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摩擦があると、どうしてエネルギーを失うのかピタゴラスイッチの計算書を作ろう(1)(3/3 ページ)

摩擦によって力学的エネルギーが損失することを理解するためには、まずニュートンの運動方程式をきちんと理解する必要がある。

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ニュートンの運動方程式と力学的エネルギーの保存則と段差Hs

 摩擦によって力学的エネルギーが損失することを理解するためには、ニュートンの運動方程式をきちんと理解する必要があります。

銀二「ニュートンの運動方程式を書いてごらん」

草太「はーい。a を加速度、m を質量、Fを力として……」

銀二「それじゃ、まるで中学生だよ。大学生なんだから、微分方程式で書けるだろう。図1.4に示す斜面に置かれた矩形物についてニュートンの運動方程式を書いてごらんよ」

草太「えっと……、矩形物が動く速度を v とすると、こうか(1-8)´」


図1.4 矩形物の斜面の運動

銀二「じゃあ、図1.4のように、x軸を斜面に沿って取り、y軸を斜面に垂直な方向に取って運動方程式を書いてごらん」

草太「まず、物体に作用する力は重力mg だな。斜面に平行なx軸方向についての運動方程式は、斜面に沿って動く速度をvx とすると……」

草太「次に斜面に垂直な方向の運動方程式は、速度をvyとし、物体が斜面から受ける力をN とする」

草太「しかし、N が分からない……」

銀二「物体は斜面に拘束されてx軸方向には運動できてもy軸方向には運動できない」

つまり、

銀二「摩擦を考えていないね。摩擦係数をμとすると、物体の動く方向とは反対方向にμNの力が作用するから(1-9)は、こうだ」

銀二「(1-12)の左辺と右辺だけを抜き出して書き直そう」

銀二「ここから面白いテクニックを紹介するから見ててごらん。 (1-13)の両辺にvxを掛けるよ」

銀二「物体が斜面に沿って移動した量をxとする」

銀二「だから、(1-14)の右辺のvx を(1-15)で置き換えると……」

銀二「さらに(1-16)の両辺のdt を消去する」


図1.5

銀二「これを図1.5の地点1から地点2まで積分する」

草太「積分か。面倒くさいな」

銀二

「この程度の積分が分からないなら、技術者として生きるのをやめた方がいいぞ。 微分・積分が出てきたら『もうお手上げっ!』っていう人は結構多いけれど、積分は微分の足し算だから、極限の概念を除けば小学生でも理解できるはずなんだ。微分・積分なんて掛け算、割り算と同じで使わないから忘れるだけなんだよ。本当はその辺りの話もしたいけど、今回は止めておこう。そのうち、教えてあげるよ」

草太「分かりました。いつかお願いしまーす……」

銀二「従って、図1.1の曲線スロープのA地点からB地点まで積分すると 」

草太「あれ? x がs に変わっているよ?」

銀二「図1.5では直線的な坂に沿ってx 軸を取っていたけど、曲線スロープの場合は曲線に沿った座標軸を選んでいるので、x をやめ、s としたんだ。曲線をいくつかの直線に分けて考えてみると分かるけれど、(1-19)の右辺の第1項の積分は段差Hsとなるね」


図1.6 曲線を直線に分解する

銀二「図1.6と積分の定義を考えれば 、こうなるのは分かるだろ?」

銀二「だから(1-19)は、こうだ」

 もし摩擦係数μが0、つまり摩擦がなければ、力学的エネルギーが保存されます。しかし現実に摩擦は必ず存在するので、左辺の第2項が存在し、B地点でのエネルギーがその分だけ損失します。

銀二「草太が最初に書いた(1-1)は(1-21)に対応しているのが分かるだろう。力学的エネルギーの保存の関係は、こうやってニュートンの運動方程式から導かれたものなんだよ」

 (1-21)式と見比べてみましょう。

草太「なるほど。 (1-21)の左辺の第2項が(1-1)のエネルギー損失Elossなんだね。この摩擦による損失エネルギーの大きさは摩擦係数μに関係するから、傾斜を滑る物体の材質によって変わってくる。そして、これが計算できれば、B地点で欲しい速度に対して、必要な段差Hsを計算で求めることができる。摩擦係数μが大きいと損失も大きいということだね」


図1.7 ボールの斜面の運動

銀二「そういうのを、早とちりっていうんだ……」

草太「なんでよ!」

銀二「図1.4や図1.5は矩形物が滑り落ちる場合だろ? ピタゴラスイッチの場合はボールだぜ(図1.7)」

草太「おっとそうだった。でも考え方は同じでしょ?」

銀二「同じだといえば同じだし、違うといえば違うね。ボールは球だから転がるだろ。滑らずに転がったり、滑ると同時に転がる場合もある」

 球の場合には、回転運動についても考えなければなりません。図1.7は、ボールが斜面で運動するときの力の状態を示していますが、回転角速度ωが新たに運動の変数として入ってくることが分かります。このことは(1-2)でも説明していますが、損失エネルギーElossの計算も回転の影響を考えなくてはいけません。

銀二「おお! もうこんな時間だ。新幹線の発車時刻に間に合わなくなる。実は、今晩カミサンと神戸でデートの約束があるんだ。悪いけど、続きはまた今度にしよう。じゃあな、アディオス!」

草太「叔父さん! ちょっと、今度はいつ来るのーっ!」

 次回は、具体的にサブシステム1の曲線スロープの設計をしながら、ボールの材質選定が重要であることを説明し、さらに実験検証によって、そのことを確認します。(次回に続く)

Profile

岩淵正幸(いわぶち まさゆき)

1953年生。技術士(機械部門)。日本セメント(現太平洋セメント)、川崎重工業精機事業部(現カワサキプレシジョンマシナリ)を経て、現在事務処理機器メーカーでシミュレーションを活用した設計方法の開発および設計コンサルティング業務を担当。川崎重工では、油圧制御システム設計、旧石油公団(現石油天然ガス・金属鉱物資源機構)委託研究による圧力波通信システムの開発研究、対戦車用ミサイル操舵装置の開発に従事。



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