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TIのDSP、ケータイの次の目標は家電&カーナビ組み込み企業最前線 − 日本テキサス・インスツルメンツ −(2/2 ページ)

アプリケーションプロセッサとして携帯電話のコアデバイスとなったDSP。この市場で向かうところ敵なしのテキサス・インスツルメンツ(以下TI)は、次なる照準をデジタル家電など広範な映像機器の心臓部に定め、メディアプロセッサ「DaVinci(ダビンチ)」を繰り出す。ケータイでの成功体験は、DaVinciに受け継がれるのか。

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サードパーティ600社の総合力

 DaVinciで攻勢を掛ける環境は整いつつある。ただ、映像機器を手掛ける機器メーカーは、コアとなるビデオ処理に自分たちの要求仕様をフルに盛り込んだASICを使っていることが多い。そこへTIは汎用チップで食い込めるのか。

 これに対して神戸氏はこう指摘する。「機器メーカーはいま、このままASICを使い続けるのか、それともプラットフォームを採用するのか、選択を迫られている。65nmプロセスになると、ASICはマスクを起こすだけで数億円掛かる。しかも製品の開発期間が短く、コーデックやDRM(デジタル著作権管理)は規格仕様が変わりやすく、地域によって使うものが違ったりする。ハードのASICですべてを作り込むより、すでに標準化されている一般的な部分をハード化し、バージョンアップなど流動的な部分をソフトウェアにより柔軟に変更できるDSPプラットフォームに任せた方が得策。そして、標準的な部分のハード化によって浮いたリソースを画作りやアプリケーションなど独自機能の開発に集中的に回すことも重要」。

 プラットフォームの有用性については多くの機器メーカーや半導体ベンダも認めており、一部は手掛け始めている。松下電器の「UniPhier」、NECエレクトロニクスの「platformOViA」などだ。

 これに対して、TIの強みは「足腰の強さ」だという。TI自身が供給するソフトウェアやツール、サービスに加えて、TIのDSP製品上では、全世界で約600社のサードパーティ(そのうち日本は約100社)がビジネスを展開している。「海外には、世界を見据えたアグレッシブなサードパーティが多く、日本市場にもどんどん入ってきている」(神戸氏)。加えて、TIはDSPのみならず、UWB(Ultra Wide Band)のようなインターフェイス製品、電源管理などのアナログ半導体、デジタル回路とアナログ回路を統合したミックスドシグナルも得意とし、総合的なシステム提案が可能である。そして何より、DSPのトップベンダ(非DSPを含めても業界3位)として長期の安定供給と技術革新が期待できる。機器メーカーがプラットフォーム採用に踏み切るとすれば、プラスに働くだろう。

トランスコーディングで差別化

 もちろん、DaVinciテクノロジーの要となるデバイスでも差別化を図ってゆく構えだ。ASP事業部 AV DSPビジネス・デベロップメント部ビジュアルプラットフォーム・グループのグループマネージャ、水澤暢氏は「DaVinciがASICと何が違うのか、それを明確にユーザーへ訴求しないといけない。マルチコーデックには当然対応してゆく。標準のMPEG-2/4、 H.264だけでなく、最近はやりのOn2(TrueMotion)、中国独自のAVS、WindowsのVC-1と、1つのプラットフォームで音声・動画とも主要なものにはすべて標準対応する」と話す。現行のDM644xシリーズや最新のDM6441(同シリーズの省電力製品)でも、H.264、MPEG-2/4、VC-1に対応し、30フレーム/秒の高速処理を実現している。さらに、現在開発中でHD(High Definition)画質に対応する「DaVinci HD」(注)では、さらに対応コーデックの幅を広げる。

※注
開発コードネーム。2007年中にサンプル出荷予定。

 さらに水澤氏は、「今後のホームネットワーク時代、映像機器で必須となるマルチコーデック&トランスコーディングをDaVinciの売りにしてゆく」と語る。現状でも、レート変換ダビングが可能なDVDレコーダのように、特定コーデックに対するトランスコーディング機能を搭載した映像機器は多い。だが、マルチコーデック対応かつリアルタイムのトランスコーディング機能となると、ほとんど見当たらない。これが可能になると、例えば次のようなことが実現できるだろう。

