「2つの勘違い」は工程のバランス追求が発生源:利益創出! TOCの基本を学ぶ(4)(2/3 ページ)
モノづくり企業が継続的に利益を創出することを“ゴール”に定め、具体的な方法論を提供するTOC(制約条件の理論)について、初学者向けに基本的な思想、用語、理論などをコンパクトに解説する。
ドラム・バッファー・ロープとは?
これに対して、TOCは正反対のアプローチを取ります。納期を守り、スループットを最大化するために、そもそも存在する各工程の能力差を「ボトルネック工程」と「非ボトルネック工程」とに分けて考え、むしろ積極的に活用するのです。そして、そのために「ドラム・バッファー・ロープ(DBR)」という仕組みを構築します。
ボトルネック工程とは能力が一番弱い工程ですから、停止してしまうと生産ライン全体のスループットを失ってしまう工程であると同時に、遅れを発生させる工程です。非ボトルネック工程は、多少の停止はスループットに影響を与えず、全体の遅れを吸収する役割を持っている工程と考えるのです。
図2はDBRのイメージです。ドラムは、ボトルネック工程の生産ペース(速度)に相当し、バッファーはボトルネック工程をトラブルや生産の揺らぎから守るために、ボトルネック工程の前に設置される時間的な余裕(具体的には仕掛かり在庫)を表します。ロープはボトルネック工程の生産ペースに同期させて、材料を先頭工程に投入させる仕組みを意味します。
ドラム(D) 生産能力の最も低いボトルネック工程の生産ペース
バッファー(B) ボトルネック工程を各種の変動(トラブルや生産の揺らぎ)から保護
ロープ(R) ボトルネック工程の生産ペースに同期した材料投入
小説「ザ・ゴール」の中でゴールドラット博士は、この考え方をボーイスカウトの少年たちの行進に例えて分かりやすく教えています(図3)。体力がなく最も歩くのが遅いハービー少年が隊列の途中にいて、その位置を変えられないならば、ハービー少年の歩く速度(例えば、ハービーが歩く速さに合わせてたたくドラムのリズム)にほかの少年たちが合わせることで、滞りのない行進ができるとしています。
そのためには、ハービー少年と先頭の少年の間が広がり過ぎないように、少し長めのロープでつないでやればよいのです。なぜ長めなのかといえば、ハービー少年以外もつまずいたり、予期せぬ遅れで立ち止まったりすることがあります、もしそれがハービー少年よりも前を歩く少年だったら、ハービー少年も立ち止まらなければなりません。
もしハービー少年が立ち止まることになれば、常に100%の能力で必死に歩いているハービー少年は、遅れを永久に取り戻せないのです。しかし、彼以外の少年は立ち止まることがあっても、ハービー少年より速く歩けるので、その遅れはすぐに取り戻せます。
この仕組みに欠かせないのが「保護能力」と「バッファー」です。保護能力とはこれまで述べてきたように、もし何かトラブルがあっても素早くリカバリーするために、非ボトルネック工程が持つ「能力的なゆとり」であり、バッファーとはボトルネック工程がタマ切れを起こして停止することを避けるための仕掛かり、すなわち「時間的なゆとり」なのです。
工場の能力をどう考えるか
ドラム・バッファー・ロープでは、各工程が持っている能力差を上手に使うと説明しました。TOCでは図4のように、生産能力を3つに区分けします。
生産的能力
生産的能力とは実際に生産をするために必要な能力です。
保護能力
保護能力とは非ボトルネック工程が持つべき能力で、何かトラブルがあってもボトルネック工程と出荷納期を守り、リカバリーするために用いられる能力の余裕です。保護能力はボトルネック工程の保護バッファーや出荷バッファーの長さとも関係します。バッファーを大きく取れば、保護能力は少なくて済みますが、リードタイムは長期化します。バッファーを小さくすれば、保護能力を多めに取らないとスループットが失われます。
余剰能力
余剰能力とは、混乱やトラブルからスループットを守る直接的な役割はありませんが、次回に説明する短納期小ロット生産を実現するときに大きな役割を果たします。
生産の揺らぎのある環境では、非ボトルネック工程には保護能力が必要です。生産スケジュールを作成する際には、非ボトルネック工程の保護能力を消費し切ってしまう計画を立ててはいけません。実はラインバランスを求めるアプローチとは、生産能力以外の能力を認めないということであり、すべての工程をボトルネック工程とすることと同義なのです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.