キラーコマンドを駆使してサクサク修正:ノンヒストリーCAD虎の巻 (下)(3/3 ページ)
履歴ツリーがないからこそ修正がストレスなくできるが、もちろん不得手な場面もある。どんなCADであっても後先を考えての設計は大事だ
マルチボディは必要ない
ある複合的な機能を持つ部品を設計する際、何処から設計を始めるか迷うことがあります。こんなときは、機能ごとに別々に形状を作って、その部品の名称のアセンブリとしてまとめてしまいます。
ちょうど、ヒストリーCADでいう「マルチボディ」みたいな状態です。それぞれの機能ごとにある程度形状が詰まってきたところで「和」で一部品化して、部品の完成です。
例えば、FPCのようなさまざまな部品との関連を持った幹と枝を持つような形状の部品。
幹を基準にして枝部を作って行くと、コネクトされる部品の位置が変わる度に枝の位置や形状を変更する必要があります。一方で、それぞれの枝部をそれぞれのコネクトされる部品とアセンブリを組んで設計すれば、枝部は変更する必要がなく、最後にそれぞれの枝を和で結合して形状を整えればFPCとして完成です。和を活用することで、このような設計も可能になります。
ライブラリーの活用
部品ライブラリーやテンプレートは活用されているでしょうか? Webや電子カタログなどで提供されている部品であれば利用されていそうですが、設計の中でたびたび登場する、“ちょっとだけ複雑な形状のテンプレート的なもの”を含めると、専属のCAD管理者やボランティア精神旺盛なスーパーCADユーザーがいない限り、ほとんど使われていないのが実情ではないでしょうか?
マニュアルを読んで、パラメータを振った形状を作って、使い方の説明書を付けてサーバにUP……。設計者の片手間にやる仕事としては、少々手間が掛かり過ぎる気がします。
ここでも「切断」の登場です。欲しい形状を切り取って、テンプレートのフォルダにでも保存しておきましょう。この作業なら、設計者でもできる作業ではないでしょうか。
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ノンヒストリーCADが苦手とする作業
ヒストリーCADを使っていたころは、機構の確認を竹ひごモデルで簡単に確認(*機構確認用モデルやスケッチのこと:竹ひごのように見えるため)していたのですが、ノンヒストリーCADの基本機能では合致条件などの設定ができないので、竹ひごモデルのような機構検討は不可能です(ひょっとして、オプションを使うことでヒストリーCADレベルまで使えるのかもしれませんが……)。
私は、コンフィギュレーション機能で代用していますが、複雑な機構を扱う設計の場合には、注意が必要かもしれません。
ヒストリーがないと、何が起こる?
当たり前ですが、ノンヒストリーCADには、ヒストリーがありません。従って、「ロールバックさせて単純な形状に戻してから、形状の修正開始」ということができません。いまある最終の形状で修正を行わなければならないため、たくさんの面を選択しなければならないような複雑な形状だと、どこまで修正したかが分からなくなってしまう場合があります。
スマートに変更できない
ある機能を持った部分を動かしたい場合、ヒストリーCADで上手にモデリングしてあれば、すぐに変更可能です。
一方、ノンヒストリーでは、面(もしくは、限定的な面の集合体)を選択して動かしてモデルを修正していくわけですが、この際「面を選択する」という作業が必須です。この面を選択する操作、設計序盤であれば、形状が単純なため選択するもの苦労しませんが、中盤以降だと複雑に込み入った中から、修正したい面を選択していかなければならないので、かなり面倒な場面に遭遇します。
複雑なスケッチを必要とする形状の修正
スイープやロフトのような、いくつかのスケッチを組み合わせて作る形状。これらは、ダイナミックに変形させることができない場合が多いため、ほとんどの場合、3次元形状の作り直しになります。
ノンヒストリーCADでは、3次元形状に仕上げるとスケッチは不要になるので消してしまうのですが、このような場合にスケッチを消してしまっていると、面倒なスケッチからやり直しです。
パラメータ設定
チャレンジニアリングな部分においては、ロバスト設計を実践されている方もいらっしゃると思います。この場合、パラメータを使った形状が必須になります。ノンヒストリーCADでもパラメータ設定は可能ですが、いまのところ、もともとパラメータを扱っているヒストリーCADに一日の長がありそうです。
森を見るのを忘れるな!
これは、CADによらない部分になりますが、「ゴリゴリ進める部分」と「慎重にワンフィーチャ程度から構想する部分」の区別に気を配ることです。難しいASSY(*組み立て図)や部品に手を掛け始めると、どうしても一点集中になり自分の世界で設計してしまう状態になりがちです。とくにノンヒストリーCADだと後先を考えずに設計してしまっても、後で修正が容易なためその傾向に陥りやすい気がしています。はやる気持ちをグッと抑えて、「プチDR開催(*小さなことから打ち合わせ)」や「ベテランめぐり(*先輩に意見を聞き回る)」をしていろいろなアドバイスを取り入れ、また周りの部位・部品の状況もよく考察し、以後の大設計変更を未然に防ぐことも重要です。
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よーく考えよう。CADは大事だよ
これをもって、この記事は終了となりますが、ノンヒストリーCAD・ダイナミックモデリングの有効性、多少は感じていただけたでしょうか?
CADは、高額であったり、使うために教育が必要だったりするため、なかなか新しいものに変えようという動きが取りにくいと思います。
しかし、(ちょっと極端ですが)大木を切り倒すのにナイフを使ったり、鉛筆を削るのにオノを使ったのでは、いくら人間が頑張っても効率が上がりません。現状は、ベターな道具を使っていたとしても、業務の拡大で切るものが鉄骨や糸に変わるかもしれませんし、昨今のPCの発展からすれば、オノの代わりの電ノコや、ナイフの代わりの鉛筆削りがいつ登場するか分かりません。ここ数年のCADの進化を考えると、ノンヒストリーCADとヒストリーCADの関係でさえ「どちらが卵でどちらがニワトリ?」という関係になるかもしれません。
CADは機械設計のための重要なツールです。情報誌・上長・管理者・CADベンダなどの意見や過去の資産に捕らわれずに、アンテナを高くして、いまのCADが自分の業務にマッチしているか、一度考察してみてはいかがでしょうか?
Profile
本目 成男(ほんめ しげお)
1970年東京生まれ。1993年にコニカ(現コニカミノルタ)に入社。オプトメカトロ部門で、精密機器の設計・開発に携わる。傍ら、3次元CADの設計への本格導入と3次元CADの乗り換えの旗振りも務める。
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