アックスの組み込みLinuxはほかと根本的に違う:組み込み企業最前線 − アックス −(1/2 ページ)
国内製造業を裏方として支えるハイテク企業が多く集まる京都。ここ本拠を置くアックスは、独自アーキテクチャの組み込みLinuxでユーザーのもの作りに深くかかわり、実績を伸ばしている。組み込み分野でのLinux普及を目指し、国産CPUへの対応を積極的に進める一方で、組み込みLinuxの可能性を広げる次世代OSも投入し始めた。
ザウルスに採用された独自組み込みOS
「先行していた組み込みLinuxベンダが次々と消えていった1〜2年前は、本当に大丈夫かと思ったが、いまではそうした不安もない。組み込み機器へのLinuxの採用は着実に増えている。とにかくLinuxのインストールベースを増やすことがわれわれの使命」。こう語るのは、アックス代表取締役社長の竹岡尚三氏だ。組み込みLinuxが注目されてから数年。気が付けば、アックスは組み込みLinuxでビジネスを軌道に乗せている数少ない国内ベンダの1つとなり、存在のユニークさは組み込み業界でも際立っている。
アックスの設立は1992年だが、竹岡氏は1985年ごろからUNIXに深くかかわっていた。オムロンの有名なかな漢字変換システム「Wnn」やX Window System端末向けのOS、TCP/IPなどの開発に携わっている。「もともとスパコンや並列計算に興味があった」というだけあって、同社設立前には1024PE(Processor Element)の規模を持つ超並列計算機のハード/ソフトウェアの設計開発にも加わっている。コンピュータ業界の中では知る人ぞ知る有名人である。
こうしたバックグラウンドを持つ竹岡氏が、主に超並列計算機の開発を目的に興したのがアックスだ。その名前を組み込みソフトウェア分野で一躍有名にしたのは、同社のマルチタスクOS「XTAL(クリスタル)」をシャープが同社のPDA「ザウルス」に採用したことによる(1996年)。基本機能に特化したマイクロカーネルであるXTALは、ファイルシステムやデバイスドライバ、ネットワーク機能はサーバモジュール(一般プロセス)として本体の外で動作させる。そのためOSが身軽となり、デバイスドライバの開発も容易なのだ。XTALはオリンパスのデジタルカメラにも組み込まれおり、その累計出荷台数は「3000万台以上に達している」という。
その当時、汎用OSとしてはインターネットとの親和性が高かったBSDを扱っていたが、世の中のすう勢に合わせてLinuxへ徐々にシフトしていく。その結果、2000年3月には、ザウルス上で動作するLinux「zxLinux」を開発して話題を呼んだ。XTALの一般プロセスとしてLinuxが動作するハイブリッド構成だった。既存のザウルスの環境とLinuxを完全に共存させ、リアルタイム処理を実現したのだ。
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Linuxを徹底改良した組み込みOS
zxLinuxの成功により、組み込みLinuxベンダとして歩み始めたアックスは2001年、独自の汎用組み込みLinux「axLinux」を開発、発表する。それは、一般的な組み込みLinuxと一線を画すものだった。竹岡氏は「通常、組み込みLinuxベンダは元のLinuxにほとんど手を加えない。われわれはLinuxの中身が分かっているから、組み込みに適するように徹底して手を入れている。ほかの組み込みLinuxとアーキテクチャが根本的に違っている」と自信を見せる。
axLinuxの大きな特徴は、組み込み用途に向けて必要メモリとコマンド群を極小化しているところだ。axLinuxが動作するための最小メモリサイズはROMが1Mbyte弱、RAMが4Mbytes。このROM/RAMだけで実行可能である。カーネルもROM化でき、ブートシーケンスやシャットダウン手続きをなくせる。
また、マルチメディア機器での利用を想定し、2Gbytes超のファイルが扱え、インターネット接続でPPP/Ethernetをサポート。セイコーエプソン、キヤノンとの提携により、インクジェットプリンタをサポートしている点も組み込みLinuxでは世界で唯一という(非x86系プロセッサ向けに限る)。CPUパワーをプロセスごとに振り分け制御するQoS(Quality of Service)機能もカーネルに実装している。
さらに、Linuxのスケジューラをチューニングしている点は、マルチメディア機器で利用するうえでは見逃せない大きな特徴だ。これにより、複数タスク動作時の動画再生が通常カーネルよりスムーズに行える。Linuxを組み込んだマルチメディア機器で動画をソフト再生する場合、かなり高速なプロセッサを搭載していてもコマ落ちがよく起きるといわれる。標準スケジューラには、一部プロセスに実行権を長時間割り振るという構造的な問題があるからだ。それに対してaxLinuxは、スケジューリングポリシーを動的に変えられるようにするなどして、この問題点を改善している。
「われわれのテストでは、通常スケジューラで1秒当たり2〜3コマ落ちる条件下でもaxLinuxは3分に1コマしか落ちない。この点が評価され、これまでホームサーバや監視用のネットワークカメラ、データプロジェクタなどに採用してもらっている」。監視用カメラなどはコマ落ちが許されず、安定稼働が求められる。こうした機器への採用は、axLinuxの組み込みOSとしての性能と信頼性の高さを示すものといえるだろう。
シャープは2003年から発売しているホームサーバ「ガリレオ」にaxLinuxを組み込んでいるが、開発当初は別ベンダの組み込みLinuxの採用を予定していた。それが開発の最終段階になっても動画再生のコマ落ちなどの問題が解決できず、結局アックスにサポートを求め、axLinuxに切り替えたという逸話がある。
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