス、機械加工、組み込み、設計、品質管理、生産管理、購買部とものづくりのあらゆる工程を経験。この特異な経験と知識を生かした最適加工および工法により、数々の設計改善・コストダウンを実施してきた。さらにビジネスへと展開するべく、2001年、フナックス・エンジニアリングを設立し、現在に至る。モットーは「仕様に基づいた品質の追求」。



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