いよいよ見えてきた、車載システムの標準仕様:カーエレクトロニクス最新事情(1/3 ページ)
自動車のソフトウェア基盤標準化を図る業界団体「JasPar」。設立から1年半を経て、その活動成果が徐々に見え始めてきた
ECUの増大に苦悩する自動車業界
2004年9月、ECU(Electric Control Unit:電子制御ユニット)向けソフトウェア基盤や車内LAN規格の標準化を目指すJasParが設立された。トヨタ自動車、日産自動車、ホンダなどの自動車メーカー、デンソーなどカーエレクトロニクス関連のメーカーや商社が集結し、2006年5月時点で総会員数は77社。BMW、ボッシュ、ダイムラー・クライスラーといった欧州勢が運営する同様の標準化団体「AUTOSAR(Automotive Open System Architecture)」などと協調して国際標準規格を普及させたり、日本発の規格を国際標準に押し上げることを狙う。
JasParの事務局を務める豊通エレクトロニクスの取締役 柿原安博氏は、「国内3大メーカーが、JasParで標準化された技術を積極的に採用することを表明している。(技術に関しては自前主義が強い)自動車産業にとって画期的なこと」と指摘する。
JasParが設立された背景には、いま自動車の制御システムが機械方式からコンピュータによる電子方式へ急ピッチで切り替わっているという事情がある。搭載されるECUの数は大衆車でも30〜40個に達し、一部の高級車では100個を超えている。それに比例して、ECU向けソフトウェアの開発ボリュームが激増。トヨタ常務役員の重松崇氏は、「2005年 組込みシステム開発技術展」の講演において「ソフトウェアの開発量は2010年になると1997年の10倍に達する」と述べている。ECUごとにバラバラなソフトウェア基盤を標準化することで開発や検証の工数を抑え、ソフトウェアの再利用を進める必要がある。
ECUの増加は、「もはやECUを配置できる場所が物理的に残っていない」という問題も引き起こしている。ECU自体やECU同士を接続するケーブルの重量もばかにならない。自動車メーカーとしては、ASICで作り込まれた複数のECUをソフトウェア化することで統合し、物理的な数を減らしたいという意図がある。こうした面からも、ソフトウェア開発の重要性が増している。
また、ステアリング用やブレーキ用など複数のECUをネットワーク接続した高度な協調制御が増えており、次世代の自動車では高速かつ高信頼な車内LANが求められる。自動車メーカーにとって、こうした部分は競争領域ではない。業界全体で標準化した方がメリットは大きい。
権利者の知財権を守る
とはいえ、JasParは自動車メーカーを頂点とする上意下達の組織ではない。自動車メーカーと実際にECUや車内LAN機器を開発するカーエレクトロニクス企業が寄り合い、日本の製造業が得意とするもの作りベースの“擦り合わせ”で議論を進める。これがトップダウンの傾向が強いAUTOSARとの違いである。
もう1つの大きな違いは、知的財産(知財)の取り扱いだ。JasParは設立当初から「知的財産権ワーキンググループ」で議論し、知財保護の仕組みを作り上げている。一般に標準化団体に拠出された技術はライセンスフリーとなることが多く、AUTOSARでも同様といわれる。だが、JasParの場合、一定条件の下でライセンス保有者の知財権を認める。「技術を持ち寄って良い規格を作り上げるのが目的。知財権が認められないとなると、メンバーから良い技術が出てこない」(柿原氏)。
もちろん、無制限に知財権を認めているわけではない。「技術的必須」「自動車限定」という枠を掛けている。 RAND(注)条件の下で、規格を成立させるのにどうしても必要な技術に限り、自動車利用に限定した特別なライセンス設定を保有者に求める。正当な技術には広く薄く対価が支払われる仕組みである。
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