いよいよ見えてきた、車載システムの標準仕様:カーエレクトロニクス最新事情(3/3 ページ)
自動車のソフトウェア基盤標準化を図る業界団体「JasPar」。設立から1年半を経て、その活動成果が徐々に見え始めてきた
低速版FlexRayはなぜ必要なのか
もう1つ、JasParがFlexRayに関して取り組んでいることがある。欧州勢が最大10Mbit/sのフルスペックでFlexRayを標準化しようとしているのに対し、2.5/5Mbit/sの低速版を別に打ち立てようとしていることだ。柿原氏は「欧州がいきなり高速道路を造ろうとしているのに対し、日本は高速道路にアクセスする県道を整備しているようなもの。10Mbit/s(の通信帯域)を必要とするアプリケーションを載せる自動車は限定されるが、2.5Mbit/sや5Mbit/sなら幅広いニーズに対応できる。どちらも必要なもので補完関係にある」と指摘する。
「大は小を兼ねる」という考え方もある。10Mbit/sなら、それほどの通信帯域を必要としないアプリケーションニーズも包含できそうだ。だが、10Mbit/sは配線自由度が低く、ネットワーク全体を見直す必要がある。結局、コストが割高になり、これを価格に反映できるのは高級車に限られる。
「低速版」FlexRayといっても、前述したようにその速度は2.5/5Mbit/s。実効速度が500kbit/s程度のCANに比べれば十分に高速だ。そのうえ、配線自由度もCAN並みに高められる。つまり、CANからの移行が比較的容易なのだ。
JasParは、FlexRay Consortiumに低速版を提案している。どのように標準化されるかは不明だが、FlexRayが普及し始めるのは2010年ごろからとみられており、これから1〜2年の動向が注目される。
情報系は日本発で標準化?
FlexRayと並ぶ重要テーマであるECU向けソフトウェア基盤の標準化だが、「AUTOSAR RTEが発表され次第、日本側でも議論が本格化するだろう」(柿原氏)という。AUTOSARはハードウェアの違いを吸収し、アプリケーションの再利用を高めるソフトウェア基盤「AUTOSAR RTE(runtime environment)」の仕様策定を行っている最中である。JasParがどのようなソフトウェア基盤を構想しているかは定かではないが、ここでもAUTOSARとの協調があるかもしれない。いずれにしても、競争領域と非競争領域の切り分けは一筋縄でいかないだろう。
一方、JasPar独自の動きも出てきた。日本の自動車産業が得意とするカーナビゲーションなど情報系システムの標準化である。名古屋大学は、2006年4月に設立した産学連携組織「附属組込みシステム研究センター」の第1弾プロジェクトとして、トヨタと共同で車載端末向けOSを開発する。さらに、情報系システムと走行制御システムを連携させ、新たな運転支援アプリケーションを開発する。同プロジェクトは4年後の実用化を目指しており、成果はJasParへも提案される予定だ。柿原氏は「AUTOSARでも情報系の優先順位は低いだろう。この分野では日本がリードできるかもしれない」と話す。
JasParの標準化作業は、4〜10年先の技術を見越したものだけに、すぐに目立った成果が見えるものではないが、カーエレクトロニクス産業への影響力を着実に増している。今後もその動きから目が離せない。
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