まだ自己流の「勘・経験・度胸」を振り回す気?:失われた現場改善力を再生させるヒント(3)(1/2 ページ)
現場改善支援のプロとして、改善プロフェッショナルの育成にこだわりを持ち続けるコンサルタントが贈る現場改善力再生のヒント集。個々人の現場改善能力を3つのタイプに分類し、それぞれに合った処方箋をお届けする。
現場改善力アップに必要なのは問題解決の場数
現場改善力アップの早道は、何といってもさまざまな種類の問題解決をこなすことです。どのようなレベルの問題であっても場数を多く踏むことがとても大切で、たとえ失敗に終わったとしても、その経験は必ず後で役に立ちます。確かに改善活動の成功体験は自信につながりやる気を起こさせてくれる原動力ですが、むしろ自分を成長させてくれるのは失敗の経験ではないでしょうか。
“改善プロフェッショナル”を自称する筆者が、この十年余りで取り組んできた現場改善にかかわる問題解決事案はおそらく1000件を超えると思いますが、お世辞にも成功ばかりとは申し上げられません。たとえそんな場合でも、互いに学べたことが1つでもあれば、ムダではなかったと思います。この仕事を目指すきっかけとなった最初の問題解決プロジェクトでも、実は途中で挫折しそうになりました。
前職でシックスシグマのブラックベルトに任命された筆者の最初のプロジェクトは、画像診断装置内で使われる外部購入品「フレキシブルケーブル・アセンブリ」(注1)の不良原因解明でした。この部品の不良は、診断装置のリコールにつながる重大なトラブルを引き起こすため、たとえ1本でも不良品の流出は許されなかったのです。
当時、電子回路設計技術者としていっぱしの経験を持っていた筆者は、ブラックベルト・トレーニングで覚えたばかりの目新しい数値解析ツールや原因分析手法を使いこなせれば、簡単に原因究明が図れるものとタカをくくっていました。一見すると非常に単純な問題に見えたからです。しかしながら、プロジェクト活動はすぐに壁に突き当たりました。いくら実験や解析を繰り返しても肝心の不良現象を再現できなかったのです。約束の活動期間の半分を過ぎたあたりから、ブラックベルトを励ましてくれるはずのチャンピオン(注2)だった技術部長からも「いったいいつになったら結果が出るのか」とせっつかれる始末で、相当追い詰められてしまいました。
注1:フレキシブルケーブル 薄膜フィルム内に導線が入った屈曲性に優れた(コネクタ付きの)ケーブル。
注2:チャンピオン シックスシグマ・プロジェクトの課題テーマを選び、結果に責任を持つ者。別名、チームの擁護者ともいわれる。
そんなときに社外からプロジェクトメンバーとして参加していたケーブル組立工場の方が、「一緒にフレキシブルケーブルを作っている過程を見てみませんか」と声を掛けてくださったのです。購入する立場の人間が供給先ラインに立ち入ることは珍しくないと思われるかもしれませんが、当時この部品の製造方法は極めて秘匿性が高く、従来は開示されていなかったのです。早速お言葉に甘えて、先方の生産ラインに入らせてもらい、作っている現場を隅々まで拝見しました。そして……、何と不良現象の原因の1つを“現行犯”で発見できたのです。いまから思うと本当に幸運な出来事にすぎないのですが、いくら社内の実験室でもがいても糸口すらつかめなかった原因を特定できたことに感動すら覚えました。
この経験から学んだことは、問題解決には「○○深さ」が必要だということでした。
執念深さ 結果があることには、必ず原因があるのであきらめないこと
注意深さ 現場、現物を実際によく見、現実を見極めること
思慮深さ 知見を持つチームメンバーと一緒によく考えること
コンサルタントに転身してから、もっと厄介な問題にも遭遇してきましたが、この原体験に立ち返って考えることで発想を切り替えられることがよくありました。このときの失敗は、何でも自分独りでやり遂げようとしたことでした。見かねて声を掛けてくれた仲間がいたからよかったものの、そのままならきっと行き詰まっていたに違いありません。また分析手法やツールは大変役立つのですが、それだけでは解決に至らないこともよく分かりました。
こうした問題解決活動における1つ1つの気付きは、当たり前過ぎてつまらないものかもしれません。しかし、現場の問題解決に至る過程は「どこかで見た、いつか来た道」であることが多いのです。身の回りの問題から部門や会社の経営課題まで、範囲やレベルは異なっていても、問題解決の本質はあまり変わりません。特に生産現場のテーマであれば、対象がモノや人であることが多いので、比較的取り組みやすいといえます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.