意外(?)に高いWindows Embeddedの普及率:組み込み企業最前線 − マイクロソフト −(2/2 ページ)
PCの世界では不動の地位を築いたマイクロソフト。その一方で、組み込み分野でも着実に実績を上げていることはあまり知られていない。「より良い部品メーカー」を目指す同社の組み込み戦略とは?
話題のコンシューマ機器に続々採用
Windows CEがひときわ存在感を高めた最近の出来事といえば、やはり「W-ZERO3」のヒットだろう。ウィルコムのPHS通信機能をモジュール化したカード型製品、いわゆる「W-SIM」である同機は、Windows Mobile 5.0 for Pocket PC日本語版を採用した高機能なスマートホンである。
「Windows CEはPDA用のOSとして長いキャリアを持っているが、W-ZERO3の人気が追い風となってメディアからの注目度も上がっていると感じている。7月初旬には新製品(W-ZERO3 [es])も出て、ますます人気に拍車が掛かっている。こうした反響が功を奏して、いままでマイクロソフトと組み込みでビジネスをしようと思っていなかった方々も、目を向けてくれるようになった」(松岡氏)。
Windows Mobileの採用事例はW-ZERO3だけではない。東芝のMP3プレーヤ「gigabeat(ギガビート)」にもWindows Mobile software for Portable Media Centers(PMC)が採用されている。特に、ワンセグ対応の新型機種「V30T」がESECで展示された際は、若者だけでなく年配者までが手にして興味深そうに見ていたという。こうした小型デジタル機器というのは、年配者にはなかなかなじみにくい。だが、Windows Mobileの明快なユーザーインターフェイスが、そうした心理的な抵抗感を取り払っていたようだ。
やはり品薄が続くヒット商品となったNECのモバイルマルチメディアプレーヤ「VoToL(ヴォトル)」(2006年2月発表)は、Windows Mobileよりもメーカーによる実装の自由度が高いWindows CEを採用。VoToLは、いわゆるPCやモバイル機器の専門誌だけでなく、デザイン誌や女性誌でも取り上げられるなど、新しいユーザー層の創出を実現した。
こうした一連の反響を見ると、いままでマニアックなPCユーザーの延長線上にあったWindows CEが、コンシューマ市場でも認知されてきたという感がする。事実マイクロソフト側も、これからはコンピューター関連メーカーだけに限定せず、製品の機能を実現するための部品として幅広いメーカーを対象にWindows CEやWindows Mobileを提案していきたいという意向を示している。
そうした意味では、マイクロソフトにとっては「Windows CE=PocketPCのOS」といった古いイメージを払拭するのが当面の重要ミッションの1つだといえよう。PocketPCやPCの市場はもはや狭まるばかり。一方、携帯電話やMP3プレーヤなどはお互いの領域を融合させながら、ますます新しい広がりを見せている。こうした家電領域に向けた新しい流れに、Windowsが向かうのは必然であり、また最も賢明な方向だ。
存在感を強めるWindows Automotive
Windowsの適用分野はPOSやコンシューマ機器だけではない。同社が最も注力している分野の1つが、カーナビの世界である。Windows Mobileの流れをくむカーナビ/カーオーディオ専用ソフトウェアプラットフォーム「Windows Automotive」は、車載情報端末の構築に必要なリアルタイム機能を搭載。ナビゲーション端末用グラフィックチップに対応した地図描画APIやWindows Mobileから引き継いだマルチメディア機能、高度化なユーザーインターフェイス構築を支援するAutomotive User Interface Toolkit(AUITK)を備えている。
カーナビは、いま最も伸びている分野だ。現在、日本にはカーナビメーカーが11社あり、多くがWindowsを採用している事実を見ても、その健闘ぶりが分かるだろう。これまではほかのOSを使用していたところでも徐々に移行が進み、最新のハードディスクモデルでは、かなりの機種がWindows Automotiveに切り替わっているという。
松岡氏によれば、新車販売時の純正カーナビ装着率はこの5〜6年で急速に伸び、いまや7割に達しているという。すでにアフターパーツ市場とはシェアの逆転が起きており、今後さらに大きなマーケットに育っていくことは必至だ。
