2006年大会は“環境への対応力”で悲喜こもごも:ETロボコン2006へと続く道(4)(1/3 ページ)
タイムトライアル部門で急浮上した“設計変更のパラメータ化”とは? モデルはどこまで進化したか、など2006年大会の模様をレポートする
UMLモデリングは確実に浸透してきた
いよいよ決戦の日がやって来た。ETソフトウェアデザインロボットコンテスト(以下、ETロボコン)の2006年大会は、参加108チームを集めて7月1〜2日にわたり東京都立産業技術高等専門学校ホールで開催された。
今大会の注目は、何といっても参加チームが前回(53チーム)から倍増し、108チームとなったこと(参加チームの一覧は下記を参照)。この背景には、日本の組み込み開発に起こっている大きな変革の気運があるだろう。従来の職人技的なソフトウェア開発は限界に達し、多くの開発現場ではUMLを使ったモデル開発の導入に踏み出しているようだ。
ETロボコンの目的の1つに「若年層および初級エンジニアの教育」が挙げられているが、モデル開発への移行に取り組むバリバリの中堅エンジニアも少なくない。
写真1 ETロボコン2006の会場。東京都立産業技術高等専門学校ホールに設置されたレースコース。参加チーム数が急増したため、今回から2つのコースで同時にレースを行う運営方式となった。参加者と見学者を合わせ500人以上が詰め掛けた会場は、前回のチャンピオンシップ大会をはるかに上回る盛り上がりを見せていた
今回初参加のチーム「サヌック」(明電システムテクノロジー)は電力監視制御システムが本業で、2年ほど前からUMLを使ったモデル開発に取り組んでいるという。ETロボコンに参加した動機は、「自社の技術力をアピールすること」(徳永正広氏)だそうで、社長公認の活動として主任クラスの中堅技術者を加えたメンバーで構成されている。モデリング部門審査では入賞こそ逃したものの、走行体の動きを連続写真で示しながら走行戦略を記述したモデルは、その高い表現力・理解性で審査員の注目を集めた。
一方、新人教育を目的として参加する企業チームや学生チームも少なくない。カテゴリ別参加者数を見るとおよそ4分の1は大学・高専・高校チームだ(図1)。昨年のETロボコンを取り上げた@IT記事で紹介したキャッツのように、新卒のメンバーでETロボコンに参加しているチームもある。
今回キャッツは専修大学ネットワーク情報学部との合同チーム「猫飯(ネコマンマ)」で参戦した。こうした産学協同チームはほかにも「teNet」「ニック&ニット」などがあった。チーム「猫飯」はモデリング部門審査で「JASA賞」を獲得。産学協同・学生チームとして唯一優秀モデルに選出された。
モデルはより実践的に進化している
ETロボコンがほかのロボットコンテストと決定的に違うのは、ロボットの競技よりも、モデリング部門審査を重視している点だ。2006年大会のモデリング部門審査結果は以下のとおり。
順位 | チーム名 | 所属 |
---|---|---|
エクセレントモデル | ムンムン | NECソフトウェア北陸 |
ゴールドモデル | Realizing | オムロン |
シルバーモデル | 豆ロボ | 豆蔵 |
特別賞 | Teamふるかわ | アルプス電気 車載電装事業部 ファームウェア技術部1グループ |
特別賞 | 田町レーシング | オージス総研 組み込みソリューション部 |
JASA賞 | 猫飯 | キャッツ&専修大学 |
栄えあるエクセレントモデルに輝いたのはチーム「ムンムン」(NECソフトウェア北陸)。前々回、前回(チャンピオンシップ大会)のタイムトライアル部門で連続優勝した“走り”の強豪だ。今回が3回目の参加で、モデリング部門審査の初入賞を果たした。
審査委員の鷲崎弘宜氏によれば、「ムンムン」のアーキテクチャが高く評価されたという。組み込み開発では、設計されたモデルから実機の性能を予測するのは難しい。実機テスト(定量的評価)を繰り返すことで必要な性能を獲得することが不可欠となるが、そうするとモデルと性能の関連性は弱くなってしまう。この点で「ムンムン」は、モデルの中に「なぜこの設計は性能が出るか」を明示的にシナリオ(定性的評価)として盛り込まれていたとの評価だった。
提出された102のモデル(6チームはモデル未提出)の審査に当たった8人の審査員の一致する意見では、モデルのレベルは確実に向上しているそうだ。今回の審査結果について「アイデアレベルのモデルから設計図レベルのモデルへと、より実践的に進化中」と審査委員長の渡辺博之氏は総括している。
今回から審査基準に加えられた「予測性能」は、モデルの妥当性とは別に、モデルから読み取れる予測性能を評価するというもの。これに呼応して、予測性能をモデルで表現する部分に工夫が見られた。つまりUMLとは異なる記述(写真やシミュレータ画面など)を使うことで性能を表現する方向に進んでいる。その一方、UMLでのモデルは「ある程度、行き着くところまで行き着いた感がある」(渡辺氏)ようで、良い意味では熟成が進んだといえるし、コンテストという側面からは差別化が難しくなったともいえる。
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