製作不可能なステキ意匠を機構に押し付けないで:龍菜の3次元CAD活用相談室(4)(2/3 ページ)
デザイナーが伝えてくる抽象的な表現やスケッチを設計形状へ具体的に反映するのが機構設計者の仕事だが、これが結構面倒くさい
ステキな意匠だけど、それ製造できまっか?
製品開発の現場では、いわゆる「デザイナー」が造形や意匠という立場から、「設計者」は構造や機構という立場から製品設計にかかわっている。本来は両者がバランスよく統合されなければならないのだが、デザイナーは造形や意匠のみ、設計者は構造や機構のみを守備範囲にして、お互いに無関心なところがあるようだ。
龍菜「デザイナーであろうが設計者であろうが、全体を統合して計画・設計できる人が、本当のデザイナーと呼べるのかな。ゆみさんが知っているデザイン部門の人たちは『意匠設計者』だね」
ゆみ「なるほど、“意匠”設計者と“機構”設計者か、そして全体を統合できるのが本当のデザイナーということですね」
龍菜「意匠設計者と機構設計者も製品設計に対するアプローチが違うだけなんだから、もっとお互いのことを知らないとね」
デジタルカメラに限らず、身の回りにある製品には何かしらデザインされているはずなのに、チョイとおかしいなと感じる製品を見掛けることもある。多分、それらには「全体を統合して計画・設計する」という本来のデザイン思考が足りないのだろう。
龍菜「ほら、ちょっとこのボールペンを見てごらん」 (図1)
ゆみ「まあステキ。流線形なところが特に」
龍菜「そうだろうか? これで実際に字を書いてみれば分かるんやけど……」
このボールペンのクリップ部分の端がシャープエッジになっているのだ。そのまま使うと危ないと思ったので、自分でチョチョイと角を落としたのだが、それでもなお尖っている。
ゆみ「指が痛くなりそうですね。お肌が敏感な私には危険です〜」
龍菜「店頭に試し書きのサンプルがなかったので、見た目だけで買ったんだけど、実際に使ってみると不都合なところが分かるものだよね」
ゆみ「どうして、こうなってしまったんでしょう?」
龍菜「ステキな形であることは間違いないけど、ただそれだけなんだ」
ゆみ「大物デザイナー“さん”のサインがしてありますね?」
龍菜「そうだね。でも、成型品で作るんだったら、クリップの部分がシャープエッジになってしまうようなパーティングラインなんて考えられないでしょう」
ゆみ「設計者が悪いということですか?」
龍菜「デザイナー“さん”は“ステキな意匠”を造形しただけ、設計者はそれを忠実に再現しただけ……ってところじゃないかな?」
ゆみ「少し話し合えば済むことなのに」
龍菜「結局は、全体をまとめ上げるだけのスキルを持った本当のデザイナーがいなかったということだろうね」
ゆみ「似たようなことは日々の仕事でもよくありますよ。私も『“ステキな意匠”とはなんぞや』みたいな勉強をしておかないといけませんね」
龍菜「ゆみさんだけではなくて、デザイナー“さん”にも、設計の勉強をしてもらわないといけないね」
ゆみ「ホント、そうですよね」
龍菜「何も、『デザイナーに設計者と同程度の知識を身に付けろ』というわけではない。危険なボールペンに関していえば、『“最終的にどのような方法で製造されるのか?”くらいは考慮してデザインしてください』という感じだ」
ゆみ「それが本物のデザイナーですか」
龍菜「とはいえ……、どうしても、『素敵な意匠=デザイン』と考えてしまう人が多いみたいなんや」
ゆみ「私もそう思っていました。意匠デザインも設計者も、ちゃんと設計してナンボですなぁ」
龍菜「“ナンボ”……って、また大阪弁や!」
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