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シャープ“亀山モデル”のアキレス腱とは?先進企業が目指すグローバル成長期のPLM(2)(2/2 ページ)

日本にPLMを紹介する先駆けとなった書籍「CRM、SCMに続く新経営手法 PLM入門」(2003年刊)を執筆したアビーム コンサルティングの執筆チームが、その後のPLMを取り巻く環境変化と今後のあるべき姿について、最新事例に基づいた解説を行う。

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光ディスク業界に見る日本企業の競争戦略

 日本の光ディスクドライブ業界にそのヒントがあるように筆者は考えている。現在この業界で大きなシェアを握っているのは、日本企業と韓国企業の合弁会社だ。日本企業側がキーデバイスである最新の光ピックアップを供給することで、最先端のドライブの開発が可能になり、この合弁企業の中で日韓双方のエンジニアが協力して開発を進めることで、ノウハウやスキルのトランスファーもスムーズになる。

 こうすることで、日本企業は安定した自社のキーデバイスの供給先を得ることができる。共同開発することで開発費の圧縮も可能で、日本市場で求められるハイエンド製品は依然として自社ブランドで供給できる。また韓国企業が圧倒的な販売力を誇る海外で、その韓国企業と競合するのではなくデバイスを供給する関係を構築することで、自社の光ピックアップの出荷額も伸ばすことができるのである。詳しくは新宅純二郎氏の同業界に関する論稿に目を通されたい。

図1 光ディスクドライブにおける協業イメージ
図1 光ディスクドライブにおける協業イメージ
新宅純二郎 東京大学 大学院経済学研究科 助教授のWebサイトを参考にした。

 その上、光ピックアップ専業になった場合には得ることのできなくなってしまう最終製品を開発するノウハウを維持向上させることもできる。破壊的イノベーションが起きた際には、現状のモジュラー・アーキテクチャが有効性を失う恐れがある。そのイノベーションを取り込み、差別化を図ることで、そうした危機を乗り超えるためには、最終製品全体で再調整・最適化できる力は決定的に重要である。過去の光ピックアップのイノベーションでも、松下電子工業によるホログラムユニットの開発に見るように、デバイスからドライブまでをグループ内で開発生産していた企業が優位に進めることができた。

日本企業の競争力の源泉

 日本の製造業の競争力の源泉は開発・製造の現場での擦り合わせ能力にある。しかし、デジタル化とそれに伴うモジュール化でこの能力を発揮できる範囲が著しく制限されてきたことが、昨今の日本の電機メーカーの競争力低下に結び付いてきた。モジュール化された世界での「アセンブラーとしての体力勝負」は、明らかに日本企業に分が悪い。その一方で、テクノロジーのライフサイクルが短くなり、アーキテクチャレベルでのイノベーションが起こる確率も上がってきているといえよう。そして、従来のモジュラー・アーキテクチャの有効性が失われるようなアーキテクチャレベルでのイノベーションが起きるときには、再び新たなアーキテクチャを生み出すために全体を擦り合わせて調整していく能力が求められることになるのだ。

 毎年のように価格が30%以上下落している中、日本の開発・製造現場は利益なき繁忙に疲弊している。息のつけない、出口がないように感じられる毎日に閉塞感を感じられている方も多いのではないだろうか。アーキテクチャがシフトするタイミングにどう備えるか。その危機を逆に好機ととらえ、どう乗り切るのか。そのときに、日本の技術屋の実力が試されることになるのだと思うし、「モノづくり大国日本」の復権のチャンスがそこにあると信じている。毎日の仕事に追われながらも、われわれはそれに備えて自己研鑽(けんさん)に励まなければならない。


筆者紹介

福寿達也(ふくじゅたつや)

アビーム コンサルティング株式会社

製造流通事業部シニアマネージャー

京都大学卒。鉄鋼メーカー、システムインテグレーターを経て現職。自動車、ハイテク業界を中心に、各社の設計開発プロセスの改善、サプライヤーとのコラボレーションの最適化、製品開発リスク管理の強化、部品表/開発成果物/設計品質の管理システム構築、設計開発部門の生産性向上などのプロジェクトに従事。



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