私の設計、変ですか?:龍菜の3次元CAD活用相談室(1)(1/3 ページ)
設計コンサルタント 龍菜氏に寄せられたメールから始まる物語を通じて、3次元CADを活用した設計について考えていこう。第1回は、「設計基準」がテーマである
それは、1通のメールから始まった。
私は、某メーカーのエンジニアとして22年間勤めた後、独立をした。そのときに開いた私のWebサイトで、3次元CADを活用した設計指南や、オペレーション支援情報を掲載している。
ハンドルネームは龍菜(りゅうな)。設計コンサルタントを生業(なりわい)とし、研修や講演のために日本各地を飛び回ったり、雑誌に寄稿したり、と忙しい日々が続いている。そんな状況でのWebサイト管理は、ちょっと大変が、さまざまな場所に住む、さまざまな年齢の、そしてさまざまな境遇の人たちと出会える楽しみがある。
Webサイトあてには、訪問された方からのメールがちょくちょく寄せられる。メールフォームのそばには「個別の相談などもお気軽にどうぞ」と書いてあるので、日ごろの設計業務に関する相談もたまに来る。そして、「一緒に解決していきましょう」なんて書いているかぎりは、当然、無視するわけにもいかないのである(!?)
彼女のメールも、そんな中の1つだった。送信主のハンドルネーム「ゆみ」さんは、デジタルカメラメーカーの開発部門で設計アシスタントをしている。将来は設計者として食べていきたいのだという。
彼女が上司や現場の設計者に「私の設計、変ですか?」と聞いても、返ってくるのは「普通はこうでしょ〜」とか「これが常識!」などという答えばかり。毎日モヤモヤした気持ちで仕事をしているようだ。
「『俺は設計者だ!』みたいな人が多いんじゃないですか?」と私はそのメールで問いかける。
ゆみさんからは、「そうですね、自分のいうことが一番正しいと思ってらっしゃるようです。素朴な疑問や異論を唱えるにも、その都度ちゅうちょしてしまいます」という返事が……。
そんな感じで、メールをやりとりしながら、話を聞いてみるのだが、文字の往復だけでは、問題を解決するには気が遠くなりそう。なんとかならないものか。
ゆみさんは、東京で行われる製造業向けITソリューションの展示会を訪れる予定だという。ちょうど私も、仕事がてら立ち寄る予定だったので、その会場にて直接お会いし、彼女の抱える仕事の問題について話をしてみることにした。
展示会にて
展示場に到着した私は、待ち合わせまでの時間を利用して、たまたま通り掛かったCADメーカーのブースに立ち寄り、同社製品の3次元CADを説明していたデモ担当者(「デモ」氏とする)に話し掛けた。
龍菜「この3次元CADは何が特徴ですか?」
私が尋ねると、デモ氏は3次元CADをオペレーションしながら、その製品の売りである新機能について、意気揚々と説明してくれた。しかし、それが果たして彼がいうように、そんなに大きな利点のある機能なのかどうか、私には、いまいち伝わってこないのである。
龍菜「……そういうことなら、あまり大きな特徴というほどのことでもないと思うのですが」
デモ「そうですねぇ……」
思わずもらしてしまった私の本音に、デモ氏はそれを否定しなかったのである。というか、 それなら大々的にデモしなくてもいいのになぁ。
そう思いつつ、私はデモを引き続きデモを見て、モデリング時に「設計基準」が考慮されてないことに気が付いてしまうのだった。そこで、デモ氏に問題を出してみることにした。
龍菜「いま、説明されていたモデルの形状を最初から作ってみてくれませんか?」
デモ「はい、いいですよ」
龍菜「設計するとしたら、まず正方形のベースを作って、シャフトの丸穴、その周りに回転パターンでボルト穴、って感じかな」
私は、ノートを広げて簡単な図面を書き、デモ氏に示した。彼はそれを見ながら、次々と手早くコマンドを進め、指示した形状のモデルを作ってみせてくれたのだが。
デモ「こんな感じですかね」
できたモデルは、「案の定」な感じのモデルだったので、私は彼に追加注文をしてみるのだった。
龍菜「それじゃ、設計変更があったという仮定で、ベースの厚みを変更してみてください。今は基準面から片側に押し出してますが、それを両側に寸法違いで」
デモ「片側に押し出すコマンドしかないので、新たに基準面を作って……」
デモ氏が試行錯誤とモデルを修正していくうちに、画面はエラーメッセージだらけになってしまい、モデルの形状も崩れてしまった。
龍菜「あれ、モデルが壊れちゃったみたいですね」
デモ「そういう変更があると分かってたら、違う作り方をするんですけどね」
そのときのデモ氏の目はつり上がり、眉間も少々のシワが。別に意地悪をしているわけではないんだよ、ただ素直に私の要求を伝えているだけなのに。
龍菜「いやいや、設計するつもりで、といったはずだけど……。簡単に修復できますか?」
デモ「大丈夫ですよ、ほらっ」
そういいながら修正作業を続けるうちに、画面の内のモデルはさらに壊れてしまった! これでは、さすがに修復は厳しそうだが?
デモ「あれっ!? 形状がおかしくなりましたね」
ひどい状況になった画面の前で、苦い表情をして悩むデモ氏であった。
デモ「う〜ん、作り直すしかないなぁ」
設計する手順でモデリングしてもらったはずなのに、設計基準が無視されているのでは修正できないよ。
どこのCAD販売会社でも同じようなものだが、「3次元設計」や「CAD設計」と称しているにもかかわらず、それらのデモは形状作成だけにフォーカスしたものばかりである。そもそも「設計」とは人に依存するもので、「3次元」や「CAD」は設計結果の検証作業をアシストしてくれるツールにすぎない。
ソリューションとして、「3次元CADを活用」することはあっても、3次元CADで設計するかのような「3次元設計」や「CAD設計」はあり得ないのだ。
そんなことを考えていたら、後ろから声を掛けられた。
??「あの、失礼ですが、龍菜さんでしょうか?」
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