FEMだけじゃダメ。最適な安全率を理解せよ:解析実務入門 設計者に疲労解析を!(1)(3/3 ページ)
FEMの応力解析をやっただけでは、多めの安全率を採ってしまい過大仕様になってしまう。2種の強度設計のことを理解しよう
許容応力による安全率設計について
疲労安全係数は図5のように、実稼働解析結果の応力「σa」と、横軸方向のそのときの平均応力に対する参照応力の比率「Sf(=安全率)」で表される。
Sf(安全率)=A/σa(応力÷実稼働解析結果応力)
応力Aには疲労限度*4を選ぶことが多い。このSfの値が1を上回るように設計をする。この値がどの程度なら妥当(安全)であるかについては、製品ごと、荷重の種類によって決定される(図5)。
なお、静的な荷重に関する安全率よりも、動的な荷重(振動による共振)に関する安全率を大きめに取ることが通例である。
時間寿命設計について
疲労寿命は、荷重の繰り返しによって製品が耐え得るサイクルのことであり、製品を構成する材料特性のデータが必要である。以下でこれらの設計評価手法を実際の設計に使用する際に留意することを2種類の評価手法別に挙げる。
安全率による設計(=「無限寿命設計」)
安全率による設計では、参照する許容応力は経験則に基づくものであり、また材料によっては一定の疲労限度を超えても損傷が起きる挙動を含んでいるため、厳密な無限寿命とはいえないケースがある。
荷重の条件、材料の特性については、疲労限度設計が妥当かどうか必ず確認する必要がある。しかしながら、許容応力の基準が、最新の製品使用条件に対応されていない(時代遅れな)ことが数多く見受けられる。
また、安全係数も切り欠きなどの不連続個所(「特異場」という)で大きく取る必要があるので、構造の弱点となる個所を事前検討し評価基準を設定しておく必要がある。
時間寿命設計(=「有限寿命設計」)
時間寿命設計といっても、極端に短い寿命(事故的な使用条件など)を評価することはまれである。例えば短い寿命とは、大きな荷重が掛かっても破損を免れるようなケース(二次的な被害など)を想定する場合である。
通常は、製品のライフサイクルに合わせて、いかに軽量化できるかを検討するためには、使用中の荷重モードを広く収集し、選別して事前に評価に使える形にしておく必要がある。実際、過去の破損事例を評価し、その時期を推定すること、荷重を推定することが現代の技術で実現可能になってきた。
また社内の破損事例を集約し、評価の準備資料として整理しておくことも大事である。また、最新機種、主流機種の代表的な機構的特長から、荷重パターンを抽出しておくことも必要だ。
強度のバランス設計
設計者は部品単体の強度だけではなく、部品間の強度バランスを保ちながら所定の設計目標を満たしていく必要がある。
「どの部品が構造上の弱点となるか?」「目標寿命を満たし得るか?」を勘や経験だけに頼らず、データを見て判断できるようにしておくことが重要である。
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次回は、疲労解析の利点、手法と解析の流れ、事例を説明する。
Profile
飯干茂義((いいほし しげよし)
1960年生まれ。材料・機械系大学院修士了。制御通信機系メーカーにて振動騒音試験システム、構造解析システムの開発に従事。自動車、大型機械、精密機械の大規模CAE、振動騒音試験、構造音響連成CAE、非線形CAEの技術支援、耐久強度評価の技術コンサルティングを担当する。現電通国際情報情報サービス製造ソリューション事業部、シニアコンサルタント。日本自動車技術会-正会員、計算力学-技術者1級(日本機械学会)
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