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チリも積もれば予想外「失敗学」から生まれた成功シナリオ(2)(1/2 ページ)

長年にわたりおびただしい数の失敗事例を研究してきたことで見えた! 設計成功の秘訣(成功シナリオ)を伝授する。(編集部)

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 普通は何かを2倍にすると、結果も2倍に、または半分になる。例えば、2倍長くアルバイトすれば、給料は2倍になる。自動車の重量が2倍になれば、加速度は半分になる。しかし、そんな直観がまるで働かず、予想外に大きく変化する現象もある。

片持ち梁(ばり)のカンチガイ

 機械設計でよく間違えるのが、板のたわみや応力である。図1のように、厚み1mmの鉄板が片方の端で固定されているが、もう一方の端に重りがぶら下がっている状態を考えてみよう。当然のことながら、鉄板は下向きにたわんで、鉄板の上側には引張応力が働く。最も大きな引張応力は、固定された端の根元の上側に生じ、最も大きなたわみは、重りが付いている端に生じる。さて、鉄板の厚みを2倍の2mmに変えたら、この最大の引張応力と最大のたわみは何分の1になるか? 2分の1か?

ALT 図1 板の厚みを2倍にしたら、たわみと応力は何分の1になるか

 答えは、たわみは8分の1で、引張応力は4分の1である。ちょっとベコベコしているから危ないな、と思ったら厚みをちょっと厚くすればよい。たわみは3乗分の1になるし、応力は2乗分の1になる。さらに、剛性は8倍になるから、8の平方根を取って共振周波数(*1)は2.8倍になる。「本当かよ」と疑うならば、何でもいいから材料力学の教科書を探してきて、片持ち梁のたわみと応力の式を読み直せばよい。それらしいと分かるはずである。なお、この「厚みを2倍にすると、たわみは8分の1で、引張応力は4分の1になる」法則は、図1の梁の両方の端を固定する条件でも、この梁が柱でなく円板である条件でも、同じように成立する。

熱伝導にまつわるエトセトラ

 もう1つ直観が狂うのに、拡散方程式(*2)がある。これは熱伝導方程式(*3)でもある。化学反応や伝熱工学の教科書には必ず書いてある。

ALT 図2 氷の大きさの相似比が10倍になったら、凍結時間は何倍になるか

 ここでは、熱伝達の浸透深さ(*4)と伝達時間の関係で間違える。浸透深さが2倍になると、伝達時間は自乗の4倍になるからである。例えば、図2のように、冷蔵庫で1辺3cmの立方体の氷が、10分で水から作れたとする。それでは30cmのブロックの氷を作るには何時間かかるか、という問題を考える。答えは、熱の浸透深さが10倍になるから、そこまでの熱の到達時間は10分の100倍の16時間となる。これが3mと100倍になると、その自乗だから、なんと70日の2.3カ月になる。

 氷室に中に雪を固めておけば、夏でも溶けないことは容易に理解できよう。メキシコの土壁の家の室内が夏でも一定で涼しいのは、昼の猛暑が厚み30cmくらいの土壁を伝わらないうちに、夜になって逆に土壁が冷やされるからである。

 同様に、池の底は冬でも温かく、井戸の水は夏でも冷たい。泥鰌(どじょう)や鮒(ふな)が冬眠できるのも、極寒の空気の寒さが池の底まで伝わらないからである。

 トンネルの凍結工法として、営団地下鉄半蔵門線の九段下の日本橋川の工事が有名である。川の下の土を凍結させて固め、その直下を掘るのである。そこでは、4m置きに塩化カリウム冷却液を循環するパイプを打ち込んだが、1mの浸透深さの土を凍らせるのに9カ月掛かっている。

 逆に、浸透深さが2分の1になると、拡散時間は4分の1になる。マイクロチップのように、小さな反応器で拡散が支配的な化学反応を起こすと、反応時間が著しく短くなる。例えば、直径2cmの試験管で3時間かかる血液の抗原抗体反応を、幅0.2mmと100分の1の小さな溝で起こすと、1万分の1のたった1秒で終わってしまう。ではマイクロタービンを作ったらどうなるだろうか。同様に、熱があっという間に伝わるので、高熱部分と低熱部分が同じ温度になって、結局、熱機関として働かなくなって止まってしまう。

編集部注

*1 共振周波数:共振が起こる周波数のこと。共振とは、物体がもつ固有周波数と外部から受けた衝撃の周波数とが共鳴し合い振動が大きくなること。振り子やブランコがゆれる原理。

*2 拡散方程式:気体や液体などが徐々に広がっていく現象(拡散)を計算する方程式。

*3 熱伝導方程式:物質の中で熱が高温部から低温部に移動する現象を拡散方程式で表したもの。

*4 浸透深さ:物質の浸透力を表す値。

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