3次元で、若手でもベテラン並みに設計する:メカ設計 イベントレポート(2)(1/2 ページ)
富士通が2008年1月29日に開催した「富士通PLMユーザフォーラム2008」より、IHIの3次元CAD導入に関する講演をご紹介する
IHI(旧石川島播磨重工業)は江戸時代創業の造船所が起源である総合重工メーカーである。同社の扱う製品は多岐にわたるが、産業システム事業部では自動車用トランスファープレス機など、大型のプレス機を開発・製造している。
数十〜百メートルスケールの大型プレス機の設計は、生産設備全体を考慮しての設計が要求される。担当装置の設計検討だけではなく基礎や配管の検討まで含まれ、大規模かつ複雑だ。入社数年の設計者にとっては難しいレベルだという。ただしそれは「3次元CADがなかったとしたら」の話らしいのだが?
2001年秋、3次元CAD導入検討に踏み切る
プレス機器の設計は、「高荷重」「高精度」「耐振動」「耐高温」などの項目で、高い信頼性が要求されることに加えて、20〜30年使用され続けることも考慮しなければならないという。ほかの特徴としては「多品目一品生産」「巨大」「精密」「部品点数」が多いことを挙げた。さらに、近年におけるグローバル化により、市場からの低コスト化・短納期化の要求が強くなってきていた。
そして設計現場は「とにかく、“早く”“正確に”“大量の”図面を作ること」を余儀なくされた。
産業システム事業部で使用してきた2次元CAD「Micro CADAM」のサポート終了が発表(2001年6月30日を以て終了)になったことや、客先である自動車メーカーから部品の3次元データをリクエストされることも多くなってきたこともあり、熊谷正機氏らは設計構造改革の一端として3次元CAD導入の本格的な検討に踏み切った。2001年秋のことである。
熊谷氏の所属する開発部隊にはCADオペレータは存在しないので、当然、設計者自らがCADを操作することになる。「ロースペックのPCでも大規模アセンブリがきちんと動くこと」と「操作が簡単であること」を考慮した結果、ICAD/SX(デジタルプロセス)を採用したという。もともと採用していたCADAMと親和性があるということも、選択した理由の1つとのことだ。
設計者による設計者のためのルール
熊谷氏の部署では2002年4月より、3次元CAD ICAD/SXの試験導入を進め、2003年4月には実務の一部から適用を開始した。そこで、いくつかの問題が出てきた。
例えば機械製図の表記についてはJIS規格で細かく定められているが、3次元モデリングの表現の仕方についてはオフィシャルな規格は存在しない。
熊谷氏らがまず問題視したのは、
- 「ネジの螺旋(らせん)は?」「ギアの頭は?」どうモデリングしたらいいのか
- 公差、表面粗さ、表面処理はどうやって表現したらいいのか
などだったという。
「ネジ部の範囲や逃げ」「ゆるみ止め指定個所の区別」「いったいどこが金網で、どこがガラスなのか」、などをどうやって3次元モデルで表現していいものか悩んだという。
また苦労してモデリングをしたところで、2次元図面を作る必要性がなくなるわけではなかったし、3次元CADが“具体的に”どのようにフロントローディングへ寄与するのかの認識も熊谷氏らの中で不明瞭であった。そこで、いったん設計業務そのものの原点に立ち返り、従来の設計プロセスの見直しをはかりながら、“設計者による設計者のためのモデリングルール作り”を推進していくことになった。
熊谷氏らは、以下のような3次元CADの運用ルールを定めたという。なお2次元図面の製図ではICAD SXの製図機能を使用している。
- ネジ穴は青色にする
- ゆるみ止めは、赤・青・黄色にする
- 糸面取りなど細かい形状までモデリングする
- 溶接隅肉は表現しない
- 部署内の設計者が共通で使えるライブラリ部品を作る
- 図面タイトルは、社内で採用しているBOMと整合するようにする
- 1つの図面は必ず16ページ以内とすること
上記ルール設定によって、従来2次元CADで検討してきた項目も3次元モデルへ盛り込めるようになった。最後の項目については「現場の人が30ページつづりの図面をすべて見ているとはちょっと思えなかったし、ICAD SXのスペックによる制約もあったこともあり、このルールを定めた」と熊谷氏は語った。
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