ハッ! とトリックの種「相変化」を設計に応用:「失敗学」から生まれた成功シナリオ(5)(2/2 ページ)
長年にわたりおびただしい数の失敗事例を研究してきたことで見えた! 設計成功の秘訣(成功シナリオ)を伝授する。(編集部)
金田一に、この謎(なぞ)は解けるのか!?
「本陣殺人事件」(横溝 正史・著)というミステリーがあった。ツララ状の氷が殺人の凶器となるが、警察が来るころには溶けてしまうのである。
それと同じように、作業した後、溶けてしまう「賢い砂」がある。世の中には「サンドブラスト」という装置がある。圧力を掛けた空気や油と一緒に、酸化シリコンの砂を加工物に吹き付けて、表面の付着物を除去したり、表面に残留圧縮応力を付与する。ところが、図3のようにヤカンの内面のような手の届かないところを、サンドブラストするのは大変である。加工後に流れずにたまった砂を除去しないとならないが、手が入らず、とにかく洗浄しにくい。さてどうしたらよいか。
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似たような問題
薄い板を接着剤で治具に固定して、表面を研削しているが、加工後に有機溶剤で接着剤を溶かすとクサいし、頭が痛くなるし、環境に悪い。さてどうしたらよいか。
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湿気、イヤイヤ〜
水蒸気は空気の温度を下げると、水滴が析出(*異相の物質が分離すること)する。上述の砂糖を入れた紅茶が冷めたのと同じである。でも、その水滴はどこに析出するのだろうか。
冬の寒い日、お風呂に入っていると、風呂場中に、水蒸気飽和空気の湯気で覆われる。図4のように、冷たい壁や天井にも膜状に水が付着しているが、窓ガラスには大きな水滴が付いている。窓ガラスの向こうの外気が冷たいからである。雨の日の自動車のフロントガラスも同じである。飽和していないエアコンの空気を吹き付ければ、曇りが消えていく。後ろのガラスは電気抵抗線で温めて、空気の中に蒸発させる。
筆者の大学の地下2階の工作室の壁は、夏の間、いつも汗をかいていた。その壁は地面との土留めの側面で、夏でも冷たい。
クーラーを入れて空気の温度を低くすると、まるでハエ取り紙のように水滴を集める。だから、壁に断熱ウールを張り付けた。表面は温かくなって、汗は消えた。でも次は工作機械が汗をかくようになり、生暖かい海風のときは機械がさびた。それならば、壁が犠牲吸着板になってくれた方がまだマシであった。
チタンは真空の中で水蒸気のようなガスを吸着する。ハエ取り紙ではなく、“ゲッター”と呼ぶ。全面に吸着したら、後で温度を上げてガスを放出させる。そうすると吸着板として再び使用できる。(次回に続く)
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