  • レコーダのHDD容量を有効活用するため、MPEG-2で受信中の映像を圧縮率の高いH.264へ同時変換して保存
  • ホームネットワーク内の映像機器同士でビデオを共有する際、コーデックに関係なく各機器の解像度、画サイズに合わせて自動で最適表示
  • 各種IP放送の視聴でデータ転送速度に合わせてビットレート割り当てを最適に制御し、放送品質を保つ

 「映像機器がPC並みのネットワーク環境に置かれ、相互にコミュニケーションするようになれば、DaVinciが目指すマルチコーデック&トランスコーディングの意義が高まる。DSPの場合、画像解析機能を盛り込み、細かいビットレート調整を行うことで、同じプロセッサを使っていても画作りの差別化ができる。これは機器メーカーにとってメリットだろう」(水澤氏)。

 もう1つDaVinciで見逃せないのは、同じDSPコアを使うOMAPで培っている付加技術を転用できる点だろう。例えば、TIには「SmartReflex」と呼ぶ、システム部品ごと回路の速度に合わせて消費電力を動的に調整する省電力技術がある。現在、携帯電話並みの省電力性が必要なポータブルメディアプレーヤに向け、SmartReflex採用のDaVinciを開発中であり、2008年中にはサンプルが登場する予定という。TIはDaVinciのラインアップ拡充を急ぎ、据え置き機、ポータブル機の両面でメディアプロセッサとしてのDSP採用を促してゆく構えだ。

2007年末に民生分野で搭載機も

 いまのところDaVinciを採用した製品は発表されていないが、デザインインに向けた日本TIのセールスは水面下で進み、実開発に入っている案件もあるようだ。神戸氏は「いくつかの分野では、DaVinciの考えがすんなり受け入れられている」として、一例としてWindows Embedded CE 6.0を搭載したデータプロジェクタを挙げた。最近の製品はネットワーク対応、ビデオ処理(USBメモリなどによるPCレス再生)が必須なのに加え、製品ごとにASICを起こすほどのマーケット規模がないことも、機器メーカーがDaVinci採用に前向きな理由だという。本命となるデジタル家電分野でも、「2007年末には、DaVinciを採用したコンシューマの映像機器が登場する。かなりユニークな機能を実現しているので話題となるだろう」と期待を持たせる。

「2007年中に車載用DaVinciで150億円規模の商談をまとめる」
「2007年中に車載用DaVinciで150億円規模の商談をまとめる」

 前述したようにDaVinciで狙うアプリケーションは幅広いが、TIがデジタル家電と並んで注力するのは、カーナビゲーションシステムなどの車載情報機器である。いまやクルマに映像はつきものであり、現段階で企画・設計されている次世代車となれば、さらにリッチな環境となっているだろう。TIは品質要求の高い自動車メーカー、電装メーカーに向け、特別仕様の“車載用DaVinci”を用意し、提案活動を行っている。「日本TIとしては、2007年中に車載用DaVinciで150億円規模の商談をまとめる計画。AV+カーナビ一体型機で7、8機種を目標とする。2009年、2010年ごろ量産される次世代車には、DaVinci採用の車載情報機器を搭載させたい」(神戸氏)。

 DaVinciがOMAPのような成功を収めるかどうか、現時点で判断するのは早計だろう。ただ、デジタル家電向けで本命となるHD画質タイプ、省電力タイプのDaVinciが登場するのが2007年ということもあり、TIにとって向こう2、3年が勝負の時期となりそうだ。DaVinciが目指すような「マルチコーデック&トランスコーディングのメディアプロセッサ」というアプローチは、日本の半導体ベンダもまだ見せていないという。TIの提案が機器メーカーを引き付ければ、瞬く間に市場を押さえる可能性もある。

 神戸氏は「ビデオ処理ということであれば、日本の機器メーカーが世界で最も品質に厳しい。ここで採用実績ができれば、世界中で通用するお墨付きになる」と意気込む。

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