規模の経済から“速度”の経済へ、PLM新世代:先進企業が目指すグローバル成長期のPLM(4)(2/2 ページ)
日本にPLMを紹介する先駆けとなった書籍「CRM、SCMに続く新経営手法 PLM入門」(2003年刊)を執筆したアビーム コンサルティングの執筆チームが、その後のPLMを取り巻く環境変化と今後のあるべき姿について、最新事例に基づいた解説を行う。
PLMソリューションの活用
具体的に、ある情報機器メーカーの例を示そう。その企業では商品に設計変更が生じた場合、
- 購買部門に連絡
- 購買部門は各サプライヤーに連絡
- その納入変更の伝達とその供給時期を確認
- 生産管理はEMSに連絡
- EMSの部品の在庫状況を聞く
といった手順を踏まねばならず、どの段階から切り替えられるか確認するだけでも手いっぱいであった。連絡の徹底が精いっぱいであり、製品管理を担当するプロダクトマネージャは、設計部門から設計変更の判断を求められても、せいぜい部品変更に伴う調達コストの変化程度の判断しかできなかった。ビジネスプロセス間の情報分断により、業務の手間が増大し、知り得る情報に限界が生じていたのである。このような課題には、従来の業務改善ではもはや対応できない。情報技術の強化とパートナー連係による情報処理速度の向上が必要になる。
この情報機器メーカーは、サプライチェーン管理とエンジニアリングチェーン管理を製品軸で管理できるポータルを構築した。社内データとしては、
- 新製品開発プロジェクトの状況
- 設計情報
- サプライチェーンの需要計画
- 生産計画
- 製品別PL
- BOM
を取り込み、このポータルに外部パートナーの与信管理、物流3PL業者、EMS、部品供給サプライヤーをアクセス可能とし、あるいは、彼らのデータベースと連動させた(図1)。
このポータルは、結果的にデザイン、発注、試作、本格的な製造、販売、そしてアフターサポートへとつながるビジネスの流れを作り出し、それぞれの製品単位で情報の参照と更新を可能にした。各ビジネスを別部門が受け持つために情報が分断されている現状を改革したのである。
仮に、ある製品のある部品に欠陥があるかもしれないという情報が営業現場から来た場合、ポータルにアクセスするだけで、その製品の同様部品をどのサプライヤーから、いくらで購入可能か、その納品がいつなのか、また生産拠点においては、新部品がどの製造ロットから変更可能か、工場出荷後搬送中のどの製造ロットは、どんな部品が使われていたかなどを一気通貫で情報収集し、対応することが可能となる。各部門からこのような情報にアクセスできれば、その効果は計り知れない。
アフターサービス部門は、故障が発生した際の原因究明について、他部門の手を煩わせずにある程度可能となり、設計部門に対し、設計書に基づき部品の問題点を指摘できる。プロダクトマネージャは、設計変更に対するコストインパクトを過去、現在、未来にわたって継続管理可能となる。
現在進行中である複数の開発プロジェクトの進ちょく状況も一元管理可能となり、現場の要求に応じた設計上の改善が、次バージョンで反映可能か、次々バージョンで反映可能かなどを判断できる。さらに、BOMにモジュール部品を供給するサプライヤーのサブパーツ情報も統合すれば、購買部門はキーパーツサプライヤーと直接ボリュームディスカウント交渉をし、調達コストをさらに引き下げることも可能である。
実際に某コンピューター関連メーカーはOEM供給してもらっているキーボードサプライヤーのサブパーツ情報をBOMに取り込み、調達コストの引き下げに成功している。さらに、サプライヤーのキーパーツ納入情報も把握できれば、急な需給変動への対応可否の迅速な判断も可能となろう。
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このようにエンジニアリングチェーンである設計・製造、サプライチェーンである営業・購買・製造・物流・アフターサービスを統合管理するPLMシステム導入の効果は絶大である。
筆者紹介
近藤敬(こんどう たかし)
戦略事業部プリンシパル
ペンシルバニア大学ウォートンスクール(MBA)卒。政府系特殊法人、外資系メーカーマーケティング部、戦略コンサルティングファームを経て現職。各社の新規事業・新製品開発、マーケティング戦略、グローバルサプライチェーン構築、全社生産性向上などのプロジェクトに従事。主な著書(共著)に「サプライチェーン理論と戦略」(ダイヤモンド社刊)、「成功するeサプライチェーンマネジメント」(実業之日本社刊)、「CRM、SCMに続く新経営手法 PLM入門」(日本能率協会マネジメントセンター刊)など多数。
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