プラレール電車を設計分析しようじゃねぇかい!:甚さんの設計分析大特訓(5)(3/3 ページ)
今回の良君は、中だるみもモードか!? プラレール電車で、「設計思想とその優先順位」とは何なのか、それをもう一度考えてみよう。
どうだ? ここまで理解できたかぁてんだ?
設計品質の1つ1つを具現化していくのが設計です。そして、そこには優先順位が存在します。これを『設計思想とその優先順位』といいました。ていうか次に、この『設計思想とその優先順位』をどのように使うんでしたっけ?
テンメェー! あんだけ実習したのによぉ、またまた3次元モデラーに戻っちまったじゃねぇかい!!
そして、今回2回目の鉄拳制裁が下ってしまいました。
痛―いっ! だって、しょうがないじゃないですか。甚さんのOJT(On-the-Job Training)は1カ月に1回しかないから、つい頭がリセットされちゃうんです。
ほらみたことか! ICレコーダーなんか使ってたから。
「設計思想とその優先順位」の使い方
それでは、「設計思想とその優先順位」の使い方を説明します。まず、ここをクリックしてください。
「正統派」と「手抜き」の両フローに「技術形式の選択」とありますが、皆さんは、適切な材料や部品、技術はどのような理由(根拠)で選択していますか? 例えば、樹脂材料や回路基板の材料、駆動モータ、電磁クラッチ、軸受け、伝達要素などの選択です。
安いとか、軽いとか、短納期とか、小型とか、はたまた営業担当がカワイイとかイケメンとか……そんな、単純な(不純な?)思い付きで選択している場合はないでしょうか? そんな選択をすれば、試作や評価をするたびにトラブルが繰り返し起こることになるのです。これを世間では「手戻りが発生する」とか「手離れが悪い」などいい、開発効率を悪くする原因の1つとなっています。
なぜ、このような“思い付き選択法”がトラブルにつながるのでしょうか? それは、「設計バランス」が取れないからです。その部品、その技術しか見ていないために、周辺技術との調和(バランス)が取れないのです。
それでは、どのような理由で選択されるべきでしょうか? 簡単です。「設計思想とその優先順位」に従えばよいのです。そうすれば、大幅に設計効率が向上します。
表4は、電池の選択表です。横の欄には電池の種別を、縦の欄には表3に記載されたプラレール電車に関する「設計思想とその優先順位」が転記されています。
○=3点、△=2点、×=1点とし、さらに「配点例」にある数字を掛けます。
計算例
「単1マンガン電池」なら、「安全性」は、○なので3点。さらに3を掛ける。1から5の項目それぞれ同じ手順で計算していき、合計点を算出する
「単2マンガン電池」が最高得点(24点)となるので、採用の第一候補となります。
「ボタン電池」は、最低得点(10点)ですが、まず優先第1位の「安全性」が「×」であるため、絶対に採用されません。
また、「単3マンガン電池」および「単4マンガン電池」は、「単2マンガン電池」よりも容量が少ないために交換回数が増えます。そのために「保守性」としては、「△」および「×」と判断しました。
操作性に関してですが、2〜8歳の子供の手を観察してみてください。単2電池のサイズが最もつかみやすいと気付いてくれるでしょう。
最適な材料や最適な部品などを選択することを「技術形式の選択」と呼び、それは「設計思想とその優先順位」に従って選択されます。これにより「設計バランス」が取れ、試作中や評価中、そして、市場においてもトラブルを減少させ、設計の手戻りを抑制します。
伝承することないなら、早く辞めてよ
やっぱり設計分析って奥が深いなぁ。でもこの先、僕でもついていけるかな。
大丈夫ってもんよ。まあ、オレについてきなぁ!
甚さん、頼もしい!
今回もシッカと覚えたかい。6年間の時間の無駄(実務レベルの知識不足)を少しでも早くばん回するんだぞ。ところで、オメェの会社じゃOJT(おおぢぇてぇ)がない、しかも技術伝承にも関心がないようだが。
そうなんです。聞いてくださいよ。ウチの課長は、『2007年問題っていっているのは、オジン連中自身とマスコミだけで、ウチじゃ全然困っていない!』っていっていますよ。
なるほど、現実はそうなんだなぁ。実にリアルな話じゃねぇかい。もっと聞かせろ。
あの人はね、『長話ばかりだから、ICレコーダーで取っているふりしろ!』『メモを書く暇があったら英語の勉強だ!』っていうんです。英語を勉強した方が出世するっていうんですよ。
オメェの会社は……もはやもう技術の会社とはいえねぇな。だってよ、設計書もねぇ、設計審査もねぇ、検図もねぇ、特許も出願しねえ、OJTもねぇ、んでもって、伝承ネタもねぇ。ねぇ、ねぇ、ねぇっとくらぁ。そんな連中がいつまでも居座り続ける。こりゃ、オレたちの世代の責任だなぁ……。
技術の伝承っていいますけど、伝承してほしい人は1割、早く辞めてほしい人は9割ですから。僕の職場ではヒマなおっさん(役員)どもがウロウロしていますとも。前者の1割の人はサッサと他会社に引き抜かれ、残り9割が社内にズルズル居残っているわけですよ。
それホントか? 信じられねぇ。
あの人たち、いつも退職金と年金の話ばかりしています。彼らがいったい何を伝承してくれるんですか。仕事の怠け方です? 業者との癒着方法です? ねえ甚さん、どう思います? 現実をキチンと見つめていますか。
べらっ……。
甚さんはいつものように顔を真っ赤にして怒り出すのかと思いきや、すぐに思い詰めた表情になりました。
……それもそうだなぁ。若いオメェらがかわいそうになってきた。許しちくれ。
ムフフ、やけに素直じゃないですか〜? だったら、もっともっと、設計の神髄を教えてくださいね。お願いしますよ。
ふう、なんか疲れたな……今日はここまでにしておこう。いまから焼き鳥でも食いにいくか。最近、プレミアムモルツの黒がお気に入りなのだ。
◇
甚さん、今回は疲れてしまったようですが、一杯やって、熱々の風呂に入れば、すぐにコロッとしてしまうでしょう。そしてまた次回も、元気にゲンコツを飛ばします! お楽しみに。(次回に続く)
Profile
國井 良昌(くにい よしまさ)
技術士(機械部門:機械設計/設計工学)。日本技術士会 機械部会 幹事、埼玉県技術士会 幹事。日本設計工学会 会員。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。
1978年、横浜国立大学 工学部 機械工学科卒業。日立および、富士ゼロックスの高速レーザプリンタの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年より、國井技術士設計事務所として、設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師としても活躍中。Webでは「システム工学設計法講座」を公開。著書に「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」(日刊工業新聞社)と「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(日刊工業新聞社)がある。
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