Windows Automotiveの最大の強みとして、前述の強力なGUI開発ツール「AUITK」を提供していることが挙げられる。Windows Automotiveは、バージョン4.2から急速に採用メーカーが増加したという。なぜなら、このバージョンからそのGUI設計ツールの提供を開始したからである。カーナビは製品の性質上、GUIの開発に非常に負荷が掛かる。GUIの開発担当者にとって、効率の良い設計ツールは必須のアイテムであり、採用要件の1つなのである。3D化やアニメーションなど、カーナビのGUIに対する要求は現在もますます高まるばかり。それに対してWindows Automotiveは、最も有効な回答を提供しているのだ。
さらにマイクロソフトでは、カーナビメーカーをサポートするために、専用のサポートチームを国内に常駐させている。技術の進歩の速さもさることながら、カーナビはいったん車に付けると何年も使い続けられるライフサイクルの長い商品だ。そのため5〜10年といった、デジタル製品としては異例の長いスパンでのサポートが必要になる。自前のサポートチームを持って迅速に動けることも、日本国内でシェアを伸ばしていることの一因といえるだろう。
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部品メーカーとしてセットメーカーをサポート
Windowsだけでなく組み込みソフトウェア全体を考えた場合、今後この分野はどのような展開をしていくのだろうか。
「組み込みソフトウェアにかかわっている人ならば誰も感じているとおり、年々作っているものが巨大になってきている。数百万ステップのコードなど、もはや珍しいものではない。大きくなっていく一方の組み込みソフトウェア製品を、私たちメーカーとして今後どう作っていくのか。具体的には、膨大な工数の製品をいかに要求される工期やコスト内に収めていくのかという問題がある」(松岡氏)。
これまではとにかく、技術者各人が個人レベルで奮闘して乗り切ってきたが、ここ2〜3年はさすがに物量的な行き詰まりを誰もが感じ始めているという。こうした閉塞的状況が続けば、今後の組み込みソフトウェアの品質にかかわってくるのは必至だ。開発者の負荷が高まっていく中で、致命的なバグをどう減らしていくのか。これは組み込みソフトウェアにかかわる業界すべてにとって、総力を挙げて取り組んでいくべき問題だろう。
その最も有効な打開策の1つがコンポーネントの再利用の促進だ。再利用されるコンポーネントはすでに検証済みのコードである。これを有効に活用することで、プログラマーの書くコードが量的に減るだけでなく、バグの有効な防止対策にもなってくる。とりわけWindows CEなどのOSやミドルウェアは、ベンダによって定期的にバグフィックスやアップデートが行われていく点で、厳密な品質管理がなされているといえる。この品質保証されたOSやミドルウェアをマイクロソフトのような大手ベンダが積極的に提供し、OEMの現場が書くコード量を減らすことができれば、各製品メーカーの負荷軽減と品質向上に貢献するのは間違いない。業界全体のこうした“協業”が、企業単位では乗り切ることのできない「ソフトウェア開発=コーディング作業の限界」を乗り超えるカギになるだろう。
またWindows CEはソースコードがメーカーに公開されている(シェアードソースイニシアティブ)ので、それぞれの製品や環境に合わせて細かな調整が可能な点も品質向上に寄与しているという。
PCの市場に限界が見えたいま、世界中が携帯電話と自動車に向かっている。その大きな流れの中でマイクロソフトは、組み込みソフトウェアを最も重要な市場の1つと考えているという。「残念なことに、マイクロソフトの組み込みソフトウェアというと、いまだに10年前の記憶の範囲でとらえている方が少なくない。ぜひいまのWindowsの実力を自分の眼で確かめていただき、これからの携帯電話や自動車をはじめ、あらゆる新しい組み込みソフトウェアに役立ててほしい」(松岡氏)。
組み込みソフトウェアの世界にあって、マイクロソフトはあくまでクライアントの製品を実現するための機能を提供する役割=各分野の企業にパーツを提供する“部品メーカー”だという。ソフトウェアの雄、マイクロソフトはまた部品メーカーとしても隠れた大物だったのである。
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