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モノ作りの意識が薄れつつある現状組み込み業界今昔モノがたり(2)(2/2 ページ)

モノ作り大国ニッポンの組み込み業界は品質低下という大問題に直面している。その元凶の1つはコミュニケーション力の著しい低下だ

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コミュニケーション不足から生まれるギャップ

 モノ作り大国を標榜(ひょうぼう)している日本で、組み込み業界が品質の低下という大問題に直面している。「その元凶の1つに“コミュニケーション力の著しい低下”がある」と中根さんは語る。しかも、それは複数の場面で発生しているという。

 まずは“メーカーと外注先”の相互交流だ。前述の例でも分かるように、「メーカーに要求仕様書を書ける技術者がいなくなった(少なくなった)」と中根さんは嘆く。一昔前までは、メーカーはモノ作りを完ぺきに掌握していた。細部にまで神経を行き渡らせて、“本当に作りたいモノを作るんだ”という主体者意識というかオーナー意識があり、良い意味でも悪い意味でも、外注先を手足として見ているところがあった。それだけに要求仕様書は水も漏らさぬ完全さを誇っていた。

 しかし、今日のメーカーの仕事はだんだん中身が変わりつつあるようだ。売り上げは重要だからマーケティングには力を入れるし、最終的なゴール設定もきちんと行う。しかし、それをどのように実現するかは相手任せ、つまり外注先に一任するような状況になってきたのではないだろうか。「水平分業が進んだのだ」「それだけ外注先を信頼しているのだ」といえば聞こえはいいが、要するに、メーカーは“作るモノの中身がブラックボックス化するのを許容するようになってしまった”のである。

フリー・アーキテクト 中根隆康氏

 確かにこのような体制なら、完ぺきな要求仕様書を書く必要はない。だが、ある意味“製造責任の放棄”でもある。なぜこのようなことになってしまったのか。中根さんは、「モノ作りの会社が、モノ作りを本当には知らない人々によって管理されたり、経営される状況がますます進んできたからだ」と推測する。モノを作るのは手間も時間もコストもかかる。効率や利益率をより重視するなら、そして作るモノに対するこだわりがないのであれば、“自分たちで作らない方が得策だ”ということになってしまうのである。

 故に、外注先はゴールだけ決まっているメーカーの思惑をヒヤリングやプロトタイプでくみ取っていかなければならない。お互い気心の知れた長年の付き合いならそれも成立するだろうが、初めての取引であったり、まったくの新規分野であったりすると、会話に使う言葉の意味から1つずつ確認しなければならないほど、それはとても困難な作業になる。

 そうした“コミュニケーションレス”は同じ作り手同士の間でも起きている。ハードウェアを担当する人間とソフトウェアを担当する人間の間にも高くぶ厚い壁が立ちはだかっているのだ。お互いのことを考えていない。それが最大の問題だ。

 あるCPUは命令長が16bitsで設計されている。となればメモリへも16bitsのバス幅で送るのが常とう手段なのに、ハードウェア設計者は自分の判断だけで8bitsにしてしまった。そうなると、1個の命令を送るのに毎回2度の送信が必要になりスピードが半減してしまう……。そういう単純な設計ギャップが、現実に、頻繁に、発生しているらしい。

嘆かずに立ち上がろう

 こういう事態に陥ってしまった原因はいくつか考えられる。1つには、“スピード経営が志向されるあまり、モノ作りも短納期化が求められ、時間に余裕のない状態で仕事を進めなければならない”ことがあるだろう。また、昔に比べて組み込み製品がどんどん複雑化、高機能化し、何十人、何百人といったメンバーで役割分担しなければならず、そのために全容を把握しづらくなっているという側面がある。自分の作っているものが、「社会を豊かにするのに役立つんだ」「世界を変えるんだ」という誇りを設計者・開発者が持てればいいが、仕事が細分化されるあまり、“何のためのこれを作っているのか分からない”という状態に陥ってしまう。この状態だとモチベーションが維持できず、結果的にミスの発生も多くなってしまう。

 「結局、人が足りないのだ」とはよくいわれることである。

 “モノ作りの本質を分かって設計できる人材がいない”“プロジェクトの全容を把握して取り仕切れる人材がいない”“品質担保のとりでとなるテストのための人材がいない”など……。

フリー・アーキテクト 中根隆康氏

 「しかし」と中根さんはいう。

 「初めからそんな人材がゴロゴロ転がっているはずはない。メーカーは“教育という自助努力”もせずに、即戦力として使える人間を外部に求め過ぎている」と中根さんは憤る。人がいないと嘆いてばかりいないで、“自ら人材育成に立ち上がるべきではないのか”というわけである。

 そうだ、今日の状況を嘆いてただうずくまっている場合ではない。立ち上がって動きだそう。問題を打破するための方策が何かあるはずだ。

 次回は、中根さんからの提案を中心に、組み込み開発が本来持っている醍醐味(だいごみ)、そして組み込み業界がこれから向かうべき方向性について考えてみたいと思う。(次回に続く)


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