実装や試験で役立つ物理層から見るCANの仕組み:車載ネットワーク“CANの仕組み”教えます(4)(2/3 ページ)
今回は「物理層」に注目し、CANの通信線の仕組みを解説。CANバスに信号を送信する際に考慮すべきポイントとは?
メッセージマネジメントによる違い
続いて、メッセージマネジメントによる違いを図で見比べてみよう。
Basic-CANは、送受信用バッファ数がFull-CANに比べ少なく、中低速通信で使用される(図4)。
一方のFull-CANは、Basic-CANに比べ送受信用バッファ数が多く、高速通信で使用される(図5)。
High Speed CANとLow Speed CAN
High Speed CAN
High Speed CANは、通信速度が最大1Mbit/sまで可能であるため、主に高速なデータ交換が要求されるパワートレイン系で使用される。通信は2本線を使用し、電圧差にてドミナント/リセッシブを判断することにより外来ノイズからの影響を受けにくくしている(2線式差動電圧方式)。また、CAN_HとCAN_Lの電圧差は規格では1.8Vとなっており、120Ωの終端抵抗×2により30mAの電流でCANトランシーバを駆動している(図6)。
Low Speed CAN
通信速度が最大125kbit/sまで可能。主にそれほど高速なデータ交換が要求されないボディ系、快適装備系で使用される。通常、2本線を使用して、High Speed CANのように電圧差にて通信を行う。ただし、通信線に問題が発生した場合、シングルワイヤーモードに切り替わり単線にて通信を行うことが可能である。これは通信線が自動車内でも外側部分に配置される場合があるため、フォールトトレランス(1つが故障しても処理を正常に続行すること)が考慮されているからである(図7)。
CANビットタイミング−セグメントの種類
ここからは、CANバスに信号を送信する際に考慮しなければならないポイントについて解説する。
まずは、CANバスに送信される情報を構成する1ビットの信号内の各セグメントの種類だ。セグメントの種類は図8のように構成が決められている。
「ISO 11898」および、「ISO 11519-2」に基づき、CANのビットタイムは下記のような重複しない4つのセグメントに分割される。
「SYNC_SEG(同期セグメント)」
ビット同期実施時には、このセグメントを開始位置とする(CANコントローラは、ビットタイムの延長あるいは短縮で同期を行う)。
「PROP_SEG(伝播時間セグメント)」
各種要因(出力バッファ、CANバス、入力バッファ)による遅れ時間(伝播遅れ)をこのセグメントで補償する。
「PHASE_SEG1(位相バッファセグメント1)」
「PHASE_SEG2(位相バッファセグメント2)」
発振子の発振誤差を次の再同期タイミングまでに補償する。発振素子に誤差の大きなものを使用する場合は大きな位相バッファセグメントを設定する必要がある(その際、通信スピードは遅くなる)。
CANビットタイミング−送信遅延時間
CANは実際に電気信号を通信線に流すことにより通信を行っている。このような場合、さまざまな要因により処理の遅れが発生する。例えば、「CANコントローラでの処理時間」「CANトランシーバでの信号変換時間」「CANバス上で発生する遅延時間」などがそれに当たる。CANは双方向通信であるため、これらの送信遅延についての考慮が必要となる。
この送信遅延についての補償は「PROP_SEG(伝播時間セグメント)」で行われ、図9のように求められる。
- CANコントローラでの遅延時間:tCAN
- トランシーバでの受信遅延時間:tRX
- トランシーバでの送信遅延時間:tTX
- バス遅延時間:tBus
- バス長:lBus
- 信号伝達速度:vBus
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