先端トランスミッション技術が燃費向上の切り札
自動車のトランスミッション技術に大きな変革が訪れようとしている。自動車の燃費向上が強く望まれる中で、世界中の自動車メーカーは6速以上のデュアルクラッチ変速機、無段自動変速機、回転型変速機など、燃費を高めるトランスミッションに関心を寄せている。
自動車のトランスミッション技術に大きな変革が訪れようとしている。自動車の燃費向上が強く望まれる中で、世界中の自動車メーカーは6速以上のデュアルクラッチ変速機(DCT)、無段自動変速機(CVT)、回転型変速機など、燃費を高めるトランスミッションに関心を寄せている。
米国デトロイト郊外で、2008年5月6日から8日まで開催された自動車用トランスミッションの国際会議「CTI(car training institute)シンポジウム」では、トランスミッションの先端技術が近い将来に果たす重要な役割が大きな話題になった。
同シンポジウムの冒頭で、米Chrysler社(クライスラー)パワートレイン・エンジニアリング部門のバイスプレジデントであるRobert Lee氏は、今日、自動車業界が直面している圧力を概観し、「史上最大の嵐(perfect storm)が迫りつつある」と語った。燃料価格の高騰と、化石燃料の供給不安に対して、消費者と政府当局が反応することにより、この嵐を巻き起こしている。
自動車購入層の一部は、この嵐をハイブリッド車で乗り切ろうとするかもしれない。ハイブリッド車は、燃費向上に関する議論の中で最も注目を集めている。CTIシンポジウムでも丸1日をハイブリッド技術に関する発表に割り当てた。
しかし、Lee氏は従来型の自動車でも、エンジニアが燃料消費の無駄となっている部分を効率化することにより、十分燃費向上を期待できることを指摘した。同氏は「燃費向上というパズルを解くには、自動車の総合的なソリューションが必要になる」と語り、さまざまな自動車のサブシステムが相互に関係していることを強調した。その上で、先端トランスミッションこそが、このパズルを解く上でとりわけ重要なピースになると指摘した。
クライスラーでは、従来の4速自動トランスミッション(AT)に代わる技術が燃費向上にかなり貢献し始めている。クライスラーのトランスミッション・ドライブラインエンジニアリング部門統括ディレクタで機械工学博士のMircea Gradu氏は、同社がいくつかのSUVで採用したCVTが燃費を従来比で6%から8%向上し、始動から60マイル(約100km)/時までの加速時間を8%短縮したと語った。同氏は、開発中のDCTも燃費を6%から8%向上すると見込んでいる。「DCTには大きな効果を期待できる」とGradu氏は語る(写真1)。
これらの燃費改善値は、まだ初期段階の測定値や推定値に基づいたものだが、Gradu氏はしばらく経つと燃費がさらに向上するとみている。同氏はCVTとDCTの効率向上方法を簡単に説明した。DCTの場合は、減速比が大きな7速を得ることができ、湿式デュアルクラッチ・モジュールと、エネルギー容量が大きいクラッチ材料と、改善した駆動方式により、冷却関連の余分な損失を減らすことができる。「CVTよりもDCTの方が大きな燃費節約効果を生む可能性がある。プラットホームにもよるが、1%、2%、もしくは3%のさらなる燃費向上が可能になる」と語る。
クライスラーだけが、先進的なトランスミッションに関心を寄せているわけではない。米General Motors(GM)社は、世界市場向けに開発している最新の6速トランスアクスル・ファミリの情報を発表した。GM社パワートレイン部門のトランスミッション・エンジニアリングのチーフエンジニアを務めるJeffrey Lux氏は、新型トランスミッションの設計の詳細と性能の目標について語った。コンパクトパッケージ、質量効率、NVH(noise-vibration-harshness)性能とドライブ性などの話題に触れた。同氏によると、現行の4速変速機と比べて燃費を4%改善でき、その燃費向上の大部分は、6速に増えたギア比を最適化することにより実現できたという。
走行条件によっては、4%以上の燃費向上が可能になる。Lux氏は、6速トランスミッションを搭載した新型の「Chevrolet Malibu(シボレー・マリブ)」が高速道路を走行した場合、航続距離が2%増え、4速変速機と比べると燃費向上は7%以上になると言う(写真2)。
CTIシンポジウムでは、ほかの6速以上の自動変速機も紹介された。ドイツZF社は8速回転タイプ、インドTata Motors社は9速トランスミッションを発表した。
GM社パワートレインのエンジニアリング・グループ・マネジャーのJohn Maten氏は、「市場全体が6速あるいは6速プラスの変速機の採用に向かっている」と語る。同氏はさらに、世界中の異なるタイプのトランスミッションを比較した複雑な調査結果を紹介した。この調査は、それぞれの地域における全く異なるドライビング・スタイル、消費者の好み、主要な変速技術などをとりまとめるために、かなり複雑な内容になっている。
Maten氏と同僚は、排気量1.8リットルのガソリンエンジンを搭載した「Opel Astra(オペル・アストラ)」を基準車として選んだ。この車は通常、5速マニュアルあるいは4速オートマチックのトランスミッションを採用しているが、調査では自動クラッチ駆動の5速マニュアル(MTA)、湿式および乾式DCTの6速および7速トランスミッション、CVT、6速回転式変速機を採用した場合の評価を行っている。実際に使用されているトランスミッションの測定データに基づいた調査では、5速マニュアルの基準車と比べた燃費改善率はMTAで2.5%から5%、乾式DCTが2%から5%、湿式DCTがマイナス1%から2%という結果が出た。
DCTの幸先は良いものとなった。米調査会社Global Insight社のシニア・テクニカル・リサーチアナリストのScott Tackett氏は、「DCTは今や、CVTに代わる先端技術になった」と語る。同氏はさらに、DCTはほぼ市場が存在しない現状から2018年には年間400万ユニットが世界で使用されると予想している。「ほかのトランスミッション方式と比べDCTの成長率が最も高くなるだろう。市場成長の原動力となるのは確実だ」と語った。
(Design News、Joseph Ogando)
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