FPGA+Linuxで“究極のプラットフォーム”提供:組み込み企業最前線 − アットマークテクノ −(2/2 ページ)
組み込みボードベンダのアットマークテクノは、自由度の高いプラットフォーム製品でユーザーのもの作りを“早く安く簡単”にしようとしている。プロセッサ搭載FPGAとLinuxの組み合わせこそ最適解として、認知活動に力を入れる。
SUZAKUは理想のプラットフォーム
アットマークテクノには、もう1つのプロダクトライン「SUZAKU(朱雀)シリーズ」がある。これこそ、実吉氏が思い描いていた「理想のシステムプラットフォーム」である。ユーザーが自由にハード回路を設計できるFPGAと、自在にアプリケーションを組めるLinuxを組み合わせ、いかようにも拡張できるプラットフォーム(FPGAボード)だ。
実は、SUZAKUの構想はArmadilloよりも先に始まっていた。しかし、採用を予定していたベンダのFPGA製品が予定どおり供給されず、開発キットが100万円以上と高額だったことからいったん開発を中断。そこでArmadilloの開発に切り替えたのである。
その後、BUG時代から付き合いのある東京エレクトロンデバイス、その延長線上で協業することになったザイリンクスの協力を得て、満を持して2004年春に初代のSUZAKUをリリースした。ザイリンクスの量販型FPGA「Spartan-3」に同社のソフトプロセッサ「MicroBlaze」を汎用ロジックで実装。標準OSとしてLinuxをサポートしていた(MicroBlazeはMMU非対応プロセッサなので、uClinuxを採用)。
やはり、FPGAとLinuxという組み合わせが興味を引いたのだろう。Armadilloのときと異なり、SUZAKUは発売前から市場で話題を集めた。発売に合わせて100台以上用意したが、即日完売となったという。先行き楽しみな出足であった。実際、開発キットの注文はどんどん舞い込み、ロボコンなど先端分野で使っているという話も聞こえてきた。
ただ、思ったほど実機への採用は進まなかった。いま現在、開発キットの累計出荷台数では、Armadilloと後発のSUZAKUはほぼ同じ。それだけSUZAKUへの関心は高いのだが、なぜか本体の販売はそれほど伸びない。「使ったユーザーからは『こんなに自由度が高いものはない』と高く評価される半面、『どう使いこなしてよいのか分からない』というエンジニアが多い」という。FPGAがCPUコア(プロセッサ)を持つ意味、FPGAとLinuxを組み合わせる意義が理解を得にくい。ある意味、ユーザーは自由度を持て余しているのだ。
関連リンク: | |
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プロセッサ搭載FPGAの意義を伝道
アットマークテクノの現状の課題は、いかにSUZAKUの実利用を広げるかである。それには「製品の応用イメージを持ってもらうのが早い」と、2006年夏から「SUZAKUスターターキット」(SUZAKU-S本体とLED・スイッチボード、マニュアルなど)を提供し始めた。既存ユーザー向けに単品売りするほか、本体を除く部分を製品に標準添付する。
同キットは、簡易的なスロットマシンの開発を通じて、3ステップでFPGA、プロセッサ、Linuxを段階的に活用できる構成となっている。1つの単色LEDを点灯する単純な回路設計から始め、プロセッサを活用したダイナミック点灯回路の制御、Linuxによるネットワーク連携まで学習できる。FPGA入門としても役立つだろう。
一方で実吉氏は、忙しい社長業の合間を縫ってセミナーなどで「SUZAKU=FPGAでプロセッサを使うメリット」を訴え続けている(注)。例えば、MicroBlazeはソフトプロセッサなので、下図に示したようにマルチプロセッサ構成にして別々の処理を割り当てたり、プロセッサとハードIPでメモリコントローラを独立させることでマルチ機能を容易に実現できる。また、SUZAKUを共通プラットフォームとして拡張機能の分だけ基板を開発・追加すれば、開発効率は高まる(アットマークテクノはSUZAKU用I/0ボードとしてADコンバーター、LED・スイッチボードを提供しており、さらにUSBボード、A/Vボードなどを開発中)。
ただ、現状ではArmadilloがビジネス基盤をしっかり担っているので、実吉氏はさほど焦っていない様子だ。「FPGAがプロセッサを搭載する意義が市場で広く認知されるには、あと2年ぐらいかかるだろう。それさえ分かってもらえれば、映像処理や暗号化、圧縮/伸張、リアルタイム処理などに適したSUZAKUは、さまざまな機器分野で使ってもらえるはず」。
アットマークテクノが目指すのは、どんな形にでもなる柔軟なプラットフォームを提供し、ユーザーのもの作りを“早く安く簡単”にすることである。実吉氏は「将来は、ツールの画面上で機能ブロックを組み合わせたり、必要なIPをネットからダウンロードして、ユーザーが簡単にプラットフォームをカスタマイズできるようにしたい。さらに究極的には、PCのCTO(Configure To Order:注文仕様生産)サービスのように、われわれのユーザーの要求仕様に基づいて生産し、短期間で納入する“デリバリーサービス”を作り上げたい」と抱負を語る。
アットマークテクノのようなベンチャー企業が市場をリードするようになれば、国内組み込み市場は、さらに魅力的になるだろう。
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