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「オマケを加えよう」とつぶやけば、イイことあるかも「失敗学」から生まれた成功シナリオ(4)(1/2 ページ)

長年にわたりおびただしい数の失敗事例を研究してきたことで見えた! 設計成功の秘訣(成功シナリオ)を伝授する。(編集部)

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 自動車の塗装工程は二酸化炭素をたくさん排出する。鉄やアルミニウムを溶かす鋳造工程と同じくらいエネルギーを使うのである。ざっと全プロセスの排出量の1/4に達する。塗装といってもエアーガンでシューと吹き付けるような簡単なものではない。「電着(でんちゃく)塗装」と呼ばれるが、塗装液体のプールの中に、荷電したボディを沈めてメッキのように塗装してから、乾燥させる。

 また、「静電塗装」といって、図1に示すように塗装ガンの中で塗料液滴を帯電させてから、荷電したボディに加速させるように吹き付けを行い、また乾燥させるという処理もある。それは何回か重ね塗りすることで完成となる。最近の塗装は、はげず、さびず、亀裂も起こらないうえに、ワックスを塗らなくても光沢が持続する。

ALT 図1 塗装に電気力

 つまり、吹き付け塗装の工程の中に、電気力を「第3物質」として導入して、強固な塗膜を形成させているということになる。このとき、筆者は要求機能を第1、設計解を第2、その設計解に加えたオマケの物質や作用を第3、と単純に数えた。このオマケを「第3物質」とか「第3要素」と呼ぶことにしよう。

 しかし、この電気力付きの塗装工程は、電気力なしでも乾燥の入熱量が大きいうえに、静電塗装のときの周りの雰囲気の温湿度管理のためのエネルギーも大きい。その結果、二酸化炭素が過剰に放出され、環境に優しくない。といっても、たかが塗装である。自動車の運転(駆動、加速、停止、かじ取りなど)という主要機能に比べれば、「塗装」の要求機能は、意匠上の美観や防食のような副次的な機能である。副次的な機能がなくても自動車は走る。美観と防食を満足したうえに、環境にもっと優しいような、別の設計解がほかにあるだろうか。

ALT 図2a 塗装のほかの設計解「印刷シール貼付」

 例えば、図2(a)に示す「印刷シール貼付」が考えられる。いまや電車工場の塗装現場はこの20年間のうちにエネルギー消費が著しく減少した。なぜならば、車体に印刷シールを貼(は)るからである。子供の描いた絵がボディの柄となっている電車や飛行機を見たことがあろう? 印刷シールはそれにも使われているし、ペットボトルや飲料缶にも使われている。ここでは、シールが「第3物質」である。ペタッと貼るだけで、シールは鋼板に固定され、熱処理が要らない。

ALT 図2b 塗装のほかの設計解「塗装鋼板」

 ほかにも、図2bに示す「塗装鋼板」が考えられる。塗装鋼板とは、メッキ鋼板と同じように、製鉄所であらかじめ塗膜を樹脂に貼り付けておいた鋼板である。写真フィルムを作るときのように、平らの鋼板の表面に塗装液体を一様に流して、一様に乾燥させる。塗膜は強固であり、プレスで折り曲げても塗膜にクラックが入らない。剪断(せんだん)した断面にも塗膜が伸びて、そこからさびない。

 洗濯機やエアコン、テレビゲーム機など部品にも、大抵この手段が使われている。家電工場には塗装現場がなくなった。そのうち、自動車工場にも塗装現場がなくなる日が来るかもしれない。

棒を板に近づけたときの距離

ALT 図3 棒を板に近づけたら?

 別の設計問題を考えてみよう。ここでは「棒を板に近づけたときの距離を測りたい」という問題を挙げる。例えば、モータを制御しながら棒を板に近づけていき、その距離を1mmから1μmと縮め、接触直前に止める場合を考えてみよう。次の図4(答え)を見る前に、最低でも3個の設計解を考えてみてほしい。

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