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AIを競争力に変えるには何が必要か、求められる「現場起点」の変革「mcframe Day 2026」レポート

生成AIやデジタル技術の進化が加速する中、日本の製造業では、AIを単なる効率化にとどめず、競争力向上にどう結び付けるかが大きなテーマとなっている。ビジネスエンジニアリングが開催した「mcframe Day 2026」の基調講演では、デロイト トーマツ パートナーの芳賀圭吾氏と、ビジネスエンジニアリング 常務取締役 プロダクト事業本部長の佐藤雄祐氏が、日本の製造業が持つ現場起点の強みを見つめ直しながら、デジタルやAIを活用して変化対応力をどう高めるかをテーマに対談した。

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 ビジネスエンジニアリングは2026年3月12日、主催イベント「mcframe Day 2026」を開催した。同社の製造業向けデジタルプラットフォーム「mcframe」の30周年を機に企画された同イベントでは「築き上げた力で、新たな未来を創る。」をテーマに掲げた。AI(人工知能)やデジタル技術を活用した競争力強化、データ活用によるイノベーション創出など、製造業が直面する課題に対する実践知が共有された。

 同イベントの基調講演の1つとして「日本製造業 AI活用を競争力向上につなげるには何が必要か?」をテーマに、デロイト トーマツのパートナーである芳賀圭吾氏と、ビジネスエンジニアリング 常務取締役 プロダクト事業本部長の佐藤雄祐氏が対談を行った。本稿では、その内容を紹介する。

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mcframe Day 2026の基調講演の様子

“優秀な現場”への依存が招いた属人化、デジタル化の障壁に

 対談の冒頭で佐藤氏は、日本製造業における設備投資の動向を紹介した。2000年代前半は国内外ともに設備投資が堅調に伸びたが、リーマンショック後は海外投資中心へとシフトした。その後、2015年以降は再び国内設備投資が増加に転じ、足元では大きく伸びているという。

 ただし、内容を見ると、設備の代替や既存設備の維持と補修が中心で、省力化やDX(デジタルトランスフォーメーション)、新製品やサービスなど、新たな取り組みにつながる投資はまだ限られている。佐藤氏はこうした現状を踏まえ「日本製造業の今をどう見ているか」と芳賀氏に問いを投げかけた。

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設備投資の内容[クリックで拡大] 提供:ビジネスエンジニアリング(出所:内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局「基礎資料」)

 これに対し芳賀氏は、日本の製造業は厳しい局面にあるとの認識を示す。事業環境の変化が大きくなる中で製造オペレーションの難しさは増しており、人手不足や熟練者の減少も深刻化している。さらに、欧米勢や中国勢は大規模な投資とスピードでデジタル化を進めており、中国の製造現場などでは、自動車産業を含め日本を上回る勢いで改善や高品質化が進んでいる。

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デロイト トーマツのパートナーである芳賀圭吾氏

 その上で日本の構造的な課題について「今まで問題解決を優秀な現場に頼り、会社としてお金をかけてこなかったことが大きな問題です」(芳賀氏)と指摘した。日本の製造現場では、多能工をはじめとする現場人材が、日々のオペレーションを回しながら問題解決も担ってきた。一方で、それを前提に経営が現場へ任せてきた結果、ナレッジが属人化しやすくなった。

 これに対し、欧米や中国では、現場は作業を担い、問題解決は本社スタッフが担うという役割分担を前提にしてきた。IoT(モノのインターネット)は現場情報を経営に吸い上げるためのものと位置付けられ、データをグローバルで集約しながら、AIで改善やナレッジ創出のスピードを高めてきた。こうした違いが、今の競争力の差につながっているとし「従来の日本の強みが今や弱みになり、デジタル化の波に乗り切れていません」と述べた。

 芳賀氏は、日本が欧米や中国と同じやり方をそのままなぞる必要はないとした上で、日本の強みを見直しながら、グローバル水準のスピードと変化対応力をどう実現するかが重要だと語った。

