年45億個の出荷を目指すアームの戦略とは:組み込み企業最前線 − アーム −(1/2 ページ)
IPプロバイダとして快進撃を続ける英アーム。向こう5年でARMコアの出荷個数を倍増させ、年間45億個にする壮大な計画を描く。果たして達成できるのか?
低消費電力へのこだわりとビジネスモデル
世界で最も普及しているCPUアーキテクチャは何かといえば、英アームのARMコアである。何しろ、直近の四半期で出荷されたARMコア搭載の半導体チップは4億個を超え、さまざまなデジタル機器がそのチップを搭載している。2006年は、携帯電話向けを中心に年間20億個の出荷を見込んでいる。それに対して、PCの出荷台数は全世界で2億台ほど。最も有名なインテルアーキテクチャも、ARMコアの前では存在がかすんでしまう。
「知的財産権」(IP)である設計情報を半導体メーカーに提供する「IPプロバイダ」としては、世界トップに位置するアーム。日本法人社長の西嶋貴史氏は「1つの技術に長くフォーカスしたこと。それとビジネスモデルと運が良かった」と成功の要因をまとめる。
アームの前身で、教育用PCを開発していた英エイコーンコンピューターズが1985年に開発したRISCプロセッサがARMコアの源流である。1990年に現在のアーム(注)が事業をスタートさせたが、大手半導体メーカーが繰り広げる性能競争には背を向け(競争に加わるだけの体力もなかった)、エイコーン時代からの特徴だった低消費電力(単位W当たりの性能とコード密度)を追求し、1991年に初の組み込み型CPUコア「ARM6」を発表。アップルやシャープのPDAに採用され、その存在が注目を集めた。それ以来、現在の主力製品であるARM11まで、消費電力は競合製品の数分の1のレベルを常に維持する。
ビジネスモデルにも“持たざる者の強み”が反映されている。少数精鋭のエンジニアによりCPUコアの設計はできても、多額の資金が必要となるチップの生産はできない。そこで、アームは半導体メーカーにIPをライセンス販売し、半導体メーカーが付加価値を載せてチップ化、機器メーカーへ供給する仕組みを作り上げた。いまでこそ、ファブレスで設計のみを手掛けるIPプロバイダは珍しくないが、アームはその走りとなったのだ。
90年代に入ると、「ムーアの法則」に沿ってワンチップに搭載するトランジスタ数も世代ごとに1000万個単位で増える状況へ。一方、SoC(System on Chip)の流れからすべてのシステム機能をワンチップ化する動きも加速していった。「当時から1つの半導体メーカーが垂直統合ですべてを内製するのは難しくなっていた。同時にCPUがシステムに占める比率はどんどん下がり、付加価値も低下。半導体メーカーもそこに開発リソースを割り当てるよりも、外から標準的なものを買ってきた方が得だと考えるようになってきた。そこにわれわれのライセンスビジネスがマッチした」(西嶋氏)。
低消費電力を追求してきたことで、アームは時流にも乗った。何といっても、携帯電話の高機能化がARMコアに対する莫大な需要を生み出した。携帯電話の上でリッチなアプリケーションを動作させるため、端末メーカーは低消費電力でそれなりの性能を持つプロセッサを求め、半導体メーカーも自社製品にARMコアを採用せざるを得なかった。端末の世代が2Gから2.5G、3Gへと進むにつれて、ARMコアの採用率は高まっている。携帯電話向けアプリケーションプロセッサで市場を独占している米テキサス インスツルメンツ(TI)の「OMAP」も、CPUはARMアーキテクチャである。「現行モデルの携帯電話ならARMの世界シェアは9割近い」という。
携帯電話の普及と世代交代に合わせ、アームのビジネスはここ2、3年間ほど急加速している。1998年1月に32社だったライセンシは、2005年第3四半期で5倍の165社(387ライセンス)となった。アームが「コネクティッド・コミュニティ」と呼ぶ、ARMコアに対応するICEやEDAツール、周辺回路ライブラリ、OSなどを提供するサードパーティは320社に及ぶ。前述したとおり、2002年第2四半期には約1億個だったARMコアの出荷個数も、いまや四半期で4億個超である。
西嶋氏は、アームのビジネスを次のように例える。「われわれはCPUコアという“レシピ”を安く提供している。それを基に調理する半導体メーカーは、レシピ代の20〜100倍となるSoCという料理でビジネスができる。オープンアーキテクチャで標準的なARMなら、対応してくれるファウンドリも多く、OSや周辺回路ライブラリ、開発環境も豊富にそろっている。マルチソース、マルチサプライを活用できるライセンシのメリットも大きい」。
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