鉄腕アトム級の力は圧縮空気で目を覚ます:「失敗学」から生まれた成功シナリオ(9)(1/2 ページ)
長年にわたりおびただしい数の失敗事例を研究してきたことで見えた! 設計成功の秘訣(成功シナリオ)を伝授する。(編集部)
筆者はここ3年間、毎年、NHKの学生ロボットコンテスト(いわゆるロボコン)の録画撮りを見学している。ルールは毎年変わるが、そのルールに従って学生らが考えた得点獲得戦略がまず面白い。
攻撃ロボットがロボコンの華であるが、相手チームの攻撃を阻止する守備ロボットも面白い。開始後、数秒後までに守備ロボットが展開して相手の攻撃ロボットの行く手をふさぐ。
例えば、大きな網を開いてゴールにボールが入らないように覆ってしまう。例年のルールは、開始前にエネルギーをためておくのを評価している。そこで学生は、バネを縮ませておいて、開始後に伸ばして網を展開するというのを常道にしている。
もう1つ、エネルギーをためる方法として使いやすいのが、圧縮空気を容器に入れておく方法である。ペットボトル・ロケットが有名である。ポンと開放すると、図1のように網くらい簡単に飛ばして広げられる。
さらに圧縮空気に変えて、ドライアイスを入れておくと、そのうちに気体の二酸化炭素に変わって高圧が簡単に発生できる。
もっと過激にやるには、消火器のように、常温高圧下で安定した液体二酸化炭素を使えばよい。気体に変わったときすさまじいパワーが生じるはずである。
危険な本であるが、「アリエナイ理科ノ工作(POKA 著、三才ブックス、2007)」がこの件に詳しい。
関連情報 | |
Amazon.co.jp: 図解アリエナイ理科ノ工作―文部科学省不許可教科書(三才ブックス、POKA著) |
10万馬力のパワー源
筆者が船用の大形ディーゼルエンジンを見学したときの話である。図2に示すように、10万馬力というのは、こんなばかでかいエンジンで出力されるのかと感心していた。
ピストンの直径が1mもあり、それが10気筒くらいある。一体、あの人間の子供程度の大きさの鉄腕アトムは何を使って10万馬力を出力したのだろう? このとき何げなく、そのエンジン担当のエンジニアに聞いたのだが、「セルモータはどこですかね」と大いに笑われた。
さて、このばかでかいエンジンは何を使って始動するのだろうか。それは圧縮空気である。エンジンを止める前にコンプレッサで30気圧の圧縮空気を作っておくのだそうだ。
始動時は燃焼室に圧縮空気を入れてピストンを動かし、クランクシャフトが回り出したら燃料を混ぜて爆発させる。日本のエンジンは出来が良く、摩擦が少ないから、30気圧から徐々に圧力を下げていき、数気圧と低くなっても始動できる。もし、空気が漏れてしまったら、バッテリー切れのときと同じように、港の救助隊が圧縮空気を担いで助けにくるという。
魚雷も19世紀の旧式のものは圧縮空気で、スクリューを回したそうである。その後、圧縮空気に燃料を混ぜて燃やして高圧気体を作り、ガスタービンのようにスクリューを回すようになる。第二次世界大戦における日本軍の酸素魚雷は空気から窒素を抜いて酸素だけを用いるが、10kmから30kmの長い射程圏内を誇っていた。長さ9mの魚雷の中にそれくらいのエネルギーがためられていたのである。
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