深刻化する人手不足、変種変量生産や脱炭素への対応など、製造業を取り巻く課題は一層複雑化している。今求められているのは変化に強く、持続可能な生産体制への進化だ。三菱電機は、長年培ってきたコンポーネント技術とデジタルソリューションを融合させることで、こうした課題の解決に挑んでいる。「IIFES 2025」では、新製品の「MELSEC MXコントローラ」を搭載したGPUユニット組み立てデモを中核に、最先端のFAソリューションおよび機器群を出展する。同社の次なる一手を象徴する、意欲的な展示構成の見どころを紹介する。
製造業を取り巻く環境は、かつてない速度で変化している。人手不足が深刻化する一方、エネルギー価格の高騰や資源の切迫、カーボンニュートラルへの対応といった構造的課題も顕在化。さらに消費者ニーズの多様化により、柔軟に需要変動へ対応できる変種変量生産への転換が求められるようになった。
生産現場は、熟練技術者の減少、設備の老朽化といった課題が複雑に絡み合い、従来の部分的な改善では限界を迎えつつある。製造業全体に求められているのは、いかに持続可能で競争力のある生産体制を築くかという根本的な変革だ。その鍵となるのが、現場と経営をつなぐデータとAI(人工知能)を中心とするデジタル技術の活用である。
こうした時代の流れに対し、三菱電機は20年以上にわたりデジタル化による生産革新を推進してきた。同社のFA事業部は、シーケンサ、センサ、産業用ロボット、NC(数値制御装置)などを総合展開しており、2003年に始動した「e-F@ctory」構想では、シーケンサを基軸にMES(生産実行システム)やSCADAを連携させ、データ収集と可視化による品質/生産性向上を提案した。
その後、3Dシミュレータ「MELSOFT Gemini」を活用した「デジタルマニュファクチャリング」へと発展。近年は、SaaS型ソリューションとデジタル基盤「Serendie(セレンディ)」を軸に、設計から保守まで一貫した情報連携を推進し、人と設備の最適化を目指している。
三菱電機 インダストリー・モビリティBA戦略室 技術ユニット チーフエキスパート の吉田雅彦氏は、「これまで私たちはコンポーネントによる生産性向上に注力してきましたが、現場の負担は依然として大きいままです。そこでコンポーネントだけでなく現場の業務プロセスに着目し、コンポーネントから生まれるデータをエッジで収集し上位のシステムで分析/活用することでモノづくり業務全体を最適化する“FAデジタルソリューション”でモノづくりのDXを進めています。さらにデジタル基盤『Serendie』を活用し、当社の他事業部門で収集した電力情報やカーボンフットプリント情報を掛け合わせることで、GX(グリーントランスフォーメーション)に貢献していく循環型デジタルエンジニアリングを目指しています」と語る。
2025年11月19〜21日、東京ビッグサイトで開催される「IIFES 2025(Innovative Industry Fair for E×E Solutions)」において、三菱電機は「Automating the World 〜製造業に新たな価値をもたらす、三菱電機の先進技術〜」をテーマに、最先端のFAソリューションおよび機器群を出展する(東6ホール、6-16)。
MXコントローラをはじめとする最新コンポーネントを中心に、SaaS型のデータ活用ソリューションやAI(人工知能)技術を組み合わせ、設計・立上げ/製造/保守・保全の各フェーズをデータでつなぐことで、現場から経営層まで貫く全体最適を実現する姿を示す。
ブースの中核展示は、AIデータセンター向け水冷式GPUユニットの組み立て工程を模したデジタルマニュファクチャリング設備だ。装置正面では基板組み立てからGPUチップ実装、液冷ユニット組み立て、検査まで自動化。背面では分解、循環のプロセスを行い、組み立てからリサイクルまで一台で完結させる。
中枢を担うのは、2025年4月発売のFA統合コントローラ「MELSEC MXコントローラ」(以下、MXコントローラ)だ。高性能マルチコアCPUの搭載によってシーケンス/モーション/ネットワークの制御を統合し、最大256軸の多軸制御が可能となった。MXコントローラと複数の通信規格でつながった機器も、同期制御して組み立てを完遂する。
3Dシミュレータ「MELSOFT Gemini」とロジックシミュレータ「MELSOFT Mirror」によるデジタルツイン環境に加え、デモ機内の状況は次世代SCADAソフトウェア「GENESIS」によってリアルタイムに可視化されている。AI外観検査ソフトウェア「MELSOFT VIXIO」と、ヴィスコ・テクノロジーズ社のビジョンシステムの連携による高速検査も披露する。その他、新製品の表示器「GOT3000シリーズ」や次世代簡単小型インバータ「FREQROL-D800」、省エネ支援アプリケーション「EcoAdviser」、Nozomi Networks社のOTセキュリティ監視/可視化ツール「Nozomi Guardian」を組み合わせるなど多くの製品、ソリューションが盛り込まれている。
「データ収集を強化した、MXコントローラなどデジタルで先鋭化された機器から得られたデータをソリューション側で活用できる形に変換し、生産性や品質向上、省エネに結び付けていくという、FAデジタルソリューションを集約したデモになっています。全ての技術を導入していただく必要は無く、お客さまのお困りごとに応じた解決の糸口が見つかると思います」(吉田氏)
メインデモ機で実装される製品群は、設計・立上げ/製造/保守・保全といったエンジニアリングチェーンに沿って紹介され、各技術が生み出す価値を具体的に実感できる。
設計、立ち上げゾーンには自然言語からPLCの制御プログラムであるラダー言語を作成する生成AIが登場する。三菱電機ではシーケンサの開発当初からラダー言語を採用してきたが、近年はラダー言語で制御プログラムを作れる技術者が減少。ラダー言語で動いている既存設備も多い中で、熟練技術者の引退も相次ぎ、今後の保守などが課題となっている。
