Pentium 4を上回る性能でASICやFPGAを駆逐:組み込み企業最前線 − アイピーフレックス −(2/2 ページ)
ダイナミック・リコンフィギュラブル・プロセッサへの注目が組み込み分野で徐々に高まっている。それに比例して頭角を現しているのが、国内ベンチャーのアイピーフレックスだ。海外では技術力でビジネスを成功させている半導体ベンチャーは珍しくないが、アイピーフレックスは国内でその先駆けとなり得るか。
デジタル複合機でマス市場進出
そしていよいよ、DAPDNAは大きなマーケットに打って出ようとしている。第1弾はデジタル複合機(MFP)分野になりそうだ。
複数の入出力機能を持つMFPは、各機能でイメージ処理の負荷が大きい。一方で最近では、低コストと省スペースを売りにしたプリンタベース製品も増えており、従来とは違った開発アプローチが求められている。マーケティング部長の井手野雅明氏は「ファンクションごとに回路構成を変えられるDAPDNAなら、ハードウェアでガチガチに固めることなく、ワンチップで柔らかいシステムを作れる」と自信を見せる。
アイピーフレックスはMFP市場での展開を見据え、イメージ処理に特化した「DAPDNA-IMS」を2006年夏にもリリースする計画だ。DAPDNA-2と比較して、PEのビット幅を32bitから16bitに縮小して数を3倍に増やす(予定スペック:90nm/200〜266MHz)。「DAPDNAを評価してくれている機器メーカーからフィードバックを得て、イメージ処理に最適なPEができつつある」(萩島氏)。2006年中にもDAPDNAシリーズを搭載したMFPが製品化される見通しであるという。
アイピーフレックスが一般市場への進出に自信を見せる背景には、力を入れてきたDAPDNAの開発環境が整ってきた面があるようだ。2004年から設計、シミュレーション、デバッグを統合した開発環境「DAPDNA-FW(フレームワーク)II」を提供する。特に開発で肝となるDNAコンフィグレーション設計に向けては、3つの手法を用意する。
1つは、同社独自の拡張C言語である「DFC(Data Flow C)」を使ってコードを記述して、専用コンパイラにより自動的にDNAコンフィグレーションを生成するもの。特殊なHDL(Hardware Description Language)を使うFPGAと違って、ソフトウェアエンジニアでもC言語に精通していれば設計できるわけだ。もちろん、DAP実行ファイルもC言語で記述可能。もう1つは、代表的な開発ツール「MATLAB/Simulink」と連携して設計・検証する方法である。3つ目の手法は「DNAデザイナ」 と呼ぶGUIエディタを使って、ブロック図をドラッグ&ドロップしてデータ処理を記述するものだ。
井手野氏は、「最初のころのDFCは『使えない』といわれていた。ようやく最近、『これなら使えるよ』と評価してもらえるようになってきた。C言語で開発できる点はDAPDNAの大きな魅力となる」と語る。この言葉を証明するように、DAPDNA-FW IIの販売数は急増。2006年2月現在で累計212ライセンスである。
“柔らかいハード”を実現する新技術
DAPDNAが注目される理由の1つに、発展の余地が大きいことが挙げられる。前述したとおり、Pentium 4(3GHz)の50倍以上の性能を持つDAPDNA-2ですら、動作周波数は166MHzでしかない。当面、周波数アップが頭打ちになることはないだろう。トランジスタ効率もまだまだ引き上げられるという。実際、DAPDNA-IMSのそれは、DAPDNA-2の3倍近くになる見込みである。
DAPDNA性能グラフ(MIPS/MTr)。2006年夏にリリースされるDAPDNA-IMSでは、トランジスタ効率が急激に上がる見込み。年々トランジスタ効率が下がっているPentiumと比べると40〜50倍は高くなりそうだ
さらに、開発コード「AXION(アクシオン)」と呼ぶ新技術も開発中である。DNAのPE粒度をFPGA並みに小さくして、より“柔らかいデバイス”を実現する技術だ。「ファイングレイン(微粒子)プロセッサ」となるDAPDNAは、アプリケーションに応じてよりきめ細かく最適な回路構成へ切り替えられるわけだ。問題となる切り替え速度も、現状で17ナノ秒(59MHzの1クロック時間)を達成できているという。AXION技術を採用した「DAPDNA-3」(予定スペック:90nm/250MHz以上)を2007年にもリリースする計画。プロトタイプはすでに完成している。
萩島氏はDAPDNA-3の用途を次のように説明する。「AXION技術なら細かなビット処理も効率的に行えるので、例えばハフマン符号化の処理に向いている。いまのデジタル機器の多く、DVDレコーダからデジタルテレビ、ワイヤレス機器、OA機器までがデータ暗号化にハフマン符号化を使っているので、DAPDNAの適用範囲は一気に広がる」。
次のような活用法も考えられる。DAPDNA-3プロセッサをマルチコアで接続する場合、プロセッサ間のバスをAXION技術で動的に構成すると、必要なときに必要なだけのバス幅を確保できる。ハードウェアで固定的に最大バス幅を用意するのに比べてムダのないシステムを作れる。
さらに2009年からは、DAPDNA-3をベースにして用途別に製品を分岐していく開発ロードマップも描かれる。情報家電向けに特化した「DAPDNA-CE」(予定スペック:65nm/333MHz以上)、ワイヤレス機器向けの「DAPDNA-WL」(同:65nm/666MHz以上)、ハイエンド産業機器向けの「DAPDNA-AX」(同:65nm/1.3MHz以上)、DAPDNA-IMSを発展させた「DAPDNA-IMX」(同:65nm/250MHz以上)とラインアップを分けてゆく。
特に情報家電向けDAPDNA-CEは、国からも産業競争力強化に貢献する可能性があると注目されている。新エネルギー・産業技術総合開発機構が情報家電の高度化を目指して行う助成事業「半導体アプリケーションチッププロジェクト」で、ネット放送向けSTB(セットトップボックス)用としてDAPDNA-CEの研究開発が助成対象となった。
井手野氏は「通信と放送が融合する世界では、著作権保護やコーデック、暗号化などでそれぞれ複数の規格が使われる。受信機には全対応が迫られ、ユーザーの手に渡った後でも新規格への対応が求められてくる。そうなるといまのようにASICでハードウェアを作り込むわけにもいかず、コストと消費電力からいってプロセッサを何個も搭載することもできない。その点、DAPDNAのようなダイナミック・リコンフィギュラブル・プロセッサならワンチップで多くの規格へ柔軟に対応できる。この条件はどの情報家電にも当てはまる。デュアル、トリプルの通信モードをサポートすることが一般的になるワイヤレス機器でも同じ」と見通す。
これからもDRPが持つ柔軟性へのニーズが増し、実採用が増えることは間違いないようだ。採用実績でDRP市場をリードするアイピーフレックスにとっても、ビジネスを拡大させるチャンスは大いにあるだろう。もちろん、国内大手メーカーもDRPに力を入れてくることは確実。技術の高い海外ベンチャーも競争相手となる。ここからが本格的な勝負だ。技術力を持ちながら花開かなかった国内ベンチャー企業は数多い。
それでも萩島氏は「機器メーカーがASICやFPGAからDRPへ一斉に乗り換えるパラダイムシフトが起こるのは時間の問題だろう。そのときにも市場のリーダーであり続けられるように、今後も着実に実績を積み重ねてゆく。幸いにして、各分野のトップメーカーとも良い関係ができつつある」と自信をにじませる。
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