改善活動や意思決定までをデジタルとAIで支える工場へ

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ビジネスエンジニアリング 常務取締役 プロダクト事業本部長の佐藤雄祐氏

 続いて佐藤氏は、工場でもAIなどデジタル技術の活用が広がる中「製造業のオペレーションは今後どこへ向かおうとしているのか」と問いかけた。これに対し芳賀氏はスマートファクトリー化の本質について、以下のように説明する。

 「スマートファクトリーは、単なる製造工程の自動化や自律化を指すものではなく『デジタル活用の意思決定、組織体質の強化』と結び付けながら、変化に俊敏に対応し、競争力を継続的に高めていく製造オペレーションと組織の在り方です」(芳賀氏)

 スマートファクトリーには4つの段階的な成熟プロセスがある。まず、スマートファクトリー(SF)1.0は、データ処理や可視化の効率化、現場作業の自動化や省人化を進める段階だ。SF2.0では、現場事実データを起点に組織活動へデジタルを埋め込み、問題解決のスピードと形式知化を進める。SF3.0では、AIによる問題解決や意思決定支援を取り込みながら、組織のナレッジを蓄積し、進化をさせる。さらにSF4.0では、現場や設備がデジタルで再現され、仮想空間上で検証を含めた意思決定ができる世界が見えてくるという。

 デロイト トーマツでは、SF4.0の世界を「Software Defined Manufacturing」と位置付けている。そこでは、設備やロボットがフィジカルAIを通じて自律的に制御され、その結果がデジタルツイン上に反映される。現場や工場経営に関わる人々は、その情報を基にシミュレーションやトライ&エラーを重ねる。それにより、問題解決やイノベーションをより高速に進められる。

 「SF4.0の世界では、現場で発生したデータが、意思決定に使えるデータとして共通基盤で統合されます。それを効率的にマネジメントするインフラ、サイバーセキュリティなども重要になります。さらに、工場の中で発生しているデータだけではなく、ERPやSCM、PLMが持つさまざまなマスターデータや業務データもシームレスに統合されながら、工場全体のオペレーションを描いていく。そういう世界に、これから向かっていくのだろうと見ています」(芳賀氏)

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スマートファクトリーの成熟段階[クリックで拡大] 提供:デロイト トーマツ

 また芳賀氏は「こうした変化は組織の在り方にも及びます」と指摘する。中間的な管理や部門間をつなぐ役割は、業務面でもITシステム面でも必要なくなり、今後縮小していく。特にITシステムの世界では仮想化が進むことで、個別最適の運用よりも、全体を俯瞰して捉えられる人材の重要性が高まる見込みだ。「人員構成の変化に応じて、デジタル、IT、製造の各部門は、よりシンプルに統合されていく」と芳賀氏は今後の組織の在り方について述べた。

現場の事実を伝える1次情報で問題解決を高速化

 こうした変化を踏まえた上で、日本の製造業が持つ強みは今後どのように生かすべきなのだろうか――。

 芳賀氏は、日本の競争力の源泉として、変化点管理やなぜなぜ分析に代表される現場の改善力、改善事例を横展開する組織力、全体を俯瞰して課題を設定し人を動かす力の3点を挙げた。その土台には、現場主義や三現主義、生産技術や製品構造への深い理解、長年の経験に基づく知見の蓄積があるとする。「こうした強みを捨て去るのではなく、これを前提にデジタルをどう生かすかを考えるべきです」と芳賀氏は強調する。

 その具体策として有用なのが、SF2.0と3.0の考え方だ。SF2.0では「現場のありのままの事実を伝える1次情報」をキーワードとして挙げる。これは、IoTで取得した状態値を、設備停止やエラー、生産完了といった現場の出来事と結び付け、それがどのような前提条件や背景、4Mの下で起きたのかまで含めて、一連の意味のある情報として記録していく考え方だ。一般的な生産現場で行われている変化点管理と同様だが、これらを、人手を介さずデジタル技術を活用しながら自動で行えるようにすることがポイントだ。

