「サバ」は1カ所に集めてしまえば勝ったも同然:利益創出! TOCの基本を学ぶ(5)(2/3 ページ)
モノづくり企業が継続的に利益を創出することを“ゴール”に定め、具体的な方法論を提供するTOC(制約条件の理論)について、初学者向けに基本的な思想、用語、理論などをコンパクトに解説する。
サバの生かし方、TOC流在庫管理法(Distribution and Replenishment)
もし製品倉庫に3カ月以上の在庫が詰まっており、モデルチェンジがあったらどうなるでしょうか。倉庫の在庫はすべて陳腐化してしまいますね。しかし競争があるから新製品は出さざるを得ない。現在は「作った製品はいつか売れる」と信じられる時代ではなくなりました。ところが、通常のメーカーでは数千にも上るアイテムを多くの代理店や販売店に出荷します。
販売店からの注文は代理店や商社を通じ、ある程度まとめてメーカーに注文されるのが普通です。こうなると当然一度に複数アイテムの注文が出されますが、そのうちのいくつかは欠品という状況がしばしば発生します。その欠品のうち半分くらいは別の倉庫に在庫しており、横持ちをさせて何とか間に合わすのが当たり前になっています。
注文票に書かれた中でたった1点がないため出荷できないのが典型的な欠品のパターンです。結局は何カ月分もの在庫を倉庫に積み上げてもダメ、問題の本質は、
- 品種が多過ぎる
- 在庫拠点が多過ぎる
ことなのです。これまで見てきたように、欠品と過剰在庫は同時に発生します。これは会社の中だけでなく、流通段階でもまったく同じことがいえます。
また、一方で需要予測が当たらないという話もよく話題になります。「売れると思ったんだが……」、もしくは「こんなものが売れるとは……」という反応ですね。しかしどのような方法を取ったとしても、需要を完ぺきに予測するのは不可能です。ところが、予測の精度を100%にはできなくとも、簡単な統計の原理を応用することで予測精度を著しく高める方法ならあります。予想値の精度は、合計する予測数(店数)が増えれば乗数的に向上すると考えるのが統計学の常識です。
1店1店の細かい予測の合計を足し合わせて総需要を決めるよりは、全体を大きくとらえて需要予測を行った方が、はるかに高い精度で予測できるということです。すなわち、在庫の多くを販売店からメーカーに移して一括管理してやれば、その予想値の精度は大幅に向上します。必要なのは、工場倉庫の在庫を増やして、サプライチェーンに散らばっている在庫を減らすことなのです。
しかしそれを実現するには、営業の売上至上主義という方針を変えることが必要です。押し込んで販売しても、最終消費者の手元に渡るまでは、売り上げではなく単なる数字の付け替えにすぎません。「サプライチェーン上の売り上げは1つ」という考え方を徹底することが重要なのです。
では、どれだけ在庫を持てばいいか
一般的な在庫管理では、過去の平均出荷量と在庫を補充する平均的なリードタイムを計算して発注点を設定します。例えば在庫を補充するリードタイムが1カ月であれば、平均して1カ月くらいの在庫があればよいという計算になります。しかし、前にも説明したように、何でも在庫させようとするフルライン戦略の結果、生産頻度が制約となり多くの欠品と過剰在庫が発生してしまいます。そうなると顧客もまた、納期遅延を恐れ、「早めに・多めに・まとめて」のサバ読み注文をしたがります。こういった注文が入ると工場の負荷は一時的に跳ね上がり、ボトルネック工程があちこちに出現したように見えるのです。
ではユーザーが実際に使った分だけを毎日補充する形で生産する方式に変更したらどうでしょう。生産財に限らず納品された製品を、顧客は一度に大量に消費するわけではありません。顧客の生産や販売は毎日行われており、末端の消費はそう大きくばらつくわけではありません。そう考えると実際の消費という生の情報に追従する形で生産活動を行った方が、結果的に工場の稼働率のバラツキは抑えられます。
従って短い生産リードタイムと小ロット生産ができる体制が作れるならば、顧客の毎日の生産計画を開示してもらったり、使った分だけ発注をもらうような方式に変更し、それを補充する仕組みを構築できればよいと考えるのです(図3)。もし工場がすでにDBR生産を構築して、短いリードタイムと小ロット生産が可能になっているならば、この仕組みは顧客に大きなメリットをもたらします。
この仕組みを支えるためには、小ロット生産体制の実現が不可欠となりますので、前回お話ししたボトルネック以外の工程が持つ「余剰能力」を小ロット生産体制構築のために振り向ける必要があります。
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