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インタビュー

高品質な部品は高度な材料技術から生まれる村田製作所 営業本部 本部長 後呂眞次氏

高度な技術を持つ電子部品メーカーがしのぎを削る日本。年間売上高が数千億円に達する大手電子部品メーカーが数ある中、村田製作所は、セラミック材料技術をベースにした圧電デバイスを中心に独自のポジションを確立している。車載用途でも、ECUの電子回路に必須の積層セラミックコンデンサをはじめ、駐車支援システム用の超音波センサーやタイヤ圧監視システム(TPMS)用の加速度センサー、リチウムイオン電池など、国内外で積極的な事業展開を進めている。同社常務執行役員で営業本部本部長を務める後呂眞次氏に、車載用途での優位性や今後の事業戦略について聞いた。

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世界展開は米国自動車から

 村田製作所にとって、自動車分野への浸透はそのままグローバル展開の歴史と同期している。1944年の創業から20年ほど経過した1960年代中ごろに米国市場への進出を始めたが、当時は米国こそがエレクトロニクスの先進国だったこともあり、どうすれば当社の製品を採用してもらえるのか分からず四苦八苦した。

 とりあえず、採用の足がかりにするために、米国メーカーの開発現場で評価してもらえるように製品サンプルを置いてくる、というような提案活動を続けていた。

 当時米国では、ちょうどFM放送の多局化が始まっていたが、IFT(inter-mediate frequency transformer:中間周波トランス)コイルなどを使っていたその頃のラジオでは、局ごとの周波数変更の切れが悪いという問題があった。

 そして、米General Motors社傘下で電装部品トップのDelco Electronics社(現Delphi社)のエンジニアが、置いてあった当社のセラミックフィルタに注目して、カーラジオの周波数変更の問題解決に有効だと考え、採用されることになった。

 しかし、当時の米国では「バイ・アメリカン」の嵐が吹き荒れていた。Delco社でも日本からの輸入品をそのまま採用する訳には行かなかったようで、契約書には3年以内に米国内に工場を建設して供給することを明記してあった。そして、米国市場と自動車分野に参入できる機会を逃さないためにも、前に一歩踏み出す必要があった。Delco社との取引きは1971年から始まり、1973年1月にはジョージア工場を立ち上げて、セラミックフィルタとコンデンサの生産を開始した。このように、当社の世界展開の第一歩目は、米国の自動車業界向けから始まった。国内電子部品メーカーの中でも比較的早期から海外の自動車メーカーと関係を築いてこれたと考えている。

セラミックで水晶を置き換え

ウシロシンジ 1971年早稲田大学教育学部卒業。1981年、村田製作所に入社し、海外営業部販売課に配属。1987年に村田有限公司香港に出向。1991年に本社海外企画管理部に所属後、1993年に企画グループ企画2部次長に就任。1994年には欧州法人MurataEuropeのManagementVicePresidentに就任。2003年から本社に戻り執行役員営業本部副本部長、2005年2月には本部長(現職)に就任。また、2005年7月に上席執行役員、2007年7月から常務執行役員(現職)に就任している。
ウシロシンジ 1971年早稲田大学教育学部卒業。1981年、村田製作所に入社し、海外営業部販売課に配属。1987年に村田有限公司香港に出向。1991年に本社海外企画管理部に所属後、1993年に企画グループ企画2部次長に就任。1994年には欧州法人MurataEuropeのManagementVicePresidentに就任。2003年から本社に戻り執行役員営業本部副本部長、2005年2月には本部長(現職)に就任。また、2005年7月に上席執行役員、2007年7月から常務執行役員(現職)に就任している。 

 もちろん、国内市場でもカーオーディオやカーラジオを中心に、Delco社が採用したセラミックフィルタをはじめ、コンデンサやノイズ対策部品が搭載されていた。自動車の電子化が始まった1970年代後半には、Delco社などにエンジンECUのノイズ対策部品として3端子コンデンサが採用されている。

 1990年代後半になると、車載ネットワーク規格としてCANの導入が始まった。このころのECUのタイミングデバイスはほとんどが水晶を使った発振子だったが、各水晶発振子間の公差が大きいという問題があった。そこで、セラミック発振子により水晶との置き換えを目指した。セラミック発振子は、周波数精度では劣るものの、立ち上がりの応答速度が速く、低価格かつ小型化も可能という特徴を持つ。CANの採用拡大でECU数が増えても、コストアップにならないソリューションの一つとして貢献できたと思う。欧州法人のVPを務めた時に、採用拡大に尽力した製品で、ドイツメーカーが2000年に発売した高級車が搭載する50個のECUのうち、半分はセラミック発振子を採用している。

品質へのこだわり

 車載用途で採用してもらうには、高い品質が要求される。自動車メーカーやTier1サプライヤがゼロディフェクト達成を目指す以上、電子部品レベルでは完全にゼロディフェクトでなければならない。高温対応についても、85℃、125℃、150℃と年々厳しくなる要求に応える必要がある。

 これらの要求に応える高品質な電子部品を供給するには、何より高度な材料技術が必要だ。当社は、セラミックを中心とした非金属系の材料に関する高い技術がある。もちろん、モノづくりのプロセスや品質管理体制も追求して行かなければならない。2000年のITバブルの時に、グローバルで電子部品供給がタイトになったため、電装品を手がけるTier1サプライヤがさまざまなルートからセラミックコンデンサを購入したところ、不具合が発生した。そこで、欧州の自動車メーカーが各社の電子部品の信頼性分析を行ったところ、当社のコンデンサは高い品質であるという評価を得ることができた。民生機器用と車載用で、プロセス、製造ラインとも分けていた当社の取り組みが評価された形だ。

 また、品質については、車載電子部品の品質規格である「AEC-Q200」の会議に国内電子部品メーカーとして初めて参加するなどしている。

無線技術とセンサー

 従来、コンデンサ、フィルタ、ノイズ対策部品を車載用途の主力製品としてきたが、今後は、無線技術とセンサーを展開して行く。無線技術では、カーナビゲーションと携帯電話機を連動させて音楽を楽しむシステムで用いるBluetoothモジュールや、ITS関連でETC、DSRCなどの関連デバイスを提供できる。また、米国で駐車支援システムの装備を義務化する法案が提出されていることにより、超音波センサーの需要が一気に拡大する可能性がある。また、盗難防止用のバグラーアラームは、超音波センサー、セラミック発振子、ブザーと当社の圧電デバイスを多数採用するシステムだ。

 ほかにも、ハイブリッド車などの電動自動車のインバータ向けに、大容量のセラミックコンデンサを提案している。容量はフィルムコンデンサに匹敵しながら、耐熱性、耐振性に優れる製品で、このほどイタリアメーカーの排気量400ccクラスの電動バイクに採用された。今後もさらなる大容量化を進めて採用を広げて行きたい。

総売上高の15%が目標

 現在、当社の総売上高のうち、自動車向けは約11%を占める。2000年ごろから統計を取り始めているが、年平均で約10%の成長を遂げてきた。中期的には、総売上高の15%を目標にしてさらに積極的な展開を進めたい。

(聞き手/本文構成:朴 尚洙)

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