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SF2.0のポイント[クリックで拡大] 提供:デロイト トーマツ

 さらに重要なのは、それを日々の業務の中で使うことだ。現場ごとに何を減らし、何を増やせば目標達成につながるのかを明確にし、日々モニタリングしてフォローしていく。そのための仕組みとして芳賀氏が挙げたのが「デジタルOODA(Observe、Orient、Decide、Act)」である。現場の事実を観察するところから始め、原因を考え、打ち手を決め、その結果をフォローする。このサイクルを、勘や経験だけに頼るのではなく、データを見ながら回していくことが、組織のナレッジ蓄積につながるという考え方だ。

 続くSF3.0では、こうした日々の活動そのものを組織のナレッジとして形式知化し、生成AIやエージェンティックAIなども活用しながら未知の課題に向き合える仕組みへ進化させていく。現場事実情報を起点に、問題認識、問題分析、課題設定、解決策策定、意思決定、実行結果、振り返りや学びまでを一連の製造ナレッジとしてつないでいく。その際に重要になるのが、製品構造、ものの作り方、設備構成といった基準情報との統合であり、BOM(Bill of Materials)、BOP(Bill of Process)、BOE(Bill of Equipment)に加え、製品要求や仕様情報や組織情報をデジタルスレッドとして結んでいく重要性を訴えた。

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SF3.0のポイント[クリックで拡大] 提供:デロイト トーマツ

アプリケーションとデータ基盤を分離し、現場の分断を乗り越える

 一方で、こうしたナレッジ活用を進める上では、データの扱い方も重要になる。IoTの普及によって現場データのデジタル化は進んだものの、依然としてシステムごとに情報が分断されており、出来事の背景をたどるには、人が複数のシステムをまたいで情報を探し、つなぎ合わせなければならないのが実情だ。

 これに対し芳賀氏は、分断を乗り越える一つの考え方として「アプリケーションとデータ基盤の分離」を挙げた。「従来は、生産管理、品質管理、設備管理、原価管理などのアプリケーションごとにデータが分かれていましたが、今後はアプリケーション側にデータを寄せるのではなく、データ基盤の上にデータを載せていく発想が重要になります」と芳賀氏は説明する。

 加えて人材育成については、まず「何が課題なのか」を定義する力が重要だと強調した。「QC工程図やIEなど、従来の改善活動の本質はまさにこういう活動にあります。デジタル化が進んだ今こそ、その基本を組織の中で伝えていくことが必要です」と芳賀氏は訴える。また、AIの使い方については「AIに答えを出させるだけでなく、問いを返させるような使い方が有効で、そうした対話の蓄積こそが組織のナレッジになっていきます」(芳賀氏)と語っている。

今が競争力復活への最後の分岐点、全体視点で変革を

 最後に芳賀氏は、日本の製造業が競争力を維持し、向上していくために必要な姿勢について、次のように語った。

 「今が競争力復活への最後の分岐点だと言っても過言ではありません。今後1〜2年をどう進むかによって、企業の立ち位置は大きく変わります。欧米追従でただITシステムやAIを導入するのではなく、自分たちの強みや競争力の源泉を見極めた上で、どう使うかを考えることが重要です。さらに、モノづくりに関わる方々には、工場の中だけに目線を閉じず、経営や周辺領域にも目を向け、全体視点でものづくりの変革に挑戦してほしいです」(芳賀氏)

 AI活用の成否が問われる今、重要なのは自社の強みを見極めた上で、それを競争力向上につながる形で生かすことだ。芳賀氏が示したのは、現場起点の強みを生かしながらスマートファクトリーを段階的に進化させるという考え方で、日本の製造業が次の競争力を築く上で重要な示唆につながるものだといえる。

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提供:ビジネスエンジニアリング株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2026年5月14日

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