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「品質100%保証」を実現するCASEツールへ組み込み企業最前線 − キャッツ −(2/2 ページ)

ソフトを“見える化”する独自方法論を盛り込んだCASEツール「ZIPC」で知られるキャッツ。ZIPCをハブとして、ユーザーが持つツール資産、開発環境を統合するツールソリューションで機器メーカーの開発効率化に貢献してきた。次に目指すは、「品質100%保証」を実現する方法論の確立と“ツール文化”の啓蒙だ。

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ツールのハブ的存在目指す

 ツールベンダとして幅を着実に広げているキャッツだが、単に製品をユーザーに売り切って、サポートするという一般的なスタイルではない。「われわれの事業の柱は、ZIPCをハブとしたツールのSI、“ツールソリューション”にある。ユーザーが持つツール資産とZIPCが協調して、開発が最適化されるようにコンサルティング、インテグレーションして提供する」と、上島社長は話す。


 状態遷移表を用いるZIPCは、どちらかといえば実践的な中流設計向けのツールである。だからこそ、一連の開発ツールの中でハブとなり得るのだ。抽象度の高い上流設計で用いるモデリングツールと連携すれば、設計がスムーズになる。同じように、製品イメージを用いて仕様を固めるプロトタイピングツールと連携すると、モデルから製品イメージを生成、仕様変更を即座にモデルに反映できるようになる。各プロセッサの専用デバッガに対応していれば、モデルベースのターゲットデバッグが行え、モデル駆動開発を進められる。

 実際、ZIPCは、さまざまな他社製ツールとの連携を果たしている。この3月からは、UMLモデリングツールの「IBM Rational Rose」、「Enterprise Architect」(スパークスシステムズジャパン)と連携するZIPCをファミリ製品「ZIPC++」として発売する。ZIPC++では、UMLモデルからZIPCを経由してコードを自動生成できるのだ。また、状態モデリングツールとして製造業などで人気が高い「MATLAB/Stateflow」とも連携。MATLABで作成した状態モデルをZIPCに落とし、“ヌケ・モレ”をチェックできる。プロトタイピングツールでは、富士通「VPS(Virtual Products Simulator)」や米Altia社「Altia Design」などと接続し、モデルから製品イメージを生成する。

ZIPC++の画面
ZIPC++の画面

 市販ツールとの連携だけでなく、ZIPCそのものをカスタマイズ、ユーザーの内製ツールや開発環境に合わせるケースも多く、収益的にも屋台骨となっている。「ユーザーそれぞれが培ってきた開発環境は否定できないし、自分たちの開発環境にZIPCを取り込みたいという要望は多い。そこは、われわれがカスタマイズで合わせればいい。それが可能なのもZIPCが国産ツールだからこそという面がある」。

“バグゼロ”を実現する新展開

 業界から高く支持されているZIPCだが、それでもキャッツは現状の製品完成度に満足しているわけではない。組み込み業界では現在、品質確保が重いテーマとなっている。組み込みシステムがどんどん大規模化し、従来手法と現場の努力で品質を確保することは限界に達している。同社がZIPCで追い求めているのも、品質を100%保証する方法論の確立だ。

 キャッツはこの6月、新たな試みを公開した。九州大学、福岡県産業・科学技術振興財団との産学官提携により、「状態遷移表モデル検査技術」の共同開発を行うと発表したのだ。形式手法(Formal Method)と状態遷移表を組み合わせ、設計品質を検証する手法を編み出すというものである。上島社長は「組み込みシステムのバグの6割は設計段階で発生するといわれる。われわれが共同開発している手法は、設計段階での論理的なバグを取り除き、品質を数理的に保証するもの」と述べる。

 形式手法とは、1970年ごろからソフトウェア工学分野で研究が進められてきた手法である。数学理論をベースに要求仕様を記述し、成果物を検査する(形式検証)。仕様変更も数理的に正しく処理されるので、品質を確保できる。そのため、航空宇宙や鉄道、原子力発電など、社会インフラ分野のソフト開発で用いられる。

 ただ、形式手法には「形式仕様記述言語」と呼ばれる特殊な言語を用いる必要がある。一般の技術者には敷居が高く、民生分野ではそれほど普及していない。キャッツはその敷居を下げようと考えている。同社が産学官連携で開発を進める状態遷移表モデル検査技術では、「形式仕様記述言語を使わなくとも、ZIPCの状態遷移表で作成したモデルを形式検証できるようにする」という。

 同技術は実用化のメドがほぼ立っているようで、かなり近い将来、商用ツールとして登場してきそうだ。提携した九州大学には、形式手法研究の第一人者、荒木啓二郎教授が在籍しており、どのような成果が生まれてくるか、興味深いところである。

 キャッツは、大学(研究者)とのネットワーク作りにも力を入れており、それが今回のような産学官連携を生んだ。最近の研究者には“象牙の塔”にこもらず、自分たちの研究成果を実ビジネスで実証しようという気運がある。一方のキャッツは、ソフトウェア開発の品質や生産性を上げる工学的な方法論をツール製品に反映させようとしている。思いが一致する。

 上島社長はソフトウェア業界全般に向けて、こう提言する。「ハードの人たちは、品質、生産性をギリギリまで高めようと、昔から研究者とどんどん連携してきた。それに対し、ソフトの人たちは自分たちの経験則に頼り切り、外に目を向けていない。痛みが伴うが、いままでのやり方を見直す時期に来ている」。


ツール文化を伝導する

「ソフトの世界はまだまだ」
「ソフトの世界はまだまだ」

 「品質を100%保証する方法論の確立」といった派手な試みの対局で、キャッツが最近地道に力を入れ始めている事業がある。教育事業である。大手の機器メーカーの新人技術者教育にかかわり、ZIPCをはじめ自社ツール製品の操作指導を行っている。「ツールを使うのが当たり前という世界を広めてゆきたい。それには新人技術者から。ツールは方法論そのもの。方法論に従って設計する。この当たり前のことが、まだまだ十分に行われていない」。

 ZIPCを世に送り出すまで、キャッツは組み込みハードウェアが主体の開発会社だった。ハードウェアの世界を知る上島社長からすると、「ソフトの世界はまだまだ」とみえる。ドキュメント(設計書)と成果物の整合性を合わせる。こうした基本さえ十分に守られていない。ハードウェアの世界では、考えられないことだという。

 「ソフト開発は特殊だからといって、管理する側も開発者にしか分からないブラックボックスを許し、それが彼らの立場を守ってきた。ソフト開発は自由度の高いものだが、品質を考えれば、ブラックボックスで良いわけがない。“見える化”しなければいけない。見えてこそ、管理者もガバナンス(統治)できる」。

 ソフト業界に対して熱く語る上島社長だが、最後にこう漏らした。「ツールのビジネスは全然もうからないが、産業界の下支えとなる面白い仕事だ。会社の規模は急成長しなくとも、コツコツやっているわれわれのような存在があることを認知してもらえれば、それでいい」。

 世界をリードする日本の組み込み業界を下支えする層に、キャッツのように独自の方法論=ツールで勝負するベンダが存在することは、確かにもっと認知されてもよいだろう。

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