吉田氏は「このラダー生成AIは“進化”というより“継承”のためのAIです。熟練技術者の減少で、これまで蓄積されたノウハウの継承が課題となっています。参考出展となりますが、三菱電機のラダー言語をお使いいただいている顧客の資産を継承するAIを目指して、来場者の声をたくさんいただいてより良い製品にしていきます」と語る。
また、AIを活用して複数台ロボットの動作経路などを最適化するRealtime Robotics社の「Resolver」や、MathWorks社のシミュレーション環境「Simulink」で行った動作のシーケンサ向けラダー言語を生成するAI機能なども紹介する。
MELSOFT GeminiとMELSOFT Mirrorによるデジタルツインを活用した、メタバース空間での設計や動作確認も体感できる。VRゴーグルを装着すると目の前に広がる、迫力ある映像に注目だ。
FAデジタルソリューションゾーンは、稼働後の安定運用を支える生成AIとOTセキュリティを軸に展示。AIエージェントを活用し、三菱電機の塗装ロボットにおけるトラブルシューティングを効率化するデモを行う。トラブル発生時にAIが最適な対応手順を提示し、保守対応の迅速化と技術者の判断支援を実現する。
また、Nozomi Guardianを中心に、Dispel社によるセキュアなリモートアクセスサービスと、TXOne Networks社の不正侵入防御のソリューションを組み合わせ、ゼロトラストの考えに基づくOTセキュリティの多層防御を紹介する。会場のデモ機では、もし工場でサイバーインシデントが実際に発生したら、現場で何が起こり得るのかを目の当たりにできる。
三菱電機は2023年にOTセキュリティ事業推進部を立ち上げ、2025年には同社史上最高額でNozomi Networks社買収を発表するなど、近年OTセキュリティに注力している。吉田氏は「多種多様な機器が長期運用しているOT環境は可用性と機密性の両立が難しい。だからこそ、OTメーカとしてOTセキュリティに取り組むのは使命です。DX推進とセキュリティ対策は表裏一体であり、両輪で進めることで製造業のリスクの最小化に努めていきます」と語る。
製造ゾーンではMELSEC MXコントローラを核に、「パズルキューブを最速で解くロボット」で世界記録(当時)を達成した「TOKUFAST Bot」による超高速モーションデモを披露する。新型コントローラによって果たして、どれくらいの速さでルービックキューブの6面がそろうのか。
その他、同一ネットワーク内で複数の通信周期を運用できる「CC-Link IE TSN」の特徴を生かしたRoll to Roll搬送デモや、リニア搬送装置「リニアトラック」による高速搬送を実演し、次世代FAの変種変量ダイナミック生産の姿を提示する。
カーボンニュートラルゾーンでは省エネAI、蓄電技術、データ連携の3領域から脱炭素化への最新の取り組みを紹介する。省エネ支援アプリケーション「EcoAdviser」は、設備のエネルギー消費を解析し、AIが最適な稼働条件を自動提案。クラウド連携を強化し、工場全体の最適化を支援する。
新提案の工場ハイブリッド化ソリューションでは、鉄道向けの蓄電デバイス「MHPB(Mitsubishi High Power Battery)」を活用し、鉄道で培った高出力バッテリー技術を産業用途へ応用。工場内にあるインバータやモーターなどの回生ブレーキで生まれるエネルギーを蓄え、バッテリーに蓄え直流配電で再利用することで電力ロスを低減する。
また、NTTドコモビジネス社の通信環境を用い、製造データを欧州の自動車産業向けデータスペース「Catena-X」に接続し、サプライチェーン全体のCO2排出量を算出し、カーボンフットプリントにも対応する。
IIFES 2025への出展を通じて三菱電機が提示するのは、設計・立上げから製造、保守・保全、環境対応までデータで結び、全体最適を実現する“次世代FA”の方向性だ。
「生成AIは一過性のブームではなく、産業構造そのものを変える力を持っています。労働力人口の減少が進む中、2040年頃には無人運転タクシーが普及しているとも言われています。同じように、その頃には製造現場の無人化も進み、自律的に稼働する時代が訪れる可能性もあります。だからこそ今、そういった未来をバックキャスト(逆算)してコア技術を磨き、われわれが描いている製造業の未来予想図を予想で終わらせるのではなく、アグレッシブに挑戦することで、持続可能で世界を変えていくモノづくりをリードしたいですね」(吉田氏)。
会期中は三菱電機およびグループ各社によるセミナーを連日開催しており、初日(11月19日)には、吉田氏が「AIとデータが変える製造業の未来 ― 三菱電機の挑戦と展望 ―」をテーマに講演する(会議棟1階レセプションホールB)。
同日には名古屋製作所 所長の柴田剛志氏による「製造業の未来を切り拓く:世界の潮流とFAマザー工場としての挑戦」の他、同月20日に「FAデジタルソリューションへの挑戦:三菱電機の変革と未来ビジョン」、同月21日に「現場を変える:自動化・省人化・省エネを加速する三菱電機システムサービスのワンストップソリューション」など、多角的なテーマで同社の取り組みを紹介する(いずれもセミナー会場E)。
*GENESISはMitsubishi Electric Iconics Digital Solutions, Inc.の商標です。
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提供:三菱電機株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2025